波路を築く

アニメの感想&批評

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第6話『心に茨を持つ少女』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第6話『心に茨を持つ少女』

←前回 次回→

はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

総評

第6話は、山田仁菜の過去が目玉の回。敵リフレクターの過去や思惑が少しずつ明かされ、ストーリーは着々と進んでいる。だが、仁菜側と陽桜莉側のストーリーはそれぞれ独立しているため、ストーリーの強度は高くない。第1話で仄めかされた謎も引っ張り出されたが、解明には至っていない。とはいえ、アニメ全体の構造的には面白い回である。次回以降の展開に期待したい。

ストーリー

まず、個別のストーリーを並べてみる。

ここでメインとなるのは、仁菜の過去と敵リフレクターの動向である。

①詩が仁菜に「フラれる」
②仁菜の過去が語られる(前半)
③仁菜が美弦のもとへ向かう
④仁菜の過去が語られる(後半)
⑤仁菜と美弦が心を通じ合う

また、サブのストーリーとしては、
(ⅰ)陽桜莉たちが祭りの準備をする
(ⅱ)陽桜莉たちが「マゾっ子ウタちゃん」を探す
(ⅲ)百が何かを思い出す
というものがある。

仁菜の過去と動機が明確になり、仁菜回としては上手くまとまっている。サブストーリーの(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)のいずれも次回以降に繋がる導線であり、気になる要素ばかりだ。不穏な要素を多く含んでいるという点で、続きがとても気になる展開である。

分析

前回の詩とは打って変わって、仁菜の過去には多くの尺がかけられた。そして、仁菜に関する情報はもう出尽くしたと言って良いだろう。

[9:22]ティッシュを口にする仁菜
[15:21]「望の部屋」で出てきた料理を眺める仁菜
すき焼きが出てきたときの、まるで未知の食べ物を眺めるような表情に注目。


1. バイロン

第6話冒頭と堂々と飾り、中盤にも度々登場し、遂には美弦の口からも放たれるバイロンの詩。仁菜は「バイロンの詩」を糧に生きる希望を見出していく。

第6話はバイロンの詩が大きな存在感を放ち、また仁菜の心情変化にも直結しており、構造上極めて重要な要素である。そのため、なぜ他の詩人ではなく「バイロン」なのか。 仁菜はバイロンのどのような部分に感銘を受けたのか。これらの問いに対する明確な回答を用意しなければならない。

私はバイロンのバの字も知らなかった人間なので、彼について調べることにした。

バイロンはイギリスの詩人。圧倒的な詩の才覚により名声を得、彼自身の厭世や憂国を背後に、公然と当時の政治体制を批判したという。1823年にギリシャ独立戦争に身を投じ、彼は全力を尽くして反乱軍兵士の装備に力を注いだそうだ。

後の多くの詩人に影響を与えることになるバイロニズムは、古典主義の対概念として捉えられるロマン主義がもとになっている。彼の詩は、社会風刺的な側面がありつつも、その奥にはロマンティックな精神(此処ではないどこかへの希望)がしっかりと綴られている。

では、一方の仁菜はどうだろうか。

彼女も幼いころから精神的、物理的な痛みを味わい、深い傷を負っている。外の世界とつながる唯一の窓口であるテレビを通じて、世界の現実を知ってまた絶望する。同時に、それが自身の母を憎み切れない要因にもなっている。

彼女がバイロンの詩集に見出したものは、心の内に深い厭世と憂鬱を持ちながらも、その先に望んだ景色があるのではないかというロマンティックな精神、理想主義の精神である。

仁菜はバイロンと同様の現実に対する煩わしさを持ちながらも、自分のような人間を減らすという目的でフラグメントを抜き取っている。

バイロンの詩集は、たとえ自分がどんなに深い傷を負っていても、たとえ母や”望”といった希望を失いつつも、自分には出来ることがあるはずだという強い心の支えとなっているのだ。


2. 詩と仁菜

詩の「温さ」を指摘して突き放した仁菜。

快楽として痛みを求める詩と、痛みによって心に深い傷を負った仁菜が衝突するのは必然だったのだろう。

仁菜自身これ以上ない”痛み”を経験しているため、詩にそれを経験させたくないという心配もあったのかもしれない。

母親譲りの口調が詩に対してのみ使われている点からも、詩への思いやりというものが伺える。


3. 終盤

「ユリ承認」の波動により、百は何かを思い出したようだ。

フラッシュバックした映像は第1話冒頭で描かれたものであり、百と美弦は異形(原種?)を前に共闘している。百の頭の奥に埋まっていた記憶として演出されており、これが過去の場面である確率は高い。それこそ、別世界線の記憶が思い出されたというループものの可能性もある。(シュタゲのリーディングシュタイナー的なやつ)

個人的に最も腑に落ちる解釈は、過去に百がフラグメントを抜かれていて記憶を失っているというものだ。百のスマホに美弦の写真があったことや、元からリフレクターのシステムを知っていたことが説明できる。

※追記
スマホに美弦の写真がある描写は多分なかった&リフレクターのシステムはAASAから情報を得ていると考えると、百がフラグメントを抜かれていることに対して何の説明にもならない。やっぱり、ループ構造が一番しっくりくるか。

[23:54]「ふざけんな!」という百
私は百の「ふざけんな!」というセリフに注目した。というのも、存在したはずの過去を思い出した人間が普通言う言葉ではないと感じたからだ。

この言葉には怒りのニュアンスが含まれているが、何に対しての怒りなのかと考えると、その解釈は多岐にわたる。今までこの過去を思い出せなかった自分自身に対する不甲斐なさなのか、過去を忘れさせた「何か」に向けているのか、美弦に対して怒っているのか、世界の真実に直面したときの絶望から出た言葉なのか、これ以上思い出せずそのモヤモヤから出た言葉なのか。

直前に「なんだ今のは......」 と啞然としていたことから、自分の過去を思い出し切れていないことは確実だろう。

美弦と契約した仁菜もまた、驚きの表情を浮かべているが、心の奥に一体何を見たのか非常に気になるところである。

補足

新しく登場した伏線について。

1. 仁菜のキャリーケースには何が入っているのか
母は、そのキャリーケースを「家」と称した 。

2. 仁菜は短冊に何をお願いしたのか
[7:39]短冊に書きかけの時に母に呼び止められる仁菜

3. 百は何を思い出したのか

4. 仁菜は美弦の心の奥に何を見たのか

今回のエピソードは、完全な仁菜回でありながら、翌日に控えた七夕祭り、百の記憶と美弦との過去など、次回以降に繋がる導線をばらまいている。これでは、次回が気になって仕方がない。

あと、バイロン詩集というものを買ってみた。 意外と読みやすい。



以上で、BLUE REFLECTION RAY/澪 第6話『心に茨を持つ少女』 のストーリー分析を終える。