波路を築く

アニメの感想&批評

ゆるキャン△ 

ハイクオリティ

概要

  • 2018年 冬アニメ
  • 原作(漫画):あfろ
  • 全12話
  • 監督:京極義昭
  • シリーズ構成:田中仁
  • アニメーション制作:C-Station

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はじめに

 原作未読。日付は2021年4月1日。なんと、今日は第2期の最終回が放送されるようだ。だが、本レビューは第1期のみ視聴した状態でのものとなる。ちなみに、シリーズ構成を務める田中仁、伊藤睦美は、いくつかの『プリキュア』シリーズも担当している。

キャンプ

 本作は(アウトドア)キャンプを題材とした、女子高生たちの日常を描くアニメである。主人公の志摩リンは、一人キャンプが趣味であり、誰かとキャンプしたという経験は皆無である。一方の主人公である各務原なでしこは、リンに出会ったことがきっかけでキャンプに興味を持ち、高校の同好会「野外活動サークル」に所属することを決める。

 さて、数ある野外活動の中でも、本作はキャンプを選び取った。その際には、キャンプをする人間の日常をしっかり描けているかが重要になる。その点では、文句なしの出来栄えだ。キャンプという題材から一切離れることなく、全てのエピソードで「キャンプアニメ」を貫き通している。具体例を言えば、必要なキャンプ用具についての話し合い、キャンプ中での食事、キャンプ中でのトラブル、景色の共有、キャンプ場に行くまでの過程……。キャンプをすることに伴う様々なプロセスを満遍なく描くことによって、キャンプ特有の楽しさや充実感といったものが、きちんと伝わる構成になっている。

 もう一つ評価できる点としては、適度にナレーションを用いてキャンプに関する知識の説明をすることで、ドラマ部分と実用的な部分がなるべく切り離されていることだ。仮に、キャンプに関する知識とドラマ部分とを織り交ぜる形をとると、いざその知識が詳しくなればなるほどキャンプの「案内アニメ」になってしまうというジレンマが生まれる。だが本作は、ナレーションを用いることによって、その危険性を上手く回避している。そして、本作が実際にキャンプ初心者向けの教本ビデオになり得るかというのも、これまた是である。事実、本作で述べられる知識はためになるものが豊富であり、実用的なアニメとして合格ラインを超えている。これを機にキャンプをしたいと思う視聴者が多くみられるのも頷ける。

日常系アニメ

 日常系アニメを評価するうえで、リアリティは欠かせない要素である。あまりにも非現実感が過ぎると、視聴者が作品の中に入り込めなくなるからだ。作品のリアリティを決定づけるのは、キャラクターの思考、行動が如何に自然かどうか、舞台設定に現実感や必然性があるかどうか、などといったポイントだ。特に、日常系アニメ同士を比べたときの完成度の差が如実に現れやすいのは、キャラクターの描写だろう。

 そういった意味で、本作のキャラクターは非常に人間らしい。また、一つ一つの描写にリアリティがあり、まるで彼女たちの何気ない生活をそのまま切り取ったような光景が映し出されている。その理由として、彼女たちの生活感が上手く書けている、というものが挙げられる。ここで一つ、彼女たちの人間らしさを良い意味で醸成している部分を述べていこう。彼女たちは、欲しいキャンプ用具を揃えるために、それぞれがお金を出し合う。主人公のなでしこは、貰ったお年玉をどうにかやりくりしようとし、志摩リンや同好会の他のメンバーはバイト代でお金を貯めようと尽力している。こういった描写から、彼女たちは本当にキャンプが好きなのだと分かるし、互いに助け合ってより良いキャンプをしようという、協調性豊かな一面も見れる。それに、彼女たちは未成年であるがために、足りないお金を何とかしようと頑張っている姿は素直に応援したくもなる。このように、本作のキャラクターは、多くの萌えアニメにありがちな視聴者に媚びたキャラ付けを一切することなく、人間らしさを上手く引き出している。

 また、本作はSNSの使い方が上手い。時代を踏まえれば、女子高生とは切っても切り離せないアイテムなのだが、アナログのキャンプとデジタルのSNSという組み合わせは本来嚙み合わせが悪い。しかし、これをストーリーに巧みに織り交ぜることによって、キャラクター同士のベタベタしない距離感を一定に保っている。むしろ、地理的に離れた者同士が程よい影響を受けるという表現は、SNSの無いひと昔前では難しかっただろう。そして、後述することだが、この距離感の表現はストーリーの完成度をも高めている。このようにSNSというガジェットは、リアリティを高めることも含め、一石二鳥の働きをしている。

ストーリー

 本作は、全体を通して一つのテーマを一貫したストーリーが展開される日常系アニメである。その内容は、オーソドックスな成長物語だ。簡単に説明すると、一人でキャンプすること(以下、ソロキャン)が好きな主人公が、皆でキャンプすること(グルキャン)の楽しさに惹かれた同級生と交流する。それを通じて、それぞれのキャンプの良さを認め合い、その後のソロキャンにも広がりが生まれる、といったところだろう。

 第五話。主人公が二種類のキャンプの差異に触れ、初めてその趣を共有し理解したエピソードである。特に素晴らしいのは、第五話に向けて、ソロとグルのそれぞれの良さを、「どちらが良いか」と比較することなく丁寧に描いてきたことだろう。その二項は、確かに接近してはいたものの同列に語ることはなく、ソロキャンが好きな志摩リン、グルキャンが好きななでしこ、といった距離感を一定に保っていた。このように、自分らしさを保ちつつも相手の良さを理解して、時にはそれを取り入れ変化するという、ベーシックな人間像を描いているため、先述したキャラクターの人間らしさにも直結してくる。また、この第五話は、ストーリーの節目として重要な役割を果たしている回でもある。この回で、二人は今まで気づかなかった良さ、すなわち未知の部分を知るきっかけが生まれたのだ。ならば、後半の流れとして、互いが良さを共有し互いに知らない部分をどんどん知っていく、という展開が予想できるだろう。そのような方向性が示されたとなれば、この作品が迷走することはもうありえない。このように、第五話は普遍的な人間を描いた回でありながら、今後の道標としても機能しており、非常によく出来た回だと言える。

 何であれ、本作は日常系アニメなので、煩わしい人間関係から遮断された安心できる世界で、気の知れた仲間で好き勝手やるのを眺めるという構造に準じている。だが、他作品と差別化出来る点が、まさに「ベタベタしない距離感」にある。つまり、とある価値観を共有する小さな集団に身を置くことで安心を得ようとしがちな「日常系」の邪な部分から離れ、異なる「善さ」の共有というテーマへと昇華している。この境地に達している作品は、そのジャンルを問わず意外と少ない。そういった寛大な気質こそが美点であり、同時に普遍的でもあるのが、本作の良点である。

雰囲気アニメ

 本作は日常系アニメであると同時に、雰囲気アニメの側面も強いということも忘れてはならない。ここでいう雰囲気アニメとは、単なるストーリーの面白さよりも、作品が持つ心地よい空気感を重視し、その雰囲気を直感的に楽しめるアニメのことである。

 その完成度の高さを裏付けるにあたってまず注目されるべき要素は、美術面と音楽面の二つだ。まずは美術面について。注目すべき点は、背景美術において実写を加工して使っていることだ。この場合にありがちなのが、アニメ絵と背景とが同一の画に並ぶ際に、デフォルメされた部分とそうでない部分で絵柄の乖離が起こり、違和感が残るということである。しかし、本作は陰影のつけ方が上手く、キャラクターデザインとの親和性にも気を遣っているため、そのような欠点は見当たらない。つまり、景色のリアリティと画の統一感を両立しているということだ。その美術が、作品全体のほのぼのとした雰囲気と相まって、無類の「素朴感」を表現出来ている。これは、実写背景の成功例と言えるだろう。続いて、音楽面について。立山秋航の手掛けるBGMは、まさに名盤と呼ぶに相応しいものであり、本作の雰囲気といかにもマッチしている。そんなBGMなのだが、使われている楽器は全てキャンプ場で演奏できるものだという、こだわりにこだわったものだ。結果、作品の持つ暖かな雰囲気を増幅させ、作品の質を高めることに成功している。そして、佐々木恵梨が手掛けるエンディングテーマ。非常にゆったりとした落ち着いた曲であり、本作との相性は抜群である。各話鑑賞後の心地よさは、他の雰囲気アニメと比べても全く引けを取らない。

 あと一つ、キャラクターの外見的な描写について語っておきたい。本作は豊富な作画枚数を活用し、登場人物の動作一つ一つに熱量を注いでいる。第一話でカレーメンを食べる描写を見ても分かるように、こんなに美味そうに食事をしているキャラクターは初めてだと感じるほどだ。食事シーンに限らず、あらゆる場面で表情、仕草をきめ細やかに描いており、キャラクターの魅力にも直結している。また、もう一つの褒められるべき特徴として、彼女たちを非常にオシャレに描いているというものがある。彼女たちはキャンプに行くたび、コロコロと髪型や服装を変え、しかもそのデザインセンスに富んでいる。それを眺めているだけでも楽しいし、何より彼女たちが一層魅力的に映る。

 ここで挙げた特徴は全て、目や耳で直感的に感じ取れるものである。つまり、本作は「何となく見ていても面白い」アニメだということだ。雰囲気アニメとして評価する際、これが最高の誉め言葉であることは、皆もご理解いただけることだろう。


総評

 「見ていて気持ちよくなれる癒し系の日常系アニメ」のフォーマットにおいて、ひたすらにクオリティを追求したような作品。ただ、一歩踏み込んだテーマがあるわけではないので、突き抜けた評価にはならない。




評価:★★★★★★★★☆☆