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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。遅くなり申し訳ございません。

基本情報

総評

第8話は、第7話と同様に陽桜莉回である。前回は陽桜莉とその姉の美弦がストーリーを牽引していたのに対し、今回は瑠夏がストーリー上重要な役割を担っている。内容的には前回と深く呼応しており、ぜひ7話8話と連続して見てほしい回である。

ストーリー

メインストーリーは以下の通り。
①陽桜莉が無理をして普段通りに振る舞う
②瑠夏が陽桜莉の姿に耐え切れず陽桜莉に説得する
③フラグメントが抜かれるのを二人が止めに行く
④陽桜莉が立ち直る

サブストーリーは以下の通り。
(ⅰ)百が美弦をバディであったことを確信し、皆に打ち明ける
(ⅱ)佳奈が自分を見失い、自殺を試みる
(ⅲ)陽桜莉が美弦との生活を思い出す
(ⅳ)仁菜と美弦がフラグメントの回収に向かう

大まかに言えば、前回第7話で陽桜莉が絶望した後の、そこから立ち直るストーリーである。陽桜莉が主役たる存在として、徐々に人格に色を帯びてきたと前回の感想でも述べたが、依然として欠けている要素があった。今回はその補完の役割を担う回でもある。

しばらく影の薄かった瑠夏が、今回では陽桜莉を立ち直らせるための反応剤となっている。決して自己完結的なストーリーにとどまらず、他者との関係性が主人公の成長物語に直結する構造が、今までの丁寧な積み重ねを一層実感させる。

分析

1. 陽桜莉の回想

まずはサブストーリー(ⅲ)に関して、陽桜莉の回想を見ていこう。

[18:00]「陽桜莉ちゃんち、かわいそうなんだって?」と聞かれる陽桜莉
ドストレートな語り口はまさに子供の無邪気さを物語っている。これを起点として回想が挿入され、陽桜莉の人格を際立たせる形となっている。

「お母さんがいなくなって、本当は悲しかった。だけどお姉ちゃんと一緒にいられることは嬉しくて、その生活をかわいそうと言われることが嫌で、人前ではいつも笑顔でいるように振る舞った。」

いわゆる「空元気癖」は小学生の時に既に具有しており、姉と最悪な形で再開した後も、他人を心配させまいと絶望を押し殺していた。結果的に、それが余計に瑠夏や都を心配させることとなってしまう。

[18:27]電球を付けようとする陽桜莉
この場面において、別に電気を止められていたわけではないことは、その後に生活の一部を切り取った場面が挿入されることから分かる。では、なぜ電球は付かなかったのか。

電球に関しては、第2話で一度言及されている。
[第2話 14:32]「母親は電球を買いに行ってそのまま帰ってこない」と瑠夏に話す陽桜莉
今では陽桜莉は新しい電球を買ったと話しているが、冗談交じりのこのセリフは、陽桜莉にとって電球がどういう意味を持つものなのかを浮き彫りにしている。

すなわち、電球は母の存在を意味するということだ。陽桜莉は第7話で百の冗談を信じていたことからも分かるように、素直すぎる性格なのだろう。小学生の陽桜莉は、家に帰るたびに母親が帰っているかどうかを確かめるべく、電球がつくか否かを確認していたのである。それは、当時の陽桜莉は母が戻ってくることを期待していたことを意味しており、電球がつかないことがそのまま悲しさに直結するわけだ。


2. 本題

さて、今回で具体的に陽桜莉がどう変わっていったのかを、これまでの展開を参照しつつ見ていこう。

陽桜莉について、前回までで分かったことを簡単にまとめると、「人の想いを抜き取るのは悪い」という陽桜莉の理念は、姉の存在によってもたらされているということだ。陽桜莉の行動が、ありきたりな救済願望や道徳的規範に基づいているわけではなく、姉がくれた信念によるものであるということが、陽桜莉の個性を色づけている。

しかし、陽桜莉が主役に足りる存在になるためには、必要なピースが不足していた。一つは、「嫌な思いを抜き取りたい人にとって陽桜莉の行動は救済とはならない」という主張に(作品が)反論できていないこと。二つ目は、陽桜莉自身が何をしたいかが分からないことである。第8話はまさにこれらを補完する役割を持っており、作品全体の根幹を成していると言えるだろう。


一つ目について。前回は「思いを抜き取りたい人のフラグメントを抜いて何が悪いのか」と問いかけた。それに呼応するように、第8話ではしっかり回答を用意してきた。

それは、思いを抜かれた者は自分を見失う危険性を帯びているというデメリットがあるということだ。

[2:58]フラグメントが抜かれそうになった時の思いを話す都
自分が自分じゃなくなるような気がして怖かったと述べている。

[11:45]「何、したかったんだろう」と涙を流す佳奈
フラグメントを抜かれると、自分が何に苦しんでいたかさえ分からなくなるようだ。その苦しみは、佳奈が自殺を試みるほどだ。

このように、美弦たちの救済にも危うさがつきまとうことを示すことによって、単なる私欲のために動いていた陽桜莉の救済の正当性が生まれている。

この点に関しては、主役の陽桜莉の成長物語というわけではなく、作品として陽桜莉を主役に置いたことの妥当性を裏付けるストーリーとして機能している。


二つ目について。陽桜莉自身が何をしたいのかということと、リフレクターとして活動したいということは、根本的に性質が異なる。なぜなら、リフレクター活動の動機はあくまで姉の存在がもとになっているからだ。

では今回で、陽桜莉はどう変わったのか。変わるきっかけとなったのが、瑠夏の存在である。

ここで効いてくるのが、(ⅲ)のストーリーである。陽桜莉は、周りから押しかけてくる憐憫や同情から距離を取るために、自分は幸福であると演じ続けた。自分の中には押し殺してきた思いがあり、受け止めてくれる存在が姉以外にいなかった。

そこで、陽桜莉を一番近くで見てきた瑠夏や都は、陽桜莉の空元気にすぐ気づく。瑠夏は陽桜莉の抱えた闇を理解し、自分の思いを大切にして欲しいと説く。

[11:00]姉のことを分かった気になってたと話す陽桜莉
しかし、陽桜莉がこれで立ち直るのにはまだもう一つ壁があった。それは、信じてきた姉が前に立ちはだかってしまい、どうすれば良いのか分からなくなってしまったということだ。

[20:27]フラグメントを守る陽桜莉の手の上にそっと手を重ねる瑠夏
そこでもう一度手を差し伸べたのが瑠夏だった。一連の瑠夏の行動によって、美弦や友達が自分の思いを守ってくれたこと、自分が自分でいられたことに気づき、自分の思いを守ることを決心する。

涙まみれになるほどに自分の願いを語った陽桜莉を、受け止めてくれる存在が瑠夏である。今回の瑠夏の役割は、今まで自分の思いを殻に閉じ込め周りに対して演じ続けてきた陽桜莉の、内に眠っていた思いを受け止める存在であるといってよい。言い方を変えれば、ひたすら他人のためと固執し上辺を装っていた陽桜莉の皮相を破り、本当の陽桜莉を出現させる役割である。


3. 要素

以下はまとめとして、第8話ストーリーに散りばめられた要素を列挙し、それが物語を形成する上でどんな役割を持っているかを見ていきたい。

まず、主軸をなる要素は以下の通り。
(A)姉と再会したことによる陽桜莉の絶望
(B)陽桜莉の悩み
(C)陽桜莉の復活
これらは、ストーリーを突き動かす役割を持っている。(A)→(B)→(C)で陰→陽のストーリーとそこに至る過程という構図ができており、どれが欠けてもストーリーは成立しない。

次に、補足的な要素は以下の通り。
(D)瑠夏の説得
(E)陽桜莉の回想
(F)美弦の救済の問題点の提示
これらは、メインの要素あるいは補足的な要素を修飾する要素であり、ストーリーの奥行を持たせる役割を持っている。一応、これら無しでもストーリーは成立するが、ストーリーの強度は下がる。

(D)は、陽桜莉の抱えた問題を他者が説得することによって、自己完結的なストーリーに留まらせず、陽桜莉の成長物語の論理性を補強している。(E)も同様に、陽桜莉にはもともと特定の性質(空元気癖と呼んでおく)があったと補足することで、陽桜莉の悩みが発生する必然性を高める役割がある。

ただ、(F)については特殊であり、陽桜莉のストーリーではなく作品全体を補強する役割を持っている。先程述べたように、陽桜莉が主役であることの妥当性を生み出しているのだ。今回この要素を生んだキャラクターは、主に都と佳奈であり、配役のバランスも良い。

最後にその他の要素をまとめる。
(G)百の単独行動
これは、今回のストーリーには直接関係せず、次回以降の展開につながるものである。


補足

残された伏線や謎は以下の通り

①「原種」とは何か?
②「原種」の発生条件は?
③謎の少女二人の正体と目的は?
④「AASA」の正体と目的は?
⑤第1話で電車の音に搔き消された百のセリフ、何と言っていた?
⑥美弦の目的は?
紫乃の正体と目的は?
⑧フラグメントを抜かれて失った記憶は戻るのか?
⑨仁菜のスーツケースの中身は何?
紫乃の能力は何?
⑪美弦とAASAの繋がりはあるのか?


これで、BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』のストーリー分析を終える。