波路を築く

アニメの感想&批評

【ストーリー分析】美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』(感想・考察)

美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』

はじめに

原作小説未読。とても面白い回だったので記事にします。

基本情報

  • 総監督:新房昭之
  • 脚本:木澤行人
  • 絵コンテ: 川畑喬
  • 演出:徳野雄士
  • アニメーション制作:シャフト

総評

第7話は、眉美が真の意味で美少年探偵団の一員となる回である。屋根裏の絵画と講堂の巨大絵画という二つの謎に注目ではあるが、これらはあくまで副次的なストーリーに過ぎない。だが、いずれのストーリーにおいても「大切なものは目に見えない」というテーマは一貫しており、サブストーリーがメインストーリーを補強する役割もしっかりと担っているため、ストーリーの強度は高い。

前回の復習

前回の第6話『「屋根裏の美少年」その1』と連続する回でありながら、肝心な前回の記事がないので、少し復習するとしよう。


1. 屋根裏の絵画

眉美が屋根裏で見つけた絵画には、以下のような特徴があった。
①(学の発言によると)33枚が発見された
②世界中の名画から人の姿だけ抜き取ったような絵
③誰もが知る名画『モナリザ』がない


2. 推理合戦

美少年探偵団のメンバーは、上記の絵画について以下のような推理をした。

  • 双頭院学

この度発見された33枚の絵画こそが先に描かれた物であり、世界中の名画がこれらをベースに描かれた作品である。モナリザがないことは、かつてこの学園にレオナルドダヴィンチが在籍していたことで説明がつく。

荒唐無稽なことこの上ない。当然、それはないだろとツッコまれる。

  • 袋井満

模写でも練習でもなく、ベースとした絵を派生した全くの別物として仕上げた絵画である。

しかし、モナリザが含まれていることの説明がつかない。

  • 足利飆太

作者は人間を描くのが苦手だったから、人間を描かなかった。

モナリザがないことにも説明がつく。ただ、推理として美しくない。

  • 瞳島眉美

作者は名画を模写したつもりだったが、絵画に映る人間の姿が見えなかったために、結果として人間が描かれなかった。

しかし、そのような見え方をするような人間がいるとは思えない。そもそも、人間が見えないのではなく「人間の絵」が見えないのであれば、透視すれば真っ白になるはず。(満の指摘)

モナリザがいないことは、モナリザを描くときだけ全て透視してしまったからではないか。

犯罪者の詭弁のようだとツッコまれる。

  • 指輪創作

絵は最低でもあと33枚ある。

推理というよりは直感。

  • 咲口長広

作者は永久井こわ子と予想。講堂のデカい絵の作者が永久井こわ子であることから着想を得た。


3. 永久井こわ子

芸術家として評価される先生。芸術を表現するために問題行動を度々起こす。

赴任して最初にした仕事が講堂の巨大絵の制作である。

永久井こわ子の「犯行予告」について。永久井は学校のカリキュラムから美術の授業を無くすという決定事項を聞く。その後子供たちには美術が必要だと抵抗運動を続けた。

「美術を教えないような学校に子供たちはいるべきじゃない。だからその決定事項を実行するのであれば、生徒全員を誘拐する。」

結果、宣言を実行し、全校生徒を誘拐した。とまあ、これは言葉の綾なのだが、全校生徒が並んでいる姿が描かれた講堂の巨大絵から、全校生徒が全く描かれていない講堂の巨大絵へとすり替えたという意味だ。(実際はすり替えていないのだが、詳しくは次項で見ていこう。)


4. 瞳島眉美
このエピソードにおいて忘れてはならないのが、瞳島眉美という存在である。

[3:47]「仲間」という言葉を聞き、ハッとする眉美
「仲間としての自覚が足りていない」という眉美に発せられた満の言葉は、逆説的には「眉美は美少年探偵団の仲間である」とも解釈出来る。

眉美が、「仲間。それは私が通信機器以上に長年飢えていたものだった」といった通り、さりげなく発せられた満の言葉は眉美にとって大きな意味を持つ。

[16:08]自分の推理を「犯罪者の詭弁」と言われ、口ごもる眉美
直後に学のフォローが入る形。直前にも「らしくないことを言った」と内心で思う描写もあり、どこか「美少年探偵団」のメンバーとしてやりづらさを覚えている様子が伺える

あまり的確ではない推理をする→詭弁と言われる、という流れはチェックしておきたい。


ストーリー

さて、第7話に入ろう。

メインストーリーは以下の通り。
①眉美と札槻嘘が密会する
②美術室を改造する

サブストーリーは以下の通り。
(ⅰ)講堂の巨大絵のすり替えの解決
(ⅱ)屋根裏の絵画の真相の解決

絵画の真相の解決に注目が行きがちであるが、本質的には眉美回である。とはいえ、絵画の真相もミステリーとして面白いものがあるので、見どころの多い回であるといえよう。

解析

1. 密会

眉美とライの密会。「ペテン師」回の謎が一つ明かされたと同時に、美少年探偵団メンバーに対する眉美の素朴な感想が述べられ、それがラストシーンに繋がっていく形となっている。

眉美にしか見えないはずの人間をライがどうやって見たのかというカラクリは、見えないものが見えるようになる仕組みのコンタクトレンズによるものであった。ライが美観の持ち主であったわけではない。

[7:28]「大切なものは目には見えない」と答えるライ
「いろんなものが無駄に見えてしまう私には、大切なものが人よりも少なくなってしまうのだろうか」という眉美の語り。これが問題提起となって、今回の「大切なもの」を見つけるストーリーに繋がっていく。

[9:51]美少年探偵団のメンバーについて語る眉美
眉美は彼らを、気を遣わなくていい仲間、気を遣ってくれない仲間と述べており、それに「憧れている」とも述べている。

だが、実際のところどうなのだろうか。前回では、眉美は仲間意識が足りないと指摘されているし、自分の推理を述べる場面では生き生きとしていない様子が伺える。さらに言えば、今回の巨大絵の推理大会の直前では、「私ごとき」と自信を評し、期待を向けられないものだとも思っている。無意識下で美少年探偵団のメンバーと距離を置いているのが、現状の眉美ということなのだろう。

そんな眉美が、巨大絵の推理大会では自分が期待されていることを知り、見事的中の名推理を披露する。


2. 美術室の改造

[20:23]眉美の推理を名推理と言う長広
第6話の、出来の良くない推理→詭弁の流れと対比される形。

まず前提として、美少年探偵団のメンバーは既に眉美を仲間として認めており、眉美が名推理をしたからこそ眉美を仲間と認めたわけではないことは注意しておきたい。重要なのは、あくまで眉美の心理である。

[20:29]件のセリフに対する眉美の返答
「え?」の一言のみであるが、そう言われることが心外であったからこそ出る言葉だ。詭弁と言われて肩を落としたときとは異なり、眉美自身が自分の推理を認められていることを再確認する。

[21:47]天井絵と全員が映るカット
天井絵は星空である。星空とは、眉美が暗黒星を探し求めて見続けた景色だ。言わば星空(と暗黒星)は眉美の夢や憧れの象徴でもある。今では潰えた将来の夢が宇宙飛行士だったのも、星空への憧れを補強している。

今回、眉美が憧れているものとして「互いに気を遣わない関係」というものが提示されている。そして、星空という景色を美少年探偵団のメンバーと共有することによって、「互いに気を遣わない関係」が明確に形成された。

「目に見えない大切なもの」が何かという問いに対する回答は、ここは簡単に「仲間意識」で良いだろう。「目に見えない」という要素をどこから拾ってくるかが少々難しいところだが、本人が仲間だと自覚しつつも無意識下でメンバーと距離を置いていたという部分から、理屈ではわかっているが実際には備わっていなかった「仲間意識」として解釈することも出来るのではないだろうか。

[21:52]『エピローグ』→『(始)』
というわけで、眉美が本質的に美少年探偵団のチームの一員となり、眉美が無意識に感じていた障壁が完全に取り除かれる回であった。ここからが、美少年探偵団の真のスタートである。

ここで入る新エンディング。新たな物語の予感を感じ取れて良い。


3. 講堂の巨大絵の真相

巨大絵はすり替えられてなどいなかった。永久井こわ子は自分の生徒と共同作業をして、もともと全校生徒が描かれていた巨大絵に、その全校生徒を塗りつぶすように上書きをした。その後、講堂の巨大絵を描き替えた罪が生徒に問われないように、その罪を自分一人で被るために永久井は失踪した。

「大切なものは目に見えない」という今回のテーマがここにも生かされている。さしずめ、永久井は彼女が大切に思っていた生徒を守るために失踪したということだ。


4. 屋根裏の絵画の真相

[18:26]画家への「信仰」が込められている
どういうことか
要点を箇条書きでまとめると、以下のようになる。

  • 永久井こわ子は名だたる画家を信仰している
  • モナリザを含め自画像の絵画を描かなかったのは、その画家への信仰のため
  • 画家以外の人間を描かないことで、その信仰を表現した

もうこれで十分説明出来ているのだが、軽く補足をしよう。特に3つ目の画家以外の人間を描かないことがなぜ画家への信仰を表すのか、という部分は、やや理解が難しい。

ここで、模写した絵画にも人間を描いていた場合を考えよう。状況的には、普通に模写した絵画が数十枚あり、モナリザなどの自画像がない状態である。

もう一度述べるが、永久井が表現したかったのは信仰である。すなわち、「選択的に自画像を描かなかった」という状況が汲み取られないようでは意味がない。上記のような仮定のもと、すなわち普通に模写した絵画が並んでいる状態では、「何かが欠けている」という状況に気づきにくいだろう。

そこで永久井がとった手法が、人間を描かないということ、すなわち「何かが欠けている絵」を描くということだ。この「何かが欠けている」という情報は、この数十枚の絵画のように他に描かれるべき絵画があるという事実を仄めかしている。つまるところ、「何かが欠けている絵」を描くことは、「何か描かれていない絵がある」というメッセージを強調する役目を担っている。

あとは「何かが欠けている絵」において「人間」を欠けているものとしたことに、どのような意図があったかだ。別に人間以外が欠けていても良かっただろう、と思う人もいるかもしれない。

これに関しては、「信仰」の対象が画家という「人間」だからという理由で説明可能だ。作中では、描かれなかった具体的な絵画の例を「モナリザ」しか挙げていないので分かりづらいが、世界中の名画の例なんて幾らでもある。

永久井が描かなかった無数の絵画の無数のジャンルの中で、あえて自画像だけは描かなかったことをどう表現するか。自画像以外の全てのジャンルの絵画を満遍なく描けば可能……いや、現実的に無理だ。だから、たかが数十枚程度の絵画の中から人間を排除することで、描かなかった数ある絵画の中でも自画像だけは意図的に描かなかった、ということを表現したのだ。

結局、「自画像を描かなかった」に帰着させれば良いのである。如何にして「自画像を描かなかった」というメッセージに気づかせるかということに、永久井は注力したのだ。永久井自身が「自画像を描かなかった」ことを、一切の言葉も使わずに表現する際に取った手法が、特徴的な数十枚の絵画を描くということだったに過ぎない。

そして、「大切なものは目に見えない」というテーマがここにも生かされていることは、もう言うまでもあるまい。



以上で、美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』のストーリー分析を終える。