波路を築く

アニメの感想&批評

今年聞いたアニソン歌手のアルバムで印象に残ったもの5選

はじめに

タイトル通り、勝手に今年を振り返る企画。管理人は音楽が好き。ドラム経験者。
 

概説

  • アニソン歌手の定義

条件は、アニメ(アニメ映画を含む)のタイアップ曲が5曲以上のアーティスト、または今年のアニメのタイアップ曲を担当したアーティスト。
 

  • 企画の内容

今年聞いたアニソン歌手のアルバムあるいはEPの中で、管理人が勝手に5つ好きなもの、印象に残ったものを選出。ランキング形式ではない。今年のものである必要はないが、なるべく今年のやつから選びたい。

なお、アルバムはApple Musicで現在配信されているものから選ぶものとする。
 

選評

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アリプロの底力を見た。


2021年秋アニメ『月とライカと吸血鬼』ではOPテーマを担当。その他『ローゼンメイデン』シリーズを筆頭に『コードギアス』、『Another』など、多数のタイアップ曲がある。


このアーティストの音楽性及び楽曲のジャンルは多岐に渡る。一言で特性を言い表すとすれば、「弦楽器とデジタル音を組み合わせた、ゴシックでダークな雰囲気の、プログレッシブロックやポストロックっぽい何か」である。(1stアルバム『月下の一群』とかと聴き比べてみると、直線的なギターサウンドとアコースティックドラムが加わっているのが分かる。)後に少し言及するビジュアル系バンド「MALICE MIZER」のクラシカルな感じに似ている。勝手にビジュアル系ロリータ版と呼んでいるが、あんましっくりこないのも難しいところ。そもそも意味が分からない。

さて、この『芸術変態論』であるが、今までのアリプロの作品群に共通する音作りに自ら一石を投じるような挑戦的な作編曲を目指しているように感じる。最近の他のアルバムを聴いたときにどうしてもつきまとう「マンネリ感」が一切無いのが良い。既存のダークなロックからポップなロック、ひいては大和ソング、昭和歌謡っぽいもの、三拍子のゴシック・バラードまで、言わば「捨て曲」が存在しない。しかも、各要素が全て高いレベルで存在しており、奇跡的なバランスで構成されている。「青空」まで通しで聴いたときは革命が起きたかと思った。全曲好き(トラック11「魅惑劇」が聴けないのは残念)だが、おそらくこのアルバムを聴いた人にとっては、特に「ヤマトイズム」「少女昆蟲記」あたりが強く印象に残っているだろう。私もそうである。

アリプロは今年で30周年らしい。おめでとうございます。新アルバムの配信を楽しみにしています。
 



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実質的なベストアルバムにして、伊藤真澄の集大成。


灰羽連盟』『うみものがたり〜あなたがいてくれたコト~』などの主題歌を担当。


なぜか2021年になって配信され始めたアルバム。ということで2021年リリース扱いで。アニソン歌手としての活動は、現在は多分していない。最近では、『白い砂のアクアトープ』第2クールEDテーマ「新月ダ・カーポ」のシングルのカップリング曲「運命論アイドリング」の作曲を担当した。ちなみに作詞は畑亜貴伊藤真澄の曲、畑亜貴の作詞多い。

声質はハリの強い高音である一方で、柔らかさとアダルティーなムードを感じるような、独特な声である。歌謡曲と非常に相性が良く、落ち着いた雰囲気のある曲調が多い一方で、「ねむねむ天使」のような可愛らしい曲、「ユメのなかノわたしのユメ」といったアップテンポな曲もある。

コーラスを散りばめた曲が多いが、それも自身の声である。その点、豊かなストリングスと相まって結構荘厳な感じが出ているのだが、持ち前の声の柔らかさ上手く調和し、それを活かす歌唱力も相まって、非常に聴きやすい。押しつけがましくないし、耳にスッと入ってくる。全編通して、心を洗われ優しい気持ちにさせてくれるような、そんなアルバム。柔らかい歌声とストリングスサウンドの組み合わせ、やっぱ強いわ。

中でも、「Blue Flow」「GLOW OF LOVE」のような切なさと不気味さを感じる曲が大好きで(Blue Flowは灰羽連盟本編の内容と歌詞のリンクで余計感情に来る)、多分、コーラスの入れ方とバックのシンセの音作りが天才的なのだと思う。例えば「Blue Flow」で言うと、切なさと不気味さを際立たてる際のアクセントとして、中盤の展開で音圧上げてコーラス重ねて抑揚付けてってので、同アルバムの他の曲とは一線を画したアプローチで面白い。歌唱出来て編曲出来るって、なかなかいない。

伊藤真澄にもう一度アニメの主題歌を担当して、歌ってもらいたい。そう思えるような、素敵なアルバムだった。
 



  • Chima『nest』(2021)

nest - EP

nest - EP

  • Chima
  • アニメ
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良くあるようで形容しがたい世界観。


今年は『月とライカと吸血鬼』のEDテーマを担当。TVアニメ『ゼロから始まる魔法の書』のED主題歌でメジャーデビューを果たす。


Chimaの名前を知ったのは今年。フリフラのED曲「FLIP FLAP FLIP FLAP」をふと聴こうと思ったら、タイトルの横に「TO-MAS feat.Chima」ってあったわ。で、TO-MASっていう音楽グループのメンバーに伊藤真澄がいるっていう、何という偶然。選評そっちのけでこの曲について話したい。キャッチーでどこか癖になる主旋律、「不思議さ」を追及するストリングスと、後ろでガチャガチャ鳴っている変な音の数々。そのうちに世界観に引き込まれていくが、ここでアウトロを長くしたのは天才的だと思う。深夜アニメ史に残すべき名曲だと思っている。

さて、歌唱のChimaであるが、良くも悪くも平坦である。あえてダイナミクスを抑えながら、優しく歌いかけるような感じ。前述した伊藤真澄もそうだが、曲の至るところでコーラスがMixされている。どこかレトロチックでアダルティーな雰囲気が出ているのはそのためだろう。ただ、伊藤真澄と違うのは、ストリングスサウンドの迫力は抑えめで、ベース、アコギの音が使われている点。現代的なシンガーソングライターの楽曲という印象。

アコースティックな音源を使った曲以外にも、電子音をガチガチに使った曲があって、「ありふれたいつか」と「urar」になる。アルバムを何周したか分からないが、結局この二曲が飛び抜けて良いと感じてしまう。Chimaの声の醸し出す「無機質感」(特にコーラス)と電子音が上手くマッチして、神聖なイメージが肌に合うみたいな感覚。コーラスの入れ方にしてもドラムのアプローチにしても、とにかく、あらゆる部分が聴いていて面白いし、心地いい。「ありふれたいつか」とか、裏でPAN傾けて鳴っているチチチチって音(ハイハット音とは別にある)を何故入れようと思った。結果連想するのは、昔の記憶とか、薄汚れた制御装置とか、やっぱ「無機質感」と「レトロ感」に収束するわけで、わけわからん。

アルバム『冬のおはなし』『夏のおはなし』ももちろん聞いた。とてもいい。だが、おすすめするなら断然この『nest』である。
 



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チェロを持ちながら歌うのカッコ良すぎる。


selector infected WIXOSS』のOP主題歌で有名。その他アニメ主題歌多数。ボーカリストチェリストである。


今年、一番聞いたアルバム。分島花音と言えば、このアルバムから音楽性に変化があると言われている。ヴィジュアル系バンド『MALICE MIZER』のギタリスト・Manaが多くの曲をプロデュースしていた前回盤から、今回では分島花音が全曲作曲し、編曲家も一新。チェロを主役に置いたゴシック・クラシカルな楽曲からジャズ風の楽曲、ロック、ポップ志向の楽曲まで、幅広くこなす。具体的な変化としては、弦楽器以外に打ち込み(とすぐ分かる)音源を多く使用していたものから、アコースティックな音源を使用するようになった。リード曲「killy killy JOKER」や「ツキナミ」のようなアップテンポな曲は前回盤にはあまり見られない。

Manaがプロデュースしていた時のアルバム『少女仕掛けのリブレット ~LOLITAWORK LIBRETTO~』よりも『ツキナミ』を選んだのは、単純な好みもあるにはある。が、主な理由としては、チェロとの融合という点において分島花音自身の楽曲性を確立している点と、編曲によるものが大きい。やはり、チェロとアコースティカル(弦楽器だけでなく、ギターも含めて)の相性の良さというのが、際立っている。その点、チェロの主張は控えめになってしまったが、メリハリをつけて部分的に挿入されることによって、むしろ曲中の展開の変化を豊かにし、良いアクセントとなっている。例を挙げると、一見すれば良くあるキャッチーなアニソンである「killy killy JOKER」「サクラメイキュウ」では、それぞれの間奏とサビにチェロを組み込むことによって前述した効果がある。

「チョコレート」では落ち着いたクラシカルな雰囲気、「signal」のバラード、「ファールプレーにくらり」ではロリータ、カワイイ系の雰囲気で、分島花音の対応力の高さが垣間見える。何度も通して聴くうちに、この三曲を特に好きになってしまう自分がいた。

あと、編曲の変化について、『少女仕掛け』の楽曲「プリンセスチャールストン」と『君はソレイユ - EP』のカップリングのそれと聴き比べてみると、分かりやすいかもしれない。この曲はマリスミゼル時代では珍しい分島花音作曲であり、カワイイアップテンポ系。今でも、この曲が一番好き。この曲のライブの時の分島花音が一番可愛い。正直、結婚したい。

アニオタにとって分島花音と言えば大体「WIXOSSの人」というイメージがあると思われるが、その実、このようなザ・アニソンな曲は少ない。まずは、『ツキナミ』を聴いて、分島花音の世界に浸かってみるのも良いだろう。
 



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レヴュー曲とは、モラトリアムの全てである。


これを入れさせろ。今年のアニメ映画は豊作だった(らしい)が、中でも圧倒的に異彩を放ち、結果的に多くのキリンを生み出した怪作にして傑作『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のアルバム。そのレヴュー曲をリード曲に、その他劇伴が収録されている。今回はあくまで、アルバムと同時にアーティストを選出する企画なので、二枚のアルバムの劇中歌のみ参照したい。アーティストは、スタァライト九九組、とでも言えばいいのだろうか。

劇場版スタァライトを傑作たらしめる一つの要因が、この「レヴュー曲」にある。一般に舞台で使われるようなクラシカルで伸びやかな楽曲のほかに、ロック、民族音楽、ジャズなど様々。それは作品内の少女のクソデカ感情の波を表現したからに他ならない。結果として、曲中の展開、変化には注目せざるを得ないわけで、一種のキャラクターソングとしては独特な味わいとなっている。レヴュー曲の特徴は、歌詞がそのままキャラクターの内面に直結しているという点。メタフィクションと演劇を組み合わせる演出形態ならではの楽曲なので、やはり映像との噛み合わせを味わってほしいというのが本心ではある。

中でも、ワイルドスクリーンバロックの開幕を宣言した「wi (l) d-screen baroque」は、最も印象に残りやすいだろう。変拍子と度重なるテンポ変化で、まあ「変な曲」なのだが、音楽的な面白さは語るに尽きない。ドラムに注目すれば、サンバキック→四分打ち→8分の6のマーチング→……のように、曲の展開が著しいことが分かる。ただ、これに関しては、実際に聴いてもらうのが吉だ。ぜひ、劇中のキャラクター・大場ななの空虚感とエゴを感じとって欲しい。その他レヴュー曲も素晴らしい出来である。何というか、プロの狂気を見たという感じ。

異質なアルバムであるが、作品を知らない人にも、ぜひ聴いてほしい。
 


たった5選なので、選評に漏れてしまったアルバムがたくさんあります。いずれも素晴らしい作品ばかりでした。特に気に入ったアルバムを、ここに共有いたします。
 

総括

今年、私のブログ「理工系のアニメ日記」を開設して、その年はもう終わります。アニメ感想・批評とありますが、字数ばかり増えて、結果読みづらい記事ばかりになってしまいました。しかも、堅い記事ばかりなので、エンタメ志向の楽しい記事というのはほとんどありません(これからもこの方針で行きます)。でも、今回は、自分の好きなものを思う存分語りたいということで、久しぶりにワクワクして記事を書いていました。来年も、本ブログをよろしくお願いします。