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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第15話『ウミウシ大論戦』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第15話『ウミウシ大論戦』

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基本情報

  • 監督:篠原俊哉
  • 脚本:千葉美鈴
  • 画コンテ:高村彰
  • 演出:高村彰
  • 作画監督:鍋田香代子、他5名
  • アニメーション制作:P.A.WORKS

 

評価

A ストロング
  

総評

第15話は、くくるの企画展示回である。謎の多いウミウシという生物、そしてウミウシの企画展示を媒介に、水族館の功罪や各登場人物の理念の様々を描いていく。くくる、薫、副館長の3人に異なる主張を持たせて対立させる構造だが、無論、ここに正解不正解は無い。どれが正しいか、あるいはどう折り合いを付けるべきかは、視聴者が各自決めればいい話だ。この具体的な描写が、仕事アニメとしての完成度を高めており、ドラマ作りの基本に忠実な一話といった印象を受ける。
 

ストーリー

メインストーリーは、
①くくるが副館長に企画展示を命じられる
②くくるが副館長に展示するウミウシの数の変更を命じられる
③薫と雅藍洞部長による無給餌の案にくくるが反発する
④くくるが特定のウミウシの餌を見つけようと試みるが、失敗する
ウミウシの企画展示が成功する(妥協点あり)
⑥くくるが副部長に叱られる

である。

サブストーリーは、
(ⅰ)櫂がくくるの手伝いをする
(ⅱ)くくるがバックヤードツアーの案内に遅れる
などがある。

メインストーリーが多数で複雑になっているが、いずれも重要である。櫂、知夢などといったサブキャラクター中心のサブストーリーもメインストーリーに絡み合っており、ストーリーの強度はかなり高い。
  

分析

まず、くくるの主張は、ウミウシの企画展示では、飼い殺しや無給餌は断固反対といったものだ。単純明快であるがゆえに、様々な問題を生んでいく。

続いて、副館長の経営方針について。ウミウシの企画展示までのタイムリミットは二週間、ウミウシの数は八体の二つである。

この時点で、くくると副館長の間には完全に完結出来ない(出来なかった)課題が生じる。それは、ウミウシを八体飼育することに際し、具体的な餌が分からない種が存在しているということだ。ウミウシの食性は天然物中心である以上、餌の情報は他の水族館に相談しても分からないということらしい。

結果的に、餌が分からないウミウシを一体飼育に回したままウミウシの企画展示を行うことになる。それにより、メインストーリー⑥につながっていく。

さて、薫の主張を見ていこう。飼育担当である彼女は、ウミウシ八体の展示に対して反発的であり、第一にウミウシの数を減らすことを要求した。ウミウシの飼育は難しく、常に餌に仕事を回す必要があり、そうすれば他の仕事が回らなくなるそうだ。その後、無給餌の案が伽藍洞部長によって出され、メインストーリー③につながっていく。

無給餌に反対のくくるは、ウミウシの餌探しをしようとする。薫が言っていたように、ウミウシの飼育は難しいという事実は、この展開の必然性をさらに高めている。しかし、くくるは飼育部ではなく、営業部である。このあたりのくくるの葛藤は、副館長との会話のシーンで描かれている。
[13:00]副館長「そんなのは飼育部に任せて、お前は営業の仕事をしろ」

飼育部に一任すれば無給餌が確定するこの状況の中で、くくるは営業の仕事と同時にウミウシの飼育の仕事を個人的に取り持つ。ウミウシの企画展示のことで忙しく、他の仕事に頭が回らないくくるの姿の描写もある。直感的に分かるのは、くくるの目のクマ。サブストーリー(ⅱ)も、その一つである。
[15:29]朱里にパンフレットの発注について尋ねられ、はっとするくくる

続いて、くくると薫のシーンである。薫の思う水族館の意義は、原文ママで、
「地球を守るためだ。水界の生き物を調査研究し、その結果を発表したり展示したりする。生き物の素晴らしさを知ってもらうことが目的であり、水族館はその入り口だと僕は思っている」
とある。それゆえに、薫は目の前の生きている生物の生死を重く見据えていない。無給餌でも展示しようとするし、弱ってきたら海に還すのではなく、責任を持って飼育して調査研究を続行する。

薫は視野が広すぎるとくくるは説いたが、薫の説得を聞いた上で、目の前の生き物を優先する姿勢を曲げていない。そんなくくるに薫がかけた言葉に、「生き物にとって最善は何か考え、出した答えに責任を持つこと」とある。くくるの無邪気な“好き”を見た薫は、自分とくくるの共通点を見つけ、ウミウシ問題に協力するようくくるに持ち掛ける。

くくるの直面した問題は、何も営業部にのみ当てはまるものではない。水族館の在り方に何を重視するかは個々で異なっており、正しい立場を一意に定めることは出来ない。だから、互いが協力して二人が納得できる形で道を選ぶ。時には妥協することにもなるだろう。一種のウミウシは展示されることはなく、飼育に回すことになった。

先に述べた通り、今回のウミウシ展示では「八体」を満たしていないため、くくるは副館長に叱られることになる。くくるにとってネガティブに描かれている副館長の営業至上主義もまた彼の責任あっての答えだ。また、副館長のこのこだわりは、地域性やコミュニティを重んじるまがま水族館の経営理念とはまた対照的であり、おじいとの対立項にもなっている。どの理念が正しいのか、視聴者がそれぞれ考えればいいだけのことだ。

以上がメインストーリーの概略となる。続いては、今回の裏の主人公、薫に注目していきたい。13話から第15話前半までの描写を見るに、真面目や堅苦しい(良い意味でも悪い意味でも)という印象が残る薫。同じく真面目な印象を受ける知夢とよく行動を共にしている。
[4:07]櫂の前で溜息をつく薫
[5:05]空也の返事を注意する薫

だが、知夢との昼食の場面で、知夢とは異なった一面が見える。がまがま組の陰口を言って発散する知夢(このあたりは、知夢を訝しげに見つめるくくると似ている部分がある)は、薫にもがまがま組の印象をたずねる。空也、うみやん、櫂と、なかなかに不甲斐ない面子を前にしてきた薫であるが、感想は一言「色々いるなあ」で済ませているだけだ。自分の主張を強く押し通す知夢とは異なり、度量が広いという感じか。例えば、くくるの無給餌断固拒否シーンでは、くくるの熱量に感心するような描写がある。視点の中心であったくくるから、薫に注意が引き寄せられる。
[12:13]薫の首が少し持ち上がるカット

イノーへデートを誘うほどに、くくるに心を開いた薫。彼女の人間像が徐々に見えてきたのも、一つ進展と言えよう。

他にも、櫂、瑛士、空也などといった様々なキャラクターが活躍するエピソードであった。
 

補足

1. 櫂と瑛士

特に櫂である。くくるへの恋は、未解決のストーリーとして、一つ抑えておくべきだろう。今回櫂は、くくるのサポート役に徹し、彼女の精神状態を改善していた。
[16:24]サンドバッグ櫂

櫂はティンガーラの仕事よりもくくるへの恋心が先行しているということを、瑛士は見透かしている。やはり、周りを見るのが上手い男である。
[8:28]動物の求愛行動を語る瑛士


2. ハリセン帽

ウミウシ展示に来場したお客さんが言っていた「帽子のグッズ」は、おそらく、夏凛たちが開発している商品のことと思われる。今は誰もつけていないが、今後帽子をつけるお客さんが現れるかもしれないので、注目である。
[7:05]ハリセンボンの帽子の商品開発の様子


残された伏線や謎は以下の通り。
①くくるの双子兄弟のストーリーにおける役割
②ファンタジー現象の謎
③くくるの目標はどうなる?
④櫂の恋はどうなる?


これで、白い砂のアクアトープ 第15話『ウミウシ大論戦』のストーリー分析を終える。