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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第12話『最深』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第12話『最深』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

  • 監督:吉田りさこ
  • 脚本:和場明子
  • 絵コンテ:吉田徹
  • 演出:田中瑛
  • 総作画監督:宮口久美、中林蘭子、音地正行、村上雄、坂本哲也
  • アニメーション制作:J.C.STAFF

評価

A コンプレックス、ストロング

総評

第12話は、多くの主要人物の信念がぶつかり合うクライマックス回、大乱闘スマッシュブラザーズである。前半の区切りに相応しい盛りだくさんの内容で、今まで積み上げられた物語の集大成と言ってもいい。大部分が戦闘シーンであるが、登場人物の関係性によって展開されるストーリーが根幹にある。対立する双方に明確な課題や目標が与えられ、次回以降の展開にも期待できる。

ストーリー

メインストーリーは、
①仁菜が詩の攻撃から陽桜莉を庇う
②美弦が紫乃を「選」ぶ
である。

サブストーリーは、
(ⅰ)都と有理が話す
である。

メインストーリー①が特に盛りだくさんなので、ここを重点的に見ていこう

分析

第12話は戦闘シーンと都&有理のシーン、エピローグの三つで構成される。

最初の都と有理の会話。都は、(コモンの詳細や赤リフレクターの考察について)なぜ早く教えてくれなかったのかと有理に聞いたが、その瞬間に美弦のフラグメントが奪われたため、答えを濁してしまう形になっている。「現状の我々では……」の後には、「どうすることもできない」のように続くと考えられるが、その原因については未だ分からないのが現状である。

都に対しては、「リフレクターでない人に何が出来るのか」と反語交じりに言うが、それはそれでなぜ有理は陽桜莉たちにも黙っていたのかが気になる。第3話でも、都を救った後のリープレンジ明けに、有理が傍観している様子が描かれている。

もう一つ。前回ラストの美弦の暴走は、フラグメントが抜かれたことを意味していた。コモンの扉は開かないが、それを踏まえた上で紫乃の計画通りである。
[0:20]暴走する美弦

「美弦は大切が多すぎる」と紫乃は説いたが、陽桜莉や百への愛だけでなく、フラグメントを奪うことによる救済の使命も抱えており、妹を捨てるかどうかの葛藤が美弦の中にはある。


さて、美弦のフラグメントが示す像に、主に前の世界での陽桜莉との思い出が具現化し、美弦は放心状態となる。ここからは、仁菜+詩、陽桜莉+瑠夏の問答にシフトする。

そこで今回のメインストーリーの一つである、「仁菜が詩の攻撃から陽桜莉を庇う」に入っていく。このストーリーが仁菜の変化を表しているのは自明である。

青と赤の対立構造の中を移動する仁菜であるが、その流れを具体的に追っていきたい。

まず、美弦の立場としては、コモンの扉を開くことが同時に陽桜莉を救うという目的を果たすことでもあり、それによって自分自身も救われるという。

また、仁菜と陽桜莉の共通の考えとしては、美弦を救いたいということだ。しかし、美弦自身が上のように願っているのであれば、美弦を(直接的に)救う行為の主導権は、当然赤陣営にある。よって、美弦を手助けする立ち位置にいるのが仁菜であり、それを過ちであるとして止める立場にいるのが陽桜莉である。この構図は、本作が幾度となく描いてきたものである。

戦闘の第1フェーズは、美弦に寄り添った議題で始まる。仁菜が陽桜莉を攻撃する際、以下のような主張を口にする。

「これほどまでにお姉さまを追い詰めているのは、平原陽桜莉、お前でしかない」

仁菜は美弦の心を一度覗いており、前の世界での美弦の視点を持ち合わせている。それがこの発言の根拠となっている。

陽桜莉は、美弦が「もう耐えられない」と言っている姿を想像し、攻撃を受けてしまいそうになるが、それを阻止し反撃するのが瑠夏である。その際の瑠夏の発言は以下の通り。
[5:43]陽桜莉を仁菜の攻撃から庇う瑠夏

「お姉さんが苦しいのはそれだけ陽桜莉のことが大切だから」

「お前はお姉さまの何を知っている」と仁菜は瑠夏の攻撃を跳ね返す。

ずっと知らなかった。大切なものを手にする不安や苦しみを。だけど、想いはそれだけじゃない」と瑠夏。

「知らなかった」と過去形なのは、今はそれを知っているということだ。どう知ったのかと言えば、それは陽桜莉の存在によるものである。陽桜莉が美弦(大切なもの)のことで不安や苦しみを抱えてきた様子を瑠夏は傍で見てきた。その陽桜莉を後押しし、寄り添っていくと決意する瑠夏は十分描かれてきている。瑠夏は陽桜莉と同じように、美弦に寄り添うことも可能だと説いているのだ。それは決してフラグメントの管理という手段ではなく、より「正しい」方法に基づいてということである。しかし、詩は

「だから厄介なんです」

と言って反撃する。この場面での詩は、大切なものを手にすることで余計な感情を抱えてしまうので、関係を断ち切るべきだという主張を一貫している。

このように、この第12話に限らず本作の戦闘シーンの多くは、一つ一つの行動に意味を上乗せすることで、ストーリー的にも味わい深いものとなっている。その際の戦闘能力や戦術などはほぼ関与せず、真正面からの対立を単純な力比べなしで演出している。


ここから第2フェーズに移行するが、そこで登場するキーアイテムが、仁菜が紫乃にもらった黒い指輪だ。この指輪を付けると、自分の大切なものに対する想いは無くなる代わりに、戦闘能力が向上し、コモンの扉を開けるのにも一歩近づく。

お姉さまへの想いを忘れるものかと、今まで黒い指輪を付けなかった仁菜。「それがお姉さんを救うこと」という詩の催促と、「お姉さまが求めてくれたあの日の自分に戻るだけだ」という自分への言い聞かせによって、指輪をはめてしまう。
[7:50]仁菜の断末魔に恍惚な詩

指輪をはめた自分を正当化するために、仁菜は再度自分に言い聞かせる。

「いつからか恐れるようになった。初めての居場所、初めて知った想いを失うのは。だが違った。寂しくも悲しくもない。そう、初めから何もなかった。(中略)失うものなど何もない。それが私の強さだ」

戦闘能力が向上した仁菜は陽桜莉をすぐさま追い詰めてしまう。(だが、これによって勝敗をつけるなどということは絶対にしないのがブルリフRの特徴でもある。)この時仁菜は、美弦への想いを忘れかけてきている。

陽桜莉は仁菜に手を差し伸べて、お姉ちゃん(美弦)を想っていることは同じだと言う。ここでは口にしていないが、仁菜の大切な想いを守りたい、誰の想いも奪わせないというのが、青陣営の主張である。

「どんな時も想ってる。お姉ちゃんが大切なの」

「違う。私がお姉さまを……。私は、どうして戦う」と仁菜。「お姉さまを」に続く言葉は、「お姉さんへの想いを断ち切った(指輪をはめた)」だろう。しかし、ここで効いてくるのが、大切な想いを忘れるという指輪の代償である。美弦のためにと思って指輪をはめた仁菜であったが、美弦への想いが消失しかけているために、戦う理由を見失ってしまうというジレンマ。これには詩もあきれ顔である。
[11:43]あきれ顔の詩

陽桜莉と瑠夏は、仁菜の想いを守る(=指輪を破壊する)ことを決める。手法としては仁菜のフラグメントに直接触れることによってだが、当然力づくではない。

ここで語られる仁菜の想い。

「そうだ、お姉さまに出会い、私は本当の自分を知った。分かっている、一度知ってしまえば、もう戻れない。それでも、私は――(ここで仁菜と美弦の音読によるバイロンの詩が挟まれる。)戻りたくない。何も知らなかった私に

「それでも、私は」に続いて、「戻ることを決めた」といった主旨の言葉が続くと想像できるが、仁菜はそれを否定した。そのプロセスを追っていこう。

仁菜は、バイロンの理想を信じる精神に共感し、バイロンの詩を生きる糧としてきた。それを肯定したのが美弦であり、仁菜は美弦に全てを捧げることを決めた。何もない自分から美弦に捧げる自分へと変化し、初めて自分の存在意義を認識した。

「何も知らなかった私」というのは、美弦のいない自分を意味しており、その状態に戻るということは現状の仁菜のアイデンティティが喪失することに他ならない。

それが美弦のためになる行為であっても、それと美弦を忘れるという代償とを天秤にかけ、美弦を想う気持ちを忘れずに美弦のために動くことを仁菜は決断したのだ。

その後、陽桜莉の行為に抵抗することをやめ、指輪は破壊される。そして、詩と陽桜莉が互いの主張をぶつけ合いながら攻防する中、陽桜莉と瑠夏が窮地に陥る。そこで詩の追い打ちから陽桜莉と瑠夏を守ったのが仁菜である。
[15:13]詩の攻撃から二人を守る仁菜

そもそも仁菜が何故美弦の下につこうとしたのか。無論、美弦への信仰はあったのだが、それ以前に、仁菜は自分のような少女を生み出したくないから(フラグメントを奪うことで阻止する)と、自身の信念を以てリフレクターとなっている。

しかし、今回の仁菜は、フラグメントを抜かれるということの危うさをその身をもって体験した。その危機から救ったのが陽桜莉と瑠夏なのである。

また、仁菜が信じるバイロンの詩も、絶望していた仁菜が美弦によって救われたという過去も、「想いを奪わずに希望を見出していく」という陽桜莉サイドの主張を補強するものである。

このように、仁菜が青サイドの主張を支持し、赤サイドを否定するという流れには説得力がある。そのため、仁菜が陽桜莉を庇うというストーリーはかなり構築的で論理的な印象を受ける。

ここで重要なのが、仁菜は単に美弦を信仰しているのではなく、美弦を信仰することで救われた自分を大切にしているということだ。だから、詩に美弦の真意(仁菜を道具としてみていたこと)を明かされても、仁菜は全く動じない。

仁菜「どうでもいい。お姉さまにどう思われようと、私の想いは本物だ」

完全に仁菜を見限った紫乃は、仁菜を攻撃しダウンさせる。

続いて陽桜莉と瑠夏への攻撃。紫乃は、想いを守る存在である陽桜莉と瑠夏がなぜ自分の想いを守らないのか、守る想いの線引きをしているのではないかと言う。対して瑠夏は、勝手に奪うのと守るのは全然違うと答えている。これは、想いの不完全さと、想いを手放すことの危うさを天秤にかけ、どちらをどれだけ重要視するかの意見の相違であり、双方が納得できる解決策は現状無い。紫乃は、

「想いは所詮実体はなく、他人はおろか本人さえも理解できているかどうか分からない。その癖愚かな行動を確実に犯させる。(中略)そんなもの、野放しにすべきではない」

と言っている。これに対して陽桜莉は、

「私には想いがただ恐ろしいとは思えないから。全ての想いを理解することはできないかもしれない。それでも、奪うことはダメ。想いはその人だけのものだから」

と防御する。陽桜莉と瑠夏が友情ビームを放つ際、

「今はまだ、紫乃ちゃんの想いにどうこたえていいか分からない。(中略)紫乃ちゃん、あなたの想いをもっと知りたい」

紫乃に寄り添いたいという姿勢。しかし、紫乃は「想いは間違いを犯す」という主張を曲げない。なぜそのような考えに至ったのか、紫乃の過去にヒントがあるのだろうが、それは視聴者視点でも未だに分からない。

紫乃が陽桜莉のフラグメントを奪おうとした瞬間、阻止したのが美弦である。いつの間にか起きていたらしい。陽桜莉のフラグメントを抜くことを阻止したのは、陽桜莉を大切に思っているからである。紫乃は一瞬驚くが、美弦に

「私は選ぶ。罪を、あなたを。私の全てを捧げる」

と言われ、安心しきった表情。美弦の言う「罪」とは、前の世界での「過ち」によるものであろう。美弦は「正しい世界」を作る道を選んだのだ。完全に紫乃との目的が一致した瞬間である。

まだコモンの扉は開かれないが、陽桜莉たちの完全敗北で戦いは終わる。美弦は、

「きっと想いは、私より私だと、そんな気がしているのに、言葉にするのは難しく、それでも私が私でいられたのは、陽桜莉がいてくれたから。想いを、私を大切にしてくれたから。ねえ、陽桜莉、だから私はね――」

という。「正しい世界を作る」と続くだろうが、そうしたい理由の一つに陽桜莉の存在がある。

急いで駆け付けた都が陽桜莉と瑠夏と百を抱きかかえて、ブルリフ前半部は幕を閉じる。
[23:09]涙を流す陽桜莉、瑠夏、都

補足

1. 斎木有理

先ほども指摘した通り、彼女がどういった目的で動いているのかいまいち掴めない。AASAという組織の配下にあたる彼女は、何かしらの制限を受けているのだろうか。

[4:45]黒い指輪を手にする有理
指輪の元をたどればAASAに行き着くのだろうが、彼女がこの指輪を持っているということは、美弦たちに指輪を渡したのは有理なのかもしれない。

2. ユズとライム

[18:47]友情ビームを手助けするユズとライム
何度か陽桜莉を手助けする謎の存在。おそらくコモン、あるいはそれに準じた場所の住人なのだろうが、その正体は果たして。

コモンの扉が開くと何か不都合なことがあるのかもしれないし、純粋に陽桜莉サイドの肩を持っているのかもしれない。


3. 紫乃

紫乃の過去に一体何があったのか。また、紫乃はそれを「過ち」と言っている。かなり闇が深そうだが……。
[19:23]血のついたナイフを手にする紫乃

そして、美弦はどのようにして紫乃に寄り添ったのか。分からない部分はまだまだ多い。

あと、能力に関して。仁菜が指輪をつけた直後、紫乃の体に変化が。「始まりの力」とも言っている。
[8:21]紫乃の頭から何かが生える描写

美弦を取り込んだ際の何かを植え付ける描写もあり、特殊な能力を持っている。


4. 仁菜の今後

敵に見放された仁菜は自由となるが、今後どのような活躍をするのか。


残された伏線や謎は以下の通り。
①「原種」とは何か?
②「AASA」の正体と目的は?
③第1話で電車の音に搔き消された百のセリフ、何と言っていた?
④フラグメントを抜かれて失った記憶は戻るのか?
⑤仁菜のスーツケースの中身は何?
紫乃の能力は何?
⑦美弦たちとAASAの繋がりはあるのか?
⑧美弦はどうやって前世の記憶を知りえたのか?
⑨指輪の色の意味は?
⑩原種を倒したのは誰?
⑪世界が巻き戻ったタイミングはいつ?
⑫美弦の過ちとは?
⑬何故美弦は陽桜莉に何も言わなかった?
⑭ユズとライムの正体と目的は?
⑮斎木有理の正体と目的は?
紫乃の目的は?
紫乃の「過ち」とは?
⑱美弦はどのようにして紫乃を仲間にした?
⑲山田仁菜のストーリー上の役割はどうなる?


これで、BLUE REFLECTION RAY/澪 第12話『最深』のストーリー分析を終える。