Sonny Boy 第1話『夏の果ての島』
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評価
B エキセントリック
総評
第1話は、漂流された学校の世界で過ごす中学生たちの群像劇である。冒頭から既に漂流後の生活が始まっており、謎を多く残したまま物語が進行していく。また、視点は一様に定まらず、ストーリーラインは点々としており、ストーリーの強度はそれほど高くない。群像劇と言えば聞こえはいいが、登場人物の誰とも視点を共有できないのが現状である。これら諸々の性質は意図されたものであろうが、それが吉と出るか凶と出るか。
ストーリー
メインストーリーは以下の通り。
①キャップがリーダーとなる
②希がグループの参加を拒否する
③朝風たちがキャップに反抗する
④希が長良と落下し、世界が晴れる
①から④は、おおよそ時系列順になっている。
これらをメインストーリーと断定するには根拠が薄く、起承転結の構成とするにもかなり無理がある。ただ、ストーリーを突き動かしているのは、生徒会側のキャップと、それに反抗する朝風、そして景色を変えることに成功した希なので、この3人(グループ)を中心に据えて物語を見ていけば良いだろう。
サブストーリーは、
(ⅰ)ラジダニが世界の真実を探求しようとする
(ⅱ)長良と希の過去
などがある。
漂流が起こったきっかけは、サブストーリー(ⅱ)に大きなヒントがある。定石に従うならば、(ⅱ)を展開した後に漂流生活を描き、視聴者と視点を共有する主人公となりうる存在(長良)を軸に、ストーリーを組み立てていくだろう。だが実際は、①→②→(ⅰ)→(ⅱ)とストーリーが展開されている。それも、冒頭の①の時間軸は漂流直後というわけではなく、この時点で既に漂流から時間が経過している。そのため、日常→非日常に移行した際に普通描かれるべき、登場人物の反応(驚き、恐怖など)とその後の行動といった描写は必然的にすっ飛ばされている。(そもそも、日常→非日常のストーリーが存在していないこと自体が特殊である)
とりあえず、主要となる登場人物の名前、劇中の呼称、顔は一致させておきたい。
分析
上で述べた通り、冒頭のシーンは漂流からしばらく時間が経過した後である。視聴者はやむなく作品世界に叩きこまれ、どこに力点を置いて見ていけば良いのか判断しにくい。
それにしても、登場人物が多すぎる。1クールアニメの尺的都合上、キャラクターをどんなに上手く描き分けることが出来ても、主要人物は10人程度が限界だろう。中途半端に36人に個性をつけ、無駄に描き分けることによって、記号的な人格を持つキャラクターのオンパレードにならないことを祈る。
一応、第1話の段階では、長良と希、明星(ほし)とキャップとポニー(本名は椎葉まち?)、朝風の三つの勢力というシンプルな構図が終盤まで形成されているため、キャラクターの描き分けについてはけじめがついている印象。ストーリー自体も追いやすい。
ひとまず、明星の計画からストーリーが始まるので順を追って見ていく。その計画というのは、「新しいルールを作る」ということだ。生徒会長のポニーとキャップと共に、「漂流教室」というグループを作り、秩序を与える。リーダーがキャップに決まったのち、この世界のルールを定めていく。
グループに興味持たない長良とスマホを持っていない希は、グループから離れている状態だ。
[7:27]この世界のルールを二人に説明するはやと
朝風は、キャップがリーダーとなって仕切っている状態に嫌悪感を抱いていた。一旦は能力で反抗しようとするも、ルールに反したとして罰を受けてしまう。この時点では、キャップは自身の力で朝風を止めたと思い込んでいる。
次の場面、スマホを渡されてグループに誘われた希は、スマホを壊すことで意向を示す。ルールに反したとして、朝風と同じように罰を受ける。
さて、時が経って、朝風が再びクーデターを試みようと、新たに二人を連れてくる。電気をビリビリしてそうな女の子が上海、もう一人の長身の男の名前は不明(声もない)。
[17:36]上海と長身の男
おそらく学校の備品や構造物自体を動かしているのは、長身の男の能力によるものと考えられる。このとき、朝風は何のルール違反も起こしていない。そのため、上海と長身の男には罰が下り、朝風には罰が与えられない。
[18:54]動揺するキャップ
その後、キャップがバットで朝風を殴る。これはルール違反に相当し、明星の指示でキャップは罰を受ける。
[20:16]明星が罰を下す場面
「ルール」に関して、明星たちが決めたものがそのまま世界のルールになっているのか、はたまた世界のルールを最初から知っている明星が、自分たちが定めたルールという方便で黒板にそれを書いたのか、不明である。後々、補足の項で見ていく。
結果的には、キャップの独裁は終わっているため、表面的にはクーデターは成功したとみなせる。だが、世界の謎について、明らかに明星だけが多くを知っているような匂わせ方をしている。以後、彼が36人のリーダー的存在となっていくだろう。
その後、希が大ジャンプして落下することによって、世界が晴れる。このストーリーは、キャップと朝風のいざこざとは何の関係性もなく、独立したものとなっている。
長良と希に関して、全体を通してみたときに、どこか冷めた態度をとっている長良、周りに流されずに自分の意思を持ち続ける強かな希、というキャラクター像は表現されている。
補足
1. 能力
漂流した世界では、全員が何か特殊能力を持っている(はず)という設定。
長良
不明。
希
[4:19][12:05][21:30]希にだけはっきりと見えている「何か」
その「何か」は白羽なのか鳥なのかはたまた別のものなのかは分からない。だが、「ひまわり派、たんぽぽ派」のくだりから、何か眩しいものであることは間違いない。一応「長良にだけ見えていない」という解釈も考えられるが、周りの反応を見るに希にだけ見えているとするのが妥当だろう。能力に関係していると考えるのが自然か。
「ねえ、君はひまわり派? それともたんぽぽ派? 今いる場所より眩しく見える場所があったら、行って見たくなるか、置かれた場所で眺め続けるか」
「たんぽぽ派……かな」
キャップ
不明。
ポニー
[17:58]ポニーが能力を使って明星を逃がしたような描写
空き缶と明星の位置関係が入れ替わっている。能力は、物と物の位置を入れ替えるようなものだろう。おそらく、自分の体もそれによって動かしている。
明星
[20:56]朝風に見せた幻覚(?)
他人の脳内に直接語りかけるタイプの能力だろう。
朝風
空間を歪めてガラスを割っているような描写。
瑞穂
[4:51]「よーしよーし偉いねー」と猫と戯れる瑞穂
周りには大量の段ボール。能力は何か欲しいものを手に入れるとか? 「偉いねー」と言っているあたり、猫に指示しているのだろうか。
その他、気になる人物はいるが保留。
2. 漂流中の人間
[5:11]「2中3年2組、生徒会の谷川です」
計36人。全員クラスメイトである。その割には、人間関係がかなり殺伐としている印象。希は帰国子女という設定があり、キャップはそれを認知している。
身体的特徴としては、お腹は空くし、眠くもなる。おそらくケガも治る。普通の人間と何ら変わりはないようだ。
3. 漂流中の生活
スマホやアプリが使えるという時点で、電波は通っている。電気も水道も使えるしトイレも流れる。大量の段ボールもあり、食事も支給されている。スマホの電池もあれば新しいスマホもある。
これ、瑞穂の能力で食事やその他諸々賄っているとしたら、生活を営むうえで瑞穂の能力にウェイトが偏りすぎている気もする。あまりにも都合の良い能力なので、漂流する人間が生きられるよう、恣意的に与えられたものなのだろうか。
4. 過去
長良の二者面談と長良と希の会話のシーン。外はセミがうるさい。夏休み、もっと言えば8月16日の出来事なのだろう。
まず、長良と先生の二者面談……なのだが、グラスが三つ置いてあるあたり、本来は三者面談の予定だったのだろう。長良は進路を決めていないし、相談相手は先生しかいないようだし、長良の家庭の事情が気になるところだ。
次に、長良と希の会話とも呼べない会話を見ていきたい。まず、希は一方的に長良の名前や学年を知っている。帰国子女の転校生、おおかた、クラスの名簿をチェックしたのだろうと想像できる。そして、その後の会話。
「君、本当はどこかに行きたいと思ってる?」
この問いに対して、長良は無言を貫いており、彼の行動からしてもその答えは読み取れない。一応、「ひまわり派、たんぽぽ派」の問いではたんぽぽ派と答えている。だが、これでは上記の問いの答えになっていない。
[16:36]校舎に落ちる雷
これがきっかけとなって、漂流生活が始まったと考えられる。このとき、長良と希は屋上に、ラジダニは図書室にいた。クラスメイト全員は学校にいたのだろうか。他の学年クラスの生徒や、先生に影響はあったのだろうか。
あと、学校で変な事件が夏休み前に起こっていたらしい。具体的には、
①1学期に校庭でオーロラやスカイフィッシュが観測された
②ロッカーから三億円が見つかった
の二つ。(不可解な事件がこれだけかは分からない)
5. 時間
ラジダニの考察によれば、「僕らだけが取り残されて静止している」とのことだ。そのため、漂流中どれだけ時間が進もうと、現実世界では時間が進んでいないと考えている。
[0:09][0:44]秒針が動き時計が正午を指す
わざわざこのシーンを二回描いているということは、ループないし時間軸の孤立を示唆しているのだろう。日付は黒板の文字から8月16日。季節も天気も変わらないまま、この日を繰り返しているということだろうか。
ちなみに、『涼宮ハルヒの憂鬱 エンドレスエイト』のループ期間は8月17日からである。エンドレスエイトを意識しているようにも思える。
6. 明星
謎が多い男。世界が強制力を持つことを最初から知っていたこと、キャップをリーダーに仕向けたこと、自分たちを「犠牲者」と見なしていること、世界が晴れても表情が変わらなかったこと、などなど、どこか裏のある人間だ。それこそ、漂流した世界を一度経験している人間と言われても、何の違和感もない。
黒板に書いたルールが世界のルールと同一のものだとすれば、なぜそのルールを知っていたのか。(例えば、学校の備品を壊すことがルールに反する行為であることは、希の一件から証明されているが、なぜそれがルール違反になることを知っているのか)
そもそも、ルールは既に決められているものなのか新しく塗り替わるものなのか、それ自体が不明でもある。
7. ラスト
なぜ世界は晴れたのか、そのメカニズムを追及するのも野暮な気がするので放置。晴れたことによって得た情報は色々ある。学校が水に沈んでいること、目の前に大きな山があること、晴れても罰の効力は持続していること(キャップ)、などなど。
罰が続いているということは漂流中であるということ、このまま8月16日を延々と過ごすことになるだろう。昼と夜を行き来していたら8月16日の24時間をループしていると考えてみたり……。
残された伏線や謎は多すぎるため、抜粋する。
①長良の能力は?
②希の能力は?
③瑞穂の能力は?
④漂流世界と現実世界の時間の関係は?
⑤世界のルールについて
⑥学校の他の人間はどうなった?
⑦夏休み前の不可解な事件のストーリー上の役割は?
⑧希の問いに対する長良の答えは?
⑨長良の家庭の事情は?
⑩明星の「犠牲者」の意味は?
⑪明星の正体は?
⑫希の正体は?
⑬漂流から解放される条件
他にも、気になる部分は多々ある。
以上より、Sonny Boy 第1話『夏の果ての島』のストーリー分析を終える。