白い砂のアクアトープ 第13話『海の遙かなティンガーラ』
はじめに
第13話より、個別記事を再開します。
評価
A スタンダード
総評
第13話は、ティンガーラ編序章、くくる回である。エピソードを通して描かれるくくるの情動は、ネガティブなものが多い。新しい同僚の朱里との交流で仕事のモチベーションに繋がったり、上司である副館長との仕事においてくくるが何か新たな気づきを得たりなどといった展開は、今のところはない。これは、ラストの風花が登場する展開を重視した構成である。視聴者的には風花を懐かしく思ってはいないものの、くくるの安心感や幸福感をしかと感じ取れるエピソードとなっている。
ストーリー
メインストーリーは
①くくるが営業部に配属される
②くくるが多くの仕事を要求され、処理できずに失敗する
③くくると風花が再開する
である。
サブストーリーは、
(ⅰ)夏凛がくくるを誘って水族館内を案内する
などがある。
サブストーリー(ⅰ)にこの例を挙げたが、くくるが自分の居場所を動的に理解することは、くくるのポジティブな情動に繋がる数少ない要素である。最新鋭の技術を駆使した広大な水族館を回ったくくるは、仕事をするにあたって、忙しさや辛いことにたくさん直面するだろうと理解した。丁寧なコンテワークによって、視聴者はこのことを映像的に感じ取れるようになっている。ここで映像や美術に力を入れてくるのは、作り手のセンスが光った部分と言えよう。
分析
廊下ですれ違っても互いに挨拶をしないくくると、南風原知夢&島袋薫ペア。以前、知夢はがまがま水族館で研修していた。「コネ入社組」と言っているあたり、あまりがまがま組を良く持っていないようだ。知夢やその他ティンガーラ組とがまがま組の対立構造には、注目していきたい。
[7:31]薫「何人いるんだ? もはや派閥だね」
[11:25]知夢の営業スマイル
くくるの初仕事はバックヤードツアーの予行準備であった。この情報は昨日配られた資料の中にあったのだが、それを十分に読んでいなかったくくるは、予行決行当日にそれを知ることになる。また、バックヤードツアーの予行について、社内に先週メールが送られていたようだが、知夢や薫はそれを意識していなかった。
これら一連の流れは、くくるの問題というよりは、新しい職場であるがゆえの杜撰な管理体制や人間関係の脆さに原因を置くべきだろう。くくるの机に積まれた書類の下のほうにバックヤードツアーに関する案内があったこと、知夢や薫が自分の仕事に精一杯で社内連絡に目を通していなかったこと。新キャラの比嘉瑛士は、職場の人間関係を指摘していた。
必死で予行の準備を進めたくくるは、結局は副館長によって全て棄却され、知夢にも叱られた。魚で言うところの雑魚以下だとこき下ろされる始末である。実際、くくるの負った責任は軽いものではない。それゆえに、見る人によっては、胃痛状態になってしまうだろう。では、視聴者は何をモチベーションにこのエピソードを見ればよいのだろうか。
くくるの(に対する)ネガティブな情動ばかりが先行しているように見えるが、それでも単に暗い話にならないよう、いくつか工夫している部分が見受けられる。先に述べた美術的な面の他に、例えばくくるの海の生物に対する愛情と(それを前面に押し出す)強かさがある。これは、くくるが副館長にプランクトンと呼ばれる経緯を見れば分かるだろう。
[18:00]笑ってはいけない場面で笑ってしまう夏凛と朱里
あるいは、水族館に対する副館長の誠実さもあるだろう。その一例として、バックヤードツアーの予行を中止する副館長の判断がある。おおよそ失敗の見当がついていた副館長は、くくるがその全責任を負わないよう、中止の判断をした。副館長も人間なんだぜ。
視点がくくるであるがゆえに、ネガティブな情動を煽られるばかりとなってしまったが、全体を通してみれば、登場人物全員が仕事に真摯に取り組んでいることが分かる。仕事を取り扱う物語において、各登場人物が個人ないし組織の理念に沿って経営のために尽力することが、結果的にドラマ(対立、団結など)に繋がる。このようなセオリーへの忠実さが、PAお仕事アニメの真骨頂と言えよう。