波路を築く

アニメの感想&批評

バック・アロウ 

ザ・微妙

概要

  • 2021年 冬アニメ、春アニメ
  • オリジナルアニメ作品
  • 全24話
  • 監督:谷口悟朗
  • シリーズ構成:中島かずき
  • アニメーション制作:スタジオヴォルン

はじめに

 谷口悟朗監督、シリーズ構成は中島かずき、音楽は田中公平。いずれもロボットアニメ中心にお馴染みの制作陣だ。壁に囲まれた世界「リンガリンド」を舞台に、ある一人の男を中心とする活劇が描かれる。

信念

 壁に囲まれた世界という今となってはオーソドックスな世界観に、ゼロ年代アニメのような古臭さを感じるロボットアニメであるが、本作のオリジナリティはまさに「信念」を具現化するロボット「ブライハイト」にあると言ってよい。というのも、本作は「信念がそのままロボットになれば面白いのではないか」というふとした着想から生まれた作品であると、公式が明言しているからだ。

 しかし、全体を通してその「信念」の設定を十分に活かしているとは言い難い。特に、バトル面においては改善の余地が多大にある。大きな問題点としては、各ロボットの外見的な個性がありながら、肝心な能力や戦い方に個性を見出しづらいということだ。これに関しては、中盤に襲い掛かってくるゲストキャラに限らず、メインキャラクターのブライハイトの多くも同様の事情を抱えている。そのため、『ジョジョの奇妙な冒険』のような、相手の能力の裏を突いたり駆け引きをしたりといった異能力バトル特有の緊張感がブライハイト同士のバトルに現れず、盛り上がりが欠ける要因となっている。結果、バトルを盛り上げようにも戦闘中の会話劇に大きくウェイトが偏ることとなり、画的な面白さが失われやすくなってしまっている。「信念」を具現化させた意義を初めて感じ取ることが出来るのは、ブライハイトの合体や変形などが頻発する後半に入ってからだ。「信念子」という自由度が極めて高い便利アイテムが存在する中で、結果的に多くの場面で持ち腐れとなってしまったのは非常に残念である。

 ロボットのデザイン面についても少々厳しいものがある。特に、ゲストキャラのブライハイトや、その人固有の信念を持たない名も無きモブキャラのブライハイトは、その能力の単調さも相まって魅力に欠ける。俗に言えば「ダサい」ということだ。確かに、彼らはメインキャラクターよりも大層な信念を持っているわけではないため、デザインのダサさは物語的には正しいかもしれないが、バトルアニメとして正しいかと言われると否である。これといった能力もない敵に魅力を感じることが出来ず、さらに代わり映えの少ない戦闘が続くとなると、バトルシーンから華やかさが失われてしまい、盛り上がるものも盛り上がらない。

主人公

 主人公に求められる最低限の条件は、「視聴者の分身となる存在」であることだ。その可能性が考えられるのは二人。壁の中に突然現れた謎の男「バック・アロウ」か、帝国大長官の「シュウ・ビ」だ。ただ、後者は頭の切れる天才という設定。しかも序盤の時点で、「面白そう」という理由で帝国や親友をあっさり裏切ってしまうなど、腹の中がなかなか見えない人間である。流石に、視聴者の分身が彼であるとは到底考えられない。ならば、残された選択肢はあと一つしかない。

 バック・アロウ。彼は記憶喪失の状態であり、残ったものはある一つの目的意識のみで、ひたすら「壁の外へ行く」の一点張りだ。そんなただ一つの行動原理が彼の人格を形成しているが、それゆえ彼に信念というものは存在せず、人間的深みは現時点で0である。問題は、彼の性格自体が特殊で何とも掴みづらい歪なキャラクター像であることだ。第一印象は、周りの人々を巻き込んでおきながら、相手の話を理解しない割に持論を押し通そうとする強情な性格。では、彼は壁の外へ行くことをプログラムされた機械のような人間なのかと問われると、そう断定することも出来ない。正義感も強く、助けてもらった人間に恩義の心を持つなど、人間的な道理も持っている。しかし、元々空っぽなはずの人間が如何にしてそのような心に目覚めたのかが不明である。これでは、我々が共感を覚えることは難しく、視聴者の分身となることは出来ない。一応、作品の目的を提示し視聴者に作品世界の中へとスムーズに誘導する役割があることにはある。しかし、肝心な主人公への共感が得られなければ物語の没入感も減衰してしまう。また、彼の存在を巡って物語が進行すると言えば聞こえはいいが、設定上彼は「壁の外へ行く」としか主張出来ないため、周りが彼にどう影響を与えようが物語の進む方向は変わらない。まさに、主人公の設定・配置のみが物語を突き動かしている状態、言い換えればキャラクターの舞台装置化だ。それを主人公と呼ぶことは出来ない。

 そんな主人公まがいの人物であるが、信念がないことを逆手にとって、性格的な欠損がないパーフェクトな人格、いわゆる「善意の人」を演出しようとしていることはインタビュー記事で明かされている。しかし、その試みによってストーリーの面白さが増しているとは言えない。その理由は、彼のバトルシーンに集約されている。彼の操る信念無しのブライハイトは、「何もない」からこそ何にでもなれるという特徴があり、実際に分身や飛行などの珍しい能力を顕現する。だが、彼は最後まで「誰かのサポート役」という呪縛から抜け出せておらず、ストーリー的に傍に追い込まれてしまっている。ブライハイトの最終形態が「剣」、つまり誰かに操られることが前提のものである点も、それを裏付けている。結果、全体を通してストーリーを牽引し場面を盛り上げる役割は他キャラのものとなってしまい、設定上の重要な役割を担う以外は彼の存在意義が薄れてしまっている。そもそも本作は彼の成長物語でもあるのに、ブライハイトのデザインの進化で、成長を視覚的に表現しなかったのか。そうすれば、より主人公の成長物語に焦点を当てるドラマが作りやすいだろうし、視聴者の没入感も高まる。少なくとも、外見的特徴が一切変わらない分身や飛行を駆使して戦うよりも、画的にはずっと面白くなっていたはずだ。

キャラクター

 主人公のキャラクター造形に大きな欠点を抱える一方で、本作を彩る良キャラというのも確かに存在する。その最たる例は、アロウの仲間の「ビット・ナミタル」と、レッカ凱帝国の「ゼツ凱帝」だ。前者はビビりでお調子者の小物キャラであり、一方で後者は圧倒的な威圧感を放つ大物キャラであり、

 ビット。彼はまっすぐで裏表のない性格であり、喜怒哀楽に富む感情は表情や言葉にもすぐ現れる。そして、コメディータッチで明るい作風である本作を象徴するキャラとして、物語を大いに盛り上げてくれる。小物キャラというからには明確な弱点があり、とにかく素直すぎるがゆえに他人の言うことをすぐに信用し、結果他人に利用されるポジションに自然と落ち着いてしまう。そんな中、長い時間をかけて、最終的に彼が自分の信念を見つけた瞬間のバトルシーンの盛り上がりは、作品全体のピークとも言えるほどの熱量を帯びている。一方のゼツは、普段は物静かで冷徹な印象を受けるが、要所では他を寄せ付けない威圧感とリーダー性を発揮する。特に強い敵を前にした際には喜びや期待を露わにして戦い、事実その実力は作中でも圧倒的であり、カリスマ性の高いキャラとして説得力を生んでいる。ストーリーの構成上、彼と敵対したり共闘したりすることになるが、強大な敵としても頼れる仲間としても魅力的な面がある。

 結局、対照的な二人の何が共通しているのかというと、感情豊かであることがそのままキャラクターの個性に繋がっている点であろう。感情がもろに出やすく、素直で分かりやすすぎる性格が、小物感を醸し出すのに打ってつけであるビット。一方のゼツは、圧倒的な自信と才覚がある大物キャラである以上、それを余すことなく演出することが可能である。作品全体の盛り上がりの場面を考えても、大体の場面でこの二キャラが関わっており、その存在感は確かなものだ。こういった良キャラが描けているのは本作の強みではるのだが、主人公であるはずのアロウが霞んでしまっているのが現状である。もっとも、それは制作側が意図したことなのだろうが。

ストーリー

  • 準備中

総評

 主人公不在ゆえの没入感の無さ、それでも終盤はある程度盛り上がるものの、全体的に地に足がついた脚本とは言い難い。オリジナリティの「信念」を活かしているはずのバトルは地味。他の名作ロボットアニメを差し置いてまで、本作を見る理由は特に見当たらない。



評価:★★★★★☆☆☆☆☆