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アニメの感想&批評

ワンダーエッグ・プライオリティ 第6話 感想・考察

ワンダーエッグ・プライオリティ 第6話『パンチドランク・デー』

基本情報

  • 監督:若林信
  • 脚本:野島伸司
  • 絵コンテ:篠原啓輔
  • 演出:山本ゆうすけ
  • アニメーション制作:CloverWorks

はじめに

ワンダーエッグ・プライオリティ第6話がとても面白かったので一つ記事を書いてみる。以下、不確定要素の補完は単なる私の解釈であることをご理解いただきたい。

総評

第6話は完全なアイ回。自分の母親と先生との交際を起点としてアイの心境の変化を描いていく。ストーリーや演出はこれまで以上に複雑で捉えづらい。そのため、ラストでアイが学校に行くと決意したシーンは一見唐突に見える。だが、一つ一つの要素を丁寧に拾っていけば、今までの展開で十分解釈が可能である。アイはメイン4人の中で救いたい人物の過去が最も不鮮明であり、最も動機があやふやな人物でもあった。だからこそ、ある一つのアイの意思を明確にした第6話は私にとって快いものであった。

ストーリー

まず時系列順にストーリーを並べてみる。

① 吉田ヤエ(エッグの子)を守ろうとするが中断する
② アイが母から先生との交際の話を聞く
③ 4人が集合しアカからポマンダーを貰う
④ 先生について4人で話をする
⑤ アイがワンダーキラーを倒す
⑥ アイが学校へ向かう

②の時点ではアイは母と先生が交際しようとすることに対してある種の負の感情を抱いていた。そして、アイが先生を引き止め、学校に行くと笑顔で意思表明したのは⑥。つまり、②から⑥の間にアイに何かしらの心境の変化が起こったということだ。


1. アイと先生

まず、母から交際の話を聞く場面。ここではアイは明らかに精神的ショックを受けている。すき焼きの具材が重い音を立てて注がれる演出は、そんなアイの重苦しさを強調する効果がある。

一旦、話の主軸から外れて描写の考察に入る。卵黄が豆腐と肉(と葱)を侵食していくように流れていく様子は、二人の関係に水をさすよそ者のよう。アイと母、先生と母、アイと先生。二人は誰でよそ者は誰か。私はアイの顔が生卵に反射している描写に注目し、アイ=卵黄と読み取った。つまり、アイがよそ者である。さらに、この時点ではアイは先生に嫌悪感などといった負の感情は特になかったのではないかと考える。もしかすると、本人は気づいていないが好きだったのかもしれない。仮にアイが先生を嫌っているとしたら、よそ者は先生と描写するはずだからだ。

ではどういった点が「よそ者」なのか。アイが先生に好意を持っているということを前提として述べると、母と先生の交際はアイにとって失恋とも言える出来事だろう。つまり、三角関係だ。母と先生がくっつくのであればアイは蚊帳の外であり、「よそ者」である。

とまあ、かなり根拠の薄い憶測を巡らせているが、この後の展開を考えればそこそこ的を射た回答だと私は考える。


2. ねいる

④では、ねいるが「アイは先生が好き」という仮説を立て、アイはそれに反対している。これがトリガーとなって、アイが自身の内面と向きあうこととなる。


3. 戦い

ヤエのトラウマ、すなわちワンダーキラーは、文字通り他の人には見えない怨念である。ヤエの数珠の効果により、見えなかったワンダーキラーが可視化される。その後、アイは戦いの最中に違う違うと自答し、ねいるの指摘に抗いながらワンダーキラーを撃破する。アイは数珠を持ち帰る。

ここでのポイントは大きく二つ。一つ目は数珠が何を象徴しているか。二つ目はこの時点でのアイの心理である。

一つ目。これは「未知との出会い」とか、そういう類のものを象徴していることは間違いないだろう。この戦いにおいて、数珠は見えないものを可視化するためのアイテムという役割を持っているからだ。二つ目。この時点では、アイはねいるの指摘に違うと答えている。つまり、それが正しいかどうかは別として、先生への好意はないとアイは思い込んでいるのだ。

数珠に関してもう一つ考えられる解釈は、葬式に持っていくものとしての数珠、というものもあるだろう。そこには、小糸の死と向き合うといったメッセージが含まれているかもしれない。ただ、小糸の死を受け入れていないアイの描写はこれまでの回からも特に読み取れない。そのため、今回に限っては、数珠は「未知との出会い」を象徴したものであると考える。


4. ラスト

アイは数珠を持って学校に向かって走り、先生に「学校行きます」と宣言する。ここに至るまでの内面の変化の過程がかなり分かりづらい。なぜなら、第6話を単に「アイが学校に行くと決意する話」と考えると、かえって物語の真意が掴みづらくなるという特殊な事情を抱えているからだ。この回をそう捉えてしまうと説明不足の点が多く感じるだろう。

・アイが学校に行く目的は何か
・なぜアイは突然走り出したのか
・なぜアイは笑顔なのか

アイは何のために学校に行くのか。先生が家に来ないようにするためなのか。はたまた、小糸の幽霊の存在を信じて探しに行くためなのか。まあ、無くはない。ただ、あと二つの疑問に対しては、「アイが学校に行くと決意する話」だと考える限り答えは出ないだろう。

果たして今回はどういうエピソードなのか。私は、「アイが未知の探求を決意した話」であると考える。これを論じるため、具体的にシーンを追ってみていく。

前述したとおり、数珠は未知との出会いを示唆している。そして、戦いの時点ではアイは自分の気持ちに気づいていない。

アイの内面が明確に変わったのは、母がポケットの中の数珠に言及した瞬間である。この瞬間、アイはあることに気づいた。それは、「分からないことは実際に見てみないと分からない」ということだ。

ねいるに指摘された先生への好意は、アイにとっては未知の存在であり、本当に好きかどうかという問いに対する答えをしっかりと見つけていかなければならない。そして、小糸を救うことにおいても、小糸と先生の過去は知っておかなくてはならない。だから、アイはあの瞬間学校に行こうと決意したのだ。

アイはまだ小糸と先生の関係も知らないし、おそらく先生への気持ちにも気づいていない。だが、アイはそういった未知の部分を知ろうと決意した。それがアイの「学校行きます」宣言に伏せられた真意なのである。

これまでアイは未知に対して無頓着ではないものの、知覚の恐れからか知ろうとすることを避け、内に閉じこもっている人物として描かれてきた。しかし、今回でアイの意思は明快なものとなった。片方の目に掛かっている髪をかき上げしっかりと両目で先生を見るという行為は、見ていなかったものを見ようとする意識の表れだろう。

学校に行く目的として、先生が家に来ないようにするため、というようなネガティブな打算が先にあったわけではない。「未知を探求する」という前向きな決意が、アイの笑顔となって現れたのである。


5. その他

ここからは、アイは本当に先生に好意を持っているかどうかについて考える。少なくとも、先生に対して悪印象ということはないだろう。

ラストシーンで頬を染めている演出。ここで判断するのは早い。というのも、学校に着いた時点で赤いので、走ったことによる火照りに起因するものだと考えられるからだ。

先生を呼び止めるときの腕の抱え方。こんな止め方普通はしないので、好意を持っていると考えるのが自然か。

あとはメタ的な視点。アイ以外の三人が救おうとしている人物について。ねいるの妹のトラウマはねいる、リカのファンのトラウマはリカ、桃恵の友達のトラウマは桃恵……。ならば、小糸のトラウマはアイ、と勘繰ってしまう。小糸の自殺理由は、アイと先生が仲良くしていたことによる嫉妬からなのか、まだ分からない。ただ、アイをトラウマと仮定するのであれば、もともとアイと先生は良好な関係だったと考えても良いのではないか。

私は、アイは先生が好きだという命題は真だと考える。アイは今後その気持ちを知っていくのではないだろうか。


6. まとめ

なかなか掴みづらいストーリーである。しかし、それはストーリー自体が散漫だからというわけではない。表層の部分では語られない要素が多く、初見では真意を汲み取ることは難しいだろう。そういう意味で、複数回観て欲しいエピソードだ。