サクガン 第1話『FATHERS & DAUGHTERS』
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評価
B エモーショナル、ウィーク
総評
第1話は、主人公の決意が描かれる回。未知の世界に旅立ちたいと願う少女と、そうさせたくない父親の二つの視点が交互に、あるいは俯瞰して描かれる構成となっている。世界観や設定の提示についてはやや説明的であるが、登場人物の熱量を感じられるエピソードである。ただ、メメンプーが夢を見る動機が足りていないという印象を受ける。少々厳しいかもしれないが、B評価とする。
ストーリー
メインストーリーは、
①メメンプーはマーカーになることを願うが、ガガンバーはそれに反対する
②メメンプーが再びマーカーになることを願う
③ガガンバーは、メメンプーと共にマーカーになることを決意する
である。
サブストーリーは、
(ⅰ)リンダとウォルシュが戦死する
(ⅱ)世界観や設定の提示
などがある
ストーリーは、①→(ⅰ)→②と進んでいく。はっきり言って、メメンプーが再び夢を見るのに十分な動機が描かれているとは言えないのだが、それについては後ほど見ていくことにしよう。
分析
視聴者に対する大まかな設定の提示は、序盤に流れるラジオにて行われる。「マーカーはラビリンスという危険が多い地に旅立つ職業」くらいの認識で良いだろう。
マーカーになってラビリンスに飛び出すのは危険なことであると、ガガンバー(父)はメメンプー(娘)に言うが、聞いてくれない様子。ガガンバーはメメンプーがマーカーになることを許していない。
この時点で、メメンプーはマーカーが危険であることを知っていてもなお、夢を追い続けているというのは注意したいポイントである。彼女の賢さは、飛び級で大学を卒業した頭の良さと共に、自分の置かれている立場を客観視できるほどの精神力を持ち合わせていることを示している。
「私はどうしてもあの景色を確かめたいんだ」とメメンプーは言うが、そう感じるに至った経緯は、後のリンダとの会話にある。リンダは現マーカーである。
リンダ「女マーカーウロロップは、ラビリンスを踏破してマップを完成させたという話だ」
メメンプー「ああ、ロマンだ!」
要するに、メメンプーを突き動かすのは、未知の世界に足を踏み入れることのロマンに抱く好奇心だ。人間ならば誰しもが持ちうるその情熱は、数ある「冒険譚」の作品群に共通するテーマとなっており、本作もそのセオリーを踏襲している。
ガガンバーはわざとらしくメメンプーにマーカーの危険さを伝えようとするが、メメンプーには響いていない。リンダには「超ダセえ」と罵られる。
ここでBGMを利用した面白い演出がある。それは、“同じ曲中”のパターンの切り替えによって登場人物の内なる感情を効果的に示すというものだ。シンセサイザーの電子音→ピアノの切り替えに注目したい。
[9:08]流れるように変化する曲中のパターン(ポップ→しんみり)
これによってガガンバーには、メメンプーがマーカーになることについて、前述した「父親として」の理由のほかに、何か個人的な理由があることを示唆している。それはすなわち、「ルーファス」という人物に関係することだ。
さて、メメンプーの元にウロロップからの送り物が届き、メメンプーはそれが本物のウロロップからのものだと確信する。必然的に親離れを想起させるメメンプーの夢を前に、叶えてあげたいという情動と行ってはいけないという理性で揺れるガガンバーの葛藤が描かれるのも良い。
[16:45]未踏の地に憧れるメメンプーとリンダ
ラビリンスに突然現れた怪獣に遭遇したメメンプーたち。リンダはメメンプーを船上から遠ざけるよう、ガガンバーに支持する。メメンプーはそれに抵抗しようとするが、リンダは「お前は子供だ」と制止する。
その際の、ウォルシュの微笑のカットが良い。リンダとウォルシュ、ガガンバーは、「正しい大人」として、メメンプーは「間違っている子供」として描かれている。
自信満々に戦場に飛び出したリンダとウォルシュは、別の怪獣の不意打ちを喰らい、あっけなく戦死する。このあたりは、陽→陰の切り替えが早く、心揺さぶられやすい展開となっている。
目の前の景色に呆然とするメメンプー。娘を案じて「マーカーになるな」と言うガガンバー。世界の厳しさを知らなかった子供の夢を拒絶する大人という構造。
[21:24]娘の手を引くガガンバー
メメンプーは「怖くて、どうしようもない。街がぐちゃぐちゃになって、ウォルシュとリンダも……。それに、ガガンバーはそんな辛そうな顔をしている」と言っている。大切な人が死ねば、大人だって悲しいことを知っているメメンプー。
それでもメメンプーは、「あの景色を見てみたい」という。このあたりは、壮大なBGMと迫真の演技により、エモーショナルな展開となっている。
ウォルシュに教わり導き出した「父親としての在り方」を以て、ガガンバーはメメンプーの願いを引き入れる。マーカーの機体に乗ってエピソードが終了するという、王道的な展開である。
ただ、ガガンバー→メメンプーは良いのだが、メメンプーがマーカーになりたいと願う理由が、(父親の思いを知ってもなお願い続けるほどの)強い好奇心では、さすがに弱いという印象を受ける。
前提として、メメンプーはマーカーの危険さ、世界の厳しさというものを理解しており、大切な仲間の戦死を前にしている。それに、メメンプーは年齢以上に分別のある子供だ。そんな子供が、危険な世界に直面する職業に好奇心だけで夢を抱けるのだろうか。
無論、メメンプーの性格上の問題と言えばその通りである。それでも、危険な世界と自分の命を天秤にかけている(かけてすらいないともとれる)状況の違和感は無視できるものではない。彼女は「私はおかしいのか?」と何度も問う。答えは「はい」である。
何より一番の問題は、この描写によって、これから死に直面する旅に出かけることに対する悲壮感が少なくなるということだ。9歳の子供とはいえ、もっと生と死の狭間で揺れる葛藤を描いても良かったのではないだろうか。
『メイドインアビス』を例に挙げたい。こちらも「冒険もの」の一種で、危険な地「アビス」に旅立つ主人公の姿を描いている。この作品の主人公がアビスに向かう動機としては、好奇心、レグ(謎の多い仲間)という存在、アビスにいる母からの手紙という要素がとれる。単なる数の問題とは言わないのだが、やはり本作におけるメメンプーの動機は、弱いと言わざるを得ない。
ストーリー分析的に言えば、ストーリー(ⅰ)→②の強度が低い。以上の理由により、B評価とする。
補足
1. 基本設定
ラジオ「ここは、アンダーワールド。硬い岩盤で覆われた(中略)世界はピンチって話さ。命知らずのマーカーたちは、今日もラビリンスを冒険している(中略)大崩壊だけじゃない。怪獣に、最近話題のテロリスト……」
[2:40]マクロな視点で舞台を描きつつバックで流れるラジオ
大体の設定はこれで把握できる。つまり、マーカーは地下世界ラビリンスに旅立つ職業であり、そのラビリンスには危険が多いということだ。第1話において、主要のマーカーはリンダとウォルシュの二人であり、ガガンバーとメメンプーはワーカーという職業についている。
怪獣は第1話で登場した例のメカのことだろうが、テロリストについては未だに分からない。今後、様々な敵と遭遇することになるだろう。
2. ウロロップ
有名な女性マーカー。送り物が届いているということは、まだ生きている? 誰もその姿を見たことがないようなので、想像上の人物という可能性も。
[7:49]ガガンバー「ただの噂だろ? 存在すら怪しい」
3. ルーファス
ガガンバーが口にした人物の名前である。メメンプーをマーカーにさせたくない理由の一つになっているようだが、その真相は如何に。勝手な考察だが、ガガンバーの妻だと思っている。
残された伏線や謎は以下の通り。
①怪獣の正体
②テロリストとは?
③ウロロップのストーリー上における役割
④ルーファスは何者?
⑤ガガンバーがルーファスに抱く感情は何?
これで、サクガン 第1話『FATHERS & DAUGHTERS』のストーリー分析を終える。