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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第16話『傷だらけの君にエールを』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第16話『傷だらけの君にエールを』

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基本情報

  • 監督:篠原俊哉
  • 脚本: 柿原優子
  • 画コンテ:室井ふみえ
  • 演出:熨斗谷充孝
  • 作画監督:宮崎司、他4名
  • アニメーション制作:P.A.WORKS

 

評価

A スタンダード
 

総評

第16話は、南風原知夢回。視点はくくると知夢を中心に描かれ、二人の関係性の変化を描く。知夢の個人的な事情が明かされるサプライズ的な側面もある。ペンギンの孵化、竹下さんの登場といった要素と織り交ぜており、母と労働のつながり、命のつながりを感じさせる描写は多い。

ストーリー

メインストーリーは、
①知夢がシフトを外して、くくるが疑念を抱く
②くくるのヘルプに対して知夢が反発する
③くくるが子育てを体験する
④知夢の過去が語られる
⑤知夢の事情が周りに明かされ、知夢とくくるが和解する

である。

サブストーリーは、
(ⅰ)風花が知夢のアパートを訪れる
などがある

第9話の初登場回以降、何かとがまがま組に対して反感を持っていた知夢。その内情が明かされるとともに、今一度職場と生命の関わりを見つめなおし、人間関係に善い変化が訪れる前向きなエピソードであった。
 

分析

美術的な話から。これらは直感的に分かりやすい。

知夢のネガティブな感情を物理的な距離と彩度のコントラストで描く。
[1:01]竹下さんとやや距離を置き、影になっている知夢

くくると知夢の心理的な壁を物理的な距離で描く。
[6:11]遠方のカメラから切り取る描写(くくると知夢の距離感が分かりやすい

子供・労働関連の話題になった際の知夢を切り取るフィルムは、暗さを重視している。なお、過去回想は常にセピア色のフィルターがかけられている。
[3:35][10:52]影で暗い知夢
[16:12]風花に過去を話す際、またしても暗い知夢

では、ストーリーを見ていこう。

ストーリーの流れ自体はシンプルだ。物語を「登場人物が気づきを得ること」だと定義すれば、今回のエピソードはそれに律儀に乗っ取った、極めてオーソドックスなものと言えよう。

くくるは知夢の事情を知らなかった。知らなかったがゆえに、知夢のシフトの割り当てが極端に少ないことに反感を抱き、知夢に反発してしまった。朱里の発言により、逆に飼育部になるチャンスだと踏んだくくるは、善意から知夢のヘルプに入ろうとする。知夢の事情を知った際には、ひどいことを言ってしまったと後悔していた。

一応注意しておきたいことは、くくるには「仕事を休むなんてずるい」という大義名分と、「飼育部への一歩となるかも」という下心があったということか。

さて、事情を知ったくくるは、子育ての大変さを身をもって知るために、竹下さんに子育て体験を申し出る。はっきり言って、ズレている。ここで重要なのは、子育てそのものの大変さというより、子育てと仕事の両立に付随する問題のはずだ。ただ、このズレは明らかに意図的なものである。なぜなら、くくるが知夢の大変さを思い知ることで、彼女に対する見方を変えるというメインストーリーは問題なく進行しているからだ。別に、子育への理解が深まったとか、そういうストーリーにはなっていない。ただ一つ、くくる自身の意識が変わったということが大事なのである。

最終的には、知夢を一歩引いて見ることが出来たくくる。非常に感覚的であるが、くくるのがむしゃらと狭い視野という人間像が無ければ、かえってストーリーの強度は落ちてしまうだろう。

一人で突き進むくくるを補助し、知夢にくくるに対する理解を与える存在が、風花である。ここでくくるを「上げる」プロデュース力は、風花のみが持つものだ。くくるの状況を知った知夢も、あきれた表情である。
[17:42]驚いてあきれる知夢

知夢視点を軽く追っていく。知夢がくくるのヘルプに対して反発した際の言いぶんは「私だって仕事したいのに、私の仕事を奪わないで」というものだった。頑なに周りに協力を頼もうとしない知夢だが、彼女の過去に何があったのだろうか。彼女が今まで事情を明かさなかった理由も併せて、過去回想という形で説明されている。

くくると知夢という二人の人物の描きについては、美点だけでなく、欠点を中心に描く(今まで描いてきた)ことによって、人間像に厚みを持たせようとする工夫が見られる。言い換えれば、知夢は子育てと労働をこなす完璧なキャリアウーマンではないし、くくるは迷いなく突き進むが視野が狭い人物である。

それゆえに、ストーリーには少し歪さが残り、滑らかすぎる進行はしていない(穿った見方をすれば、知夢の反発、くくるの子育て体験といった要素は、キャラクターを描くための恣意的なものに過ぎない)。物語としてやるべきことはやっているため、これは好みの問題に過ぎないだろう。
 

補足

1. 南風原知夢

彼女が一児の母であることの伏線はあったのだろうか、今一度振り返ってみたい。が、本人が隠してきたこともあって、決定的なものは無さそう。あくまで匂わせる程度のものということで。

直近だと、第15話のテラスでの昼食のシーンであろう。
(第15話)[14:17]手作り弁当を食べる薫と、買ってきたおにぎりを食べる知夢

あとは、初登場の第9話の私服の服装。風花にはアクセサリーがついているが、知夢にはついていない。つまり、着飾っていない。まあ、これで知夢の事情を予測するにはあまりにも情報が足りなさすぎる。
(第9話)[15:53]ホテルでの服装(私服)

あと、知夢の子供は結構やんちゃしてそう。
[15:20]削れているドアとシールが貼ってある図


残された伏線や謎は以下の通り。
①くくるの双子兄弟のストーリーにおける役割
②ファンタジー現象の謎
③くくるの目標はどうなる?
④櫂の恋はどうなる?


これで、白い砂のアクアトープ 第16話『傷だらけの君にエールを』のストーリー分析を終える。