波路を築く

アニメの感想&批評

シャドウバースF 1話~12話 各話感想

2022春アニメになります。
 

第 1 話

新鮮。主人公がシャドバを始める動機が「運命めいたもの」であり、朝のカードゲームアニメとしては、従来の少年漫画的(スポ根的)な文法から外れている。性格は、意を介さない物言いという点では前作と似ているが熱血漢ではない。朝のカードゲームアニメではなかなか見られない。

シャドバが経済の中心となっている架空の日本であるが、過去に起きた事件を解決する手段として、ある意味軍事的に利用されていたのか。具体的な部分はともかく、シャドバがただのエンタメではない実情、その他世界観をお構いなしに見せていくのが、何ともぶっ飛び少年漫画風で痛快。
 

第 2 話

チュートリアル回おそらく前編。単純にドラマ部分の尺を増やせるので、キャラクター性やストーリーの推進力に磨きがかかる。主人公とシノブは互いに「変わり者」と評価していたが、部員の手助けをする一面は両者共通しており、単に変人と形容するにはもったいない人間的魅力がある。

チュートリアル回として個人的に嬉しかったのが、美鬼シノブ(CV.大坪由佳)の声の聴き心地が良いこと。これがアクの強い男性キャラだと疲れそう。第一印象はモノズだったけど。かなり癒しキャラかも。
 

第 3 話

「楽しい」を前面に押し出す感じがいかにも朝のホビーアニメらしく、かつての少年心を思い出させて良い。それとは裏腹に、シノブの造形は独特で、偏物のようで思慮深い、と思えば何か重たい物を抱えているという、盛りだくさんな属性はホビーアニメではなかなか見られないのではないか。

本作、切り札が 2 枚あるのがより戦略性を際立たせて(カードゲーム的に)面白いし、うち一枚のマスコットの「会話できない」という設定により、「会話できる」という点で主人公補正を表現していたりと、単純に作劇が上手い部分もあって、切り札 2 枚はきっと成功だろう。
 

第 4 話

ターン制のバトルを通じて主張がぶつかり合う点が、ゆっくりと力強い進行で演劇チックな要素があり、キャラクターの感情の高鳴りが可視化されるような感じ。ジェントルマンの人となりを、真正面から真実を見抜こうとするライトの姿勢がいかにもバトルアニメの主人公。
 

第 5 話

天然気質な主人公だから正直な物言いのおかげで物語の推進力が増す。デジフレの正体、ライトを監視する謎の人物といった、終盤にかけて回収しそうな謎と、シノブやジェントルマンの成長物語、次の道場破りなどミクロな視点でも期待が生まれる B パートだった。
 
 

第 6 話

成長と共に必然的に生まれる性差、自身の内なるイメージと他者に求められるイメージの乖離、ジュブナイルの定番。「みんな変わってしまった」と嘆くレンだが、それも含めて大人になるということなのだろう。だからこそ、内面の世界を真実に追及する(青春時代の)物語が面白いわけで。

一般的男性のイメージから外れて中性的なイツキは単にヒロインという枠ではなく、この回のために生まれてきたかと思うほどのジャストミートな設定。人物の関係に広がりが生まれて、もっといろんな絡みが見たいと思わせるようなそんな話でした。

追記
ステレオタイプな男性像・女性像の象徴として「かっこいいヒーローに憧れる」、「お花栽培セット」が出てくるのが、なんだか懐かしい感じもする。創作はそれを強要しない寛容さがあるけど、現実、そのような固定観念は既に打ち砕かれているように感じる。(例えば女児向けのプリキュアとかあるし)
 

第 7 話

バトル自体がテーマの「自分らしさ」を象徴するような、クラス特性に限らず、その人自身の持ち味が良く出ている。変に遮って効果を説明するシーンを省いて熱量を持たせる演出が素晴らしく、カードゲームアニメとしても優秀。

結局、タツミとイツキのぶつかり合いは信念の違いでしかないので、どちらが正しいというわけではないのだろう。イツキはレンの恩師ということになるだろうが、初期仲間がそのポジションを早々に得るという進行も、かなり珍しい感じがする。部長としての胆力を見せつけてくれた。
 

第 8 話

本気を出さなければ優秀な兄弟と比べられても言い訳になるから、スバルは逃避しているのだろう。それを(現時点では)明言化せずに、意図的か分からないプレイングミスや対戦中の表情で演出していく描きがいい。

成長物語の「中心人物」がスバルということで、今までのライト→シノブ&ジェントルマン、イツキ→レンとは異なり、他チームのフワリ→身内のスバルという働きかけ。そういう意味では、いずれスバルが誰かを救済してセブンスフレイムに勧誘する展開が来そう。
 

第 9 話

フワリに全てを見透かされてまでも、彼女に「羨ましい」としか言えなかったスバルに対する最後の後押しが天然無垢な主人公の一言だったという展開に、少年のマインドを思い出させる感じで良い。

4 クールの長さを活かしたプロットで論理的な話の組み立てが出来ている印象を受ける。バトルを減らしてドラマ部分を増やしたのは大成功ですね。あとマスカレードゴーストが強すぎてスバルのピンチ感あまりなかった。
 

第 10 話

ハルマに先輩との居場所を潰されたことがトラウマになり諦観を貫くツバサだったが、真っ直ぐに突き進んで周囲の期待を集める主人公たちの評判を聞いて、自分が間違っていると自覚しつつある。自身の無力を直視したくないがためのセブンスフレイムに対する敵意という描きがリアルで良い。

中盤のパズルを解く場面でツバサの実力の高さを簡単に見せてくれるのが良い。そして、周囲を冷めた目で見ている彼女が、ハルマと同様に弱い他者を陥れる思考に至るという、矛盾した考えをそのまま受け入れている状況。部を引き継いだことを思い出して、野菜ジュースを握りつぶす状態。

今までの回と異なり、ピアノを基調としたノスタルジックな BGM と、が使用されることによって思春期特有の不安を抱えたツバサの感情が見事に表現されている。感覚的には、ゼロ年代に多かった雰囲気アニメの系譜に近い。
 

第 11 話

頑張っていないし諦めたと言うツバサですが、現状に後ろめたさを感じている様子が、顔を映さない構図、震えなどから推察できるのが良い演出。そしてライトの押しつけがましくない度量の広さが、爽やかな視聴感に繋がっている。
 

第 12 話

囚われた心から抜け出したかったというツバサの願望が、バトル演出を通して表現されている。単にハルマを倒すだけなら強さを認められるにとどまるのだが、少年漫画らしく「分かり合いたい」というライトの心構えがツバサを認めさせるという流れも良い。

ツバサがライトに「守護を超えるので精一杯。それでも……」と、間違っている自分を吹き飛ばして欲しいという期待を隠しきれない様子が表情と相まって表現されていて、より必死さが伝わってくる。
 

ベストエピソード

第 10 話
自分の居場所を潰したはずの「弱者が夢を見ることを糾弾する」思考を受け入れてしまったツバサという存在は、本当は自分が間違っていることが分かっているので、単にトラウマを抱えて前に進めない状態とは少し話が変わってくる。割と自分を客観視出来てしまっているからこそ抱える不安感というものが、ピアノ音楽、光の陰影などを用いて効果的に表現されていた良回。天然無垢な主人公は真っ直ぐな物言いで、紛れもなく少年漫画的な文法の産物であるが、後にバトルで焚きつけられた感情をも押さえつけるような素振りをするツバサを救済するには、こういうキャラクターが一番だよね。と、極めて朝のカードゲームアニメなはずなのに、この回の作風は一風変わった雰囲気重視で、良いアクセントだった。