波路を築く

アニメの感想&批評

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 感想(初日)

一回では物足りない。複数回見ればきっとそれだけ新たな発見がある。二回目以降やるか分からないけど一回目見た時点での雑な感想を置いておく。


ネタバレなしの感想

圧倒的な熱量と狂気を浴びせられる二時間。色彩や演出もバチバチに決まってて、最大瞬間風速で一気に全身叩きつけられる感覚が心地よい。堂々たる作家性を存分に発揮し、古川知宏ここに顕在と言わんばかりのオリジナリティを魅せてくれた。

作画やサウンドはさることながら、キャスト陣の歌唱力演技力も割増で大満足のクオリティだった。その進化は、物語の時間軸も進み成長した舞台少女の姿とリンクするものがあって感慨深い。これは劇中劇とは異なる『オーディション』の特殊性、メタ視点を活かしきった本作特有の感覚だろう。

TV版と同様、キャラクターの特濃の奥行きを引き出す配置関係も完璧で、群像物語として圧倒的な説得力がある。その中でひと際目立つのが愛城華恋で、彼女の決意の物語がド真ん中を突っ切っていった本作。それでも主役だけを立て他を埋没させることはなく、推しが誰であっても充実したものだったと思う。


ネタバレありの感想
(6/11追記)公開から約一週間経ってしまった......。初日にメモしてあることをまとめるだけだから実質初日の感想。

大前提として、うろ覚えだったり覚えていなかったり勘違いしていたりするシーンが結構あるため、何言ってんだこいつ状態になってしまうのはご容赦いただきたい。


1. 9人の舞台少女

TV版スタァライトは、華恋が主人公の物語というよりは、9人の舞台少女の物語という群像の側面が強かった。今回の劇場版は、主たるは華恋とひかりの物語であるものの、尺の半分(多分それ以上)をレヴューシーンに費やし、9人各々が抱えた葛藤をしっかり掘り下げてくれた。それは決して、TV版で成長した彼女たちを一旦未熟な状態にリセットし同じ展開を繰り返す焼き直しの手法をとったなどではなく、その変化を認めた上で描き切っていない部分を探しどう見せるかということに注力していた。それゆえ、レヴューシーンの決闘の組み合わせはいずれもTV版と異なるものであり、勝敗すらも全く予想がつかないような新鮮なものであった。そんなワイドスクリーンバロックであったことが、大変嬉しかったのだ。


2. 星見純那

最推しの星見純那がどう活躍するかを楽しみにしていた私にとって、純那とななのレヴューは目が離せないわけだが、事前に高まったハードルをゆうに超えてきた。

星見純那。TV版では1話2話とオーディションで敗北するという、言わば「負け役」だった彼女。それを現実に写し取っても決して誤りという訳ではなく、彼女なりに舞台の頂上を目指すも他のメンバーの煌めきに届くことは無かった。

そんな純那ちゃんが、スクリーンバロックでは唯一武器を持ち替える。舞台少女の武器にはそれぞれ個性があって、短剣だったり二刀流だったり斧だったり薙刀だったり弓だったりする。これは単なる記号的なキャラ付けという訳ではなく、演者としてそれぞれが持つ強みが違うということも示しているのだろう。だが、彼女はその武器を捨てて新たな武器を持った。それは、演者となる上で培ってきた自分の強みを手放して、別の道を歩むことを決意した彼女の姿ではないだろうか。他のメンバーが演者の道を進む中で、彼女は自分が最大限輝ける場所を見つけ目指すと決意した。それは何度負けても諦めずに煌めきを探し続けた結果だ。

一方のななは過去の煌めきに囚われ続け、時が戻らない限り届かない方へと憧れを寄せる。そこでななに向けられた純那の決意は、純那自身を主役たる存在へと昇華させるものであり、過去に閉ざされたななに新たな煌めきが差す。だからこそ、純那がななを打ち負かす結果には納得がいく。そんな感じの純那ななのレヴュー。いやーとても良かった。


3. 愛城華恋

レヴューシーン以外の多くの尺は華恋とひかりの過去に充てられる、という劇場版の構成。二人の過去が濃密に語られたことによって、ワイドスクリーンバロック最終章は最高潮の盛り上がりを見せてくれた。

二人で目指せトップスタァライト、それを終えた先に何があるのか。端的に言えばこんな感じのストーリーで、「卒業」がテーマとなっている本作において、華恋は一体何から卒業したのか。

第100聖翔祭を終えるまで、彼女はひかりとトップスタァになるという約束を信じ続け、結果として二人は見事に演じ切った。その後彼女は、ひかりのいない舞台に何一つ充足満たせず、何も目指すもののない空虚な存在になってしまう。提出された白紙の進路表が、「約束」に囚われ続けた彼女の内心を表しているのだろう。

こんな感じのキャラクター造形、どっかで見たぞ……と思い浮かべたのが『Persona4 the Animation』の鳴上悠と、『やがて君になる』の七海燈子だった。これらの人物に共通するのは、とある大きな目標があってそれが達成されたらを自分は自分でいられるのか、「空っぽな存在」となってしまうのではないか、という問題提起がなされたことだ。

華恋の話に戻すが、それが具体的にどういった経緯で解決し、「アタシ再生産」に至ったのかは実際のところよく分からない。とはいえそれはそれで結構。そもそも根拠なしに気が晴れることもあるし、意図的にそこら辺あえてぼかしている感じもする。まあ、もう一回見ればいい話だ。


4. 卒業

華恋の曖昧性とは裏腹に本作が持つテーマ性というものは、幾分かハッキリしていたと思う。これは公式から明言されている通り「卒業」であり、舞台少女たちは、愛城華恋は一体何から卒業するのかという問いを投げかけてきている。そこにはおそらく色々な解釈の余地があって、受け手には受け取り方の自由が保障されているとは思う。それで、私が考えるに「他の力を借りることや他人に従属することからの卒業」、言い換えれば「自立」というテーマは、今回劇場版の本筋となっているのは間違いないだろうとみている。

レール上を走る「列車」のシーンが度々あった。華恋の乗る列車だけは止まることなくずーっと走っていたような。ひかりとの約束があるうちはきっと降りる駅が決まっていて、その駅を目指すうちは自分を見失わずに済んでいた。「約束タワー」の鉄骨をレールに見立てて列車を走らせるっていう最高の場面があったんだけど、頂上(約束の場所)に達したときに華恋は目的を見失うことになる。

そこでひかりとのレヴューになるわけだが、結果的には「約束タワー」を真っ二つにする。一種の呪いとして華恋に付きまとっていたひかりとの「約束」に囚われた自分を否定する。そして、自らの意思で舞台少女の道を進む、まさに「アタシ再生産」となるわけだ。

自らの意思でっていうのがポイントで、今回のメインエピソードを飾る華恋の決意だったり、偉人たちの言葉を引用してきた純那ちゃんが「他人の言葉じゃダメ」といってななを突き動かしたり、それぞれが進路表について先生と面談したりと、「自立」を思わせる描写が至る所にあった。多分、そういう話だったんじゃないかな。


5. 運命の否定

ここから先は妄想の域を出ない。私は、裏のテーマとして、「誰も予想がつかない煌めき」を崇高なものとする、いわば「運命の否定」というものがあったと考える。誤解を生まないように述べておくと、「運命論」を否定することではなく、示された未来に向かっていくのは面白くない、というスタンスを一貫して取っているということだ。

二つのキーアイテムを参照したい。「ひかりが華恋に渡した手紙」と「約束タワー」である。ひかりから託された手紙は、華恋にとって、二人でトップスタァを目指す夢を与えてくれるもの、逆説的には華恋とひかりの運命を縛り付ける呪いとして、何年もの間華恋の手元に置いてあった。「タワー」は頂上がある建物として、二人の目指す場所(運命の場所)を視覚的に分かりやすく表現するものであった。華恋が「ひかりはもう戻ってこないんじゃないか」と不安を感じた時の塔の頂上は、うっすらとぼやけていたりもした。「手紙」も「タワー(の頂上)」も、華恋とひかりの運命を示唆する一種の小道具であることは間違いない。

ラストのレヴューシーン。「手紙」は燃やされ、「約束タワー」は破壊される。先に述べた通り、これは華恋の決意を表す描写であるのは確かだ。だが、作品全体を俯瞰する形を取った場合には、「運命の象徴」を破壊するシーンであり、誰にも予想がつかない未来を示唆する描写と読み取ることも出来る。特に「約束タワー」に関しては、ただ破壊されるだけでなく、頂上が地面に突き刺さるような描写がなされており、「運命の否定」がより強調される形になっている。

メタ構造の話をすれば、キリンこそが我々視聴者の分身であり、キリンの主張がそのまま作品の主張になりうる可能性を帯びている。キリンが「誰にも予想がつかない舞台の煌めき」を探し求めているのは、TV版から一貫しているということはご存じの通りだろう。そこで、キリン→我々と置き換えると、「舞台」とは、まさに『少女歌劇 レヴュースタァライト』というコンテンツそのものであり、「予測がつかない『レヴュースタァライト』」が描かれる(示唆される)という結末は、非常に合点がいく。だとすれば、華恋の進路表が白紙であったのも、彼女の虚無を描いたものではなく、華恋が進む運命を一切描かないことによって、我々視聴者が自由に解釈出来る余地を与えていたということではないだろうか。そう、決められた未来は面白くないのだ。


6. 余談

予定より大分長くなってしまった……。とりあえず言えることは、もう一回見たいと心の底から感じさせる劇場アニメであったこと。素晴らしい作品を作ってくださったスタッフの方々に感謝。


やっぱり星見純那が好きだ。生徒会長だったというまさかの新事実。『恋×シンアイ彼女』の感想でメインに語ってるキャラもそうだけど、俺はきっと生徒会長キャラとか委員長キャラに滅法弱いんだと思う。