波路を築く

アニメの感想&批評

スーパーカブ 第2話 感想・考察

スーパーカブ 第2話 『礼子』

 

基本情報

  • 監督:藤井俊郎
  • 脚本:根元歳三
  • 絵コンテ:藤井俊郎
  • 演出:臼井篤史
  • 作画監督:芝田千紗
  • アニメーション制作:スタジオKAI

 

総評

第2話は、礼子の初登場回。礼子との出会いにより、小熊の心情の変化を丁寧に描いていく。サブタイトルにもあるように、今回の小熊の変化にとって最も重要な要素になるのが礼子である。ストーリー自体はシンプルで掴みやすいが、一つ一つの描写の意味を汲み取ろうとするとその解釈は多岐にわたる。

 

ストーリー

まず、時系列順にストーリーを並べてみる。

①[0:00]小熊がカブで登校する。
②[5:00]小熊が教室でバイク通学を打ち明ける。
③[8:11]小熊と礼子がバイクについて話す。それぞれが下校する。
④[12:28]小熊が登校する。
⑤[17:17]小熊と礼子が昼食を共にする。
⑥[18:35]放課後、小熊がいつもと違う道で下校する。

非常にシンプルなストーリーである。簡単に説明すると、小熊に新たにカブ仲間が出来て、人間関係や景色が広がっていくことに喜びと期待感を得た、といったところか。

注目して欲しいのは、今回のサブタイトルが『礼子』であることだ。これは小熊の心境の変化に礼子が大きく関わっていることを意味する。そこで、礼子と出会う前後で小熊の内面は具体的にどう変わっていったのか、一つ一つの演出に注目しながら述べていくこととしよう。

 

分析

1. 朝

①は小熊が登校する場面、④は起床から登校するまでの場面。

[2:11]カブのバックミラーで自分の髪を気にする小熊
バイク通学に対する周りの反応を気にかける様子が描かれている。この時の小熊は、期待感というよりは不安などといった負の感情のほうが強めだ。ところが、

[12:57]朝のラジオを聞く小熊
第1話にはなかった光景である。前日の夜に「話しかけてくるのだろうか」というモノローグがあったことから、礼子と会話する際の話題探しのためにラジオを流していたのではないかと推測する。

ともかく重要なのは、前日の朝とは異なり、小熊に学校生活に対する期待感(今回で言えば礼子との会話への期待感)が少なからずあるということだろう。


2. ラスト

[20:35]第1話で行ったコンビニ
[22:11]バックミラーに映るスーパーマーケット
小熊の世界が広がったことを表現している。バックミラーに映る店は、「明日来るべき場所」として効果的に印象付けている。

他にも、色づく演出とか劇伴の使い方とか小熊の表情とか面白いものもあるが、極めて直接的な表現なので、わざわざ述べるほどのことでもないだろう。

ここで思い出して欲しいのが、今回のサブタイトルである。本作は、小熊の内面にはとことん寄り添い、その代わり礼子やほかの第三者の心情は一切語らないという特徴がある。そのため、何を礼子の心理描写のヒントとし、如何にそれを読み取るかということについては、各視聴者によって分かれることだろう。


3.礼子

礼子はカブで登校した小熊に興味を持ち、積極的に話しかける。
[8:17]カブの知識をしゃべる礼子

同じカブ仲間として、親しくなっていく礼子と小熊。だが、翌日の礼子の態度を見ると、一見違和感を覚える描写があるだろう。具体的に挙げると、

(Ⅰ)[16:00]小熊の挨拶をしっかりと返さない礼子
(Ⅱ)[18:49]小熊を見ずに帰ってしまう礼子
(Ⅲ)全体を通して小熊の名前を一切呼ばない礼子(「あなた」と呼んでいる)

上記の礼子の行動や小熊との距離感はリアルで良いのだが、他人の誘いを断ってまで小熊を昼食に誘うほどの人間の行動にしては些か違和感を覚える。

ここで注目したいのは本作の制作陣が今回でどのような礼子を描きたかったかということだ。

その答えとしては、言うなれば「最強のカブガチ勢」をひらすら演出しきろうとしたのではないかと考える。

今回において礼子は、小熊に興味も持った人間というよりはカブが好きでたまらないキャラクターとして描かれている。(Ⅱ)、(Ⅲ)といった描写からも分かるように、礼子は必要以上に小熊を気にかけていない。また、(Ⅱ)では、もしかすると礼子は放課後カブで早くどこかに行きたかったのではという解釈も可能だ。

さらに、礼子は教室内において、昼食に誘われたとき以外には誰とも会話していない。つまり、あまり興味のない他人と親しくことには煩わしさを感じているのだろう。しかし、小熊にはカブがある。小熊と話すときもカブ以外の話題を口にしないことから、「最強のカブガチ勢」がより印象付けられる。

[17:23]サドルを叩いて「友達と一緒にね」という礼子
一応、礼子自身は小熊を友達と思っているという解釈で良いと考える。サドルを叩いて「友達と一緒にね」と言った場面から、礼子はカブを友達と思っているというのは間違いないのだが、その後二人が一緒に笑い合った場面から本質的に二人は友達になった、と考えてよいだろう。

だが、小熊との関係性を悪く思っていないのであれば挨拶を返さないのは少し不自然ではないだろうか、と疑問に思う。挨拶というものは人として道理の行為と考えている者もいるだろうから、程度によるが礼子の印象を下げる要因になりかねない。

ちなみに、続く第3話でも、礼子は「おはよう」と返していない。ここまでの徹底ぶりは、挨拶を返さないという演出・ストーリーが意図して行われているということだ。果たしてその真意は何なのか。

[15:13]いつもの駐輪場で礼子のカブを見つける小熊

結論から言えば、先に挨拶をしたのは礼子だったのではないだろうか。礼子は小熊を出会った翌日の朝、小熊がカブを停めていた場所付近にカブを止めて登校している。登校時間に二人のカブが並ぶ描写は初めてであり、続く第3話でもこの描写は描かれている。

つまり、カブをこの場所に停めること自体が、礼子なりの朝の挨拶なのだ。そして、教室でおはようという小熊は、挨拶を返す立場にいる。そのため、礼子はわざわざ「おはよう」と言わない。

これはあくまで礼子視点の話であるから、小熊自身は礼子との距離感にどこかやりづらさを覚えている、というのが表情や仕草から見て取れて面白い。