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アニメの感想&批評

ストーリー分析について①

ストーリー分析について①
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管理人は“しからば吟二”氏を崇拝しております。記事のリンク先
【ストーリー解析入門】ドライバー理論
ストーリー解析ブロマガ ストーリー解析について(技術者向け)

本ブログにおける「ストーリー分析」の構想を考えていたところ、極めて興味深い記事を見つけた。紹介した記事の内容は、ストーリー解析の理論についてである。この理論はしからば吟二氏のオリジナルであり、本人によって体系化されたものである。記事では、ストーリーを構造的に解き明かすためのメソッドが、端的に記されている。

本記事の目的について。管理人が記事を書くときに、これから記す以下のものを考えているということを何となく理解していただければ、幸いである。

なお、本記事より前に投稿された「ストーリー分析」の記事は、必ずしも以下で説明する理論に基づいて作成しているわけではない。言わば、発展途上の理論であり、その内容は現在進行形で徐々に変化している。そのため、変更があれば、その都度本記事を編集することになる。

ストーリー分析の理論の学術的価値については、無いに等しい。せめて、「ドライバー理論」の二番煎じにならないよう、オリジナリティを求めていく所存である。

だが、こう宣言しておきながら、結果的にはドライバー理論の偉大さを認識し、導入を検討するという自己矛盾に溢れた状態に管理人は陥っている。私とてドライバー理論を完全に理解しているわけではないが、あまりにも便利なので、適宜取り入れていこうという所存だ。

つまり、ドライバー理論の、ある種改善案(肉付け案)としてストーリー分析の方法論を体系化してみたいという欲求に成り代わったのだ。では、どこに変化を見出すか。具体的な説明は以下に記すが、例えば「要素」の導入は、ストーリーの構造を解き明かすための有益な手段となり得るのではないかという仮説に基づいて、ストーリー分析は作られている。

「要素」からなるストーリーの定義づけもまた管理人のオリジナルであり、ドライバー理論での「ストーリー」とは、定義が異なる。そして、個人的には自分のやり方がしっくりくるので、その感覚を信じてストーリー分析をやるまでである。

用語

ここでは、ストーリー分析の際に用いられる用語の説明を行う。一般的に使用されている用法とは異なることがある。
 

ストーリー分析

ストーリー分析とは、「ストーリー解析」の理論「ドライバー理論」を参考にして管理人が定義した、ストーリーの構造について考える行為、あるいはその理論を意味する。本ブログでは、普通は固有名詞として扱うが、単に「ストーリーの分析」を意味することがある。
 

要素

要素とは、一定の時間間隔を持った、アニメーションまたは音から得られる情報である。

  • 例えば、セリフ、シーン、カット、SEなどは、要素になり得る。


異なる要素を組み合わせて、新たに一つの要素とすることは可能である。

  • 時間的に連続したものでなくとも、組み合わせることは可能である。


分析者が、画面または音から得られる情報を要素であると決定することを、要素を取るという。

要素の取り方は、分析者の自由である。

  • ただし、要素は客観性を重視する

 

ストーリー

ストーリーとは、一定の時間間隔を持った、有限個の要素の集まりある。

  • 任意のストーリーの元(げん)は要素である。


異なるストーリーを組み合わせて、新たに一つのストーリーとすることは可能である。

  • 時間的に連続したものでなくとも、組み合わせることは可能である。


ストーリーに含まれる要素の選択は、分析者の自由である。

  • 任意のストーリーで、元となる要素の順番は一つに定まってなければならない。


ストーリーは分析者によって“解釈”される

  • ストーリーの解釈は分析者によって異なる
  • ゆえに、ストーリーに、客観的な正しい解釈は存在しない

 

解釈

解釈とは、分析者による以下の行為のことを言う。

  • 要素に情動を与える。それが出来ない場合、説明的な要素として処理する。……①
  • 要素を組み合わせてストーリーを形成する。……②
  • ストーリーに情動を与える。このとき、複数の情動を与えても良い。……③
  • ①、②、③それぞれの行為が解釈であり、①と②、②と③、①と②と③、とひっくるめた行為も、解釈と呼ぶことが出来る。


ストーリーに情動が与えられない場合、そのストーリーは破綻する。

  • ストーリーに複数の情動が与えられた場合、その流れが明らかに破綻しているとき、同時にストーリーも破綻する。(これは、③によって起こり得るが、分析者は②の時点で過ちを犯している)
  • 説明的な要素もストーリーに組み込まれる場合がある

 

情動

心理学の用法の他には、一般的に「感情の動き」を意味する単語である。ストーリー分析では一般的な用法を用いる。

情動を与えるとは、対象となる要素やストーリーが、対象の人物にとってどんな感情が引き起こされているかを判断するという行為である。

  • 具体的にいかなる情動を与えるかは、分析者による
  • 判断できない場合、情動を与えることはできない

 

ストーリーの強度

強度とは、そのストーリーがどれくらい自然であるか、論理的であるかなどを示す評価基準である。

  • 強度は、高いほうが望ましい
  • ストーリーの強度は、そのストーリーに与えられた情動の流れの自然さや、その情動の数などによって決まる
  • ストーリーに含まれない要素やストーリーが、そのストーリーの強度を高める場合がある
  • 強度の判定は極めて主観的なものである。

以上で、用語の説明を終える。



ドライバー理論導入の検討

ドライバー理論

ここで、ドライバー理論の登場である。

[ドライバーの]定義:
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言うことにする。

ドライバーはストーリーの起点や終点を決定し、ストーリーの主要部分を構築するためストーリー構築においても非常に重要な概念である。ドライバーにはその性質から次の5つの種類がある。

悪(evil driver)と善(good driver)
愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
提示(presentation driver)

これらのドライバーの頭文字をとってそれぞれE,G,L,F,Pで表わす。ストーリーはこれらのドライバーの組み合わせによって構成される。


要するに、ストーリーに展開される情動の流れを、ドライバーの記号的表現にあてはめて要約することで、そのストーリーが「どんなストーリーか」、「登場人物の役割は何か」を明確にするという目的で作られたのが、ドライバー理論である。

ストーリー分析にこれを取り入れてみたい。

例えば「とある男が優勝したいと思って出場したマラソン大会で、結果的に優勝した」というストーリーがあるとする。

このストーリーを構成する要素には「男がマラソン大会で優勝したいと思っている」「男はマラソン大会で優勝した」といったものが見出せるだろう。

これらに情動を与えていきたい。しかし、仮に一個目の要素に「マラソン大会で優勝したい」という情動を与えるとして、これでは流石に情報量が多い。そもそも、ストーリーそのものを読み解くのではなく、ストーリーの構造を解き明かすことが目的なので、より単純化されるべきである。

そこで極めて有用なのが、ドライバー理論の「ドライバー」である。各種ドライバーの具体的な定義については引用しないが、「マラソン大会で優勝したい」という情動を与えられた要素にはLドライバーを持たせることが出来る(厳密には、ドライバー理論では「要素にドライバーを持たせる」ことはしていないが、ストーリー分析ではこのような扱いをしようと考えている)。そして、「男がマラソン大会で優勝した」という要素には、仮に「優勝できてうれしい」という情動を与えるならばLドライバーを持たせることが出来る。

この場合、このストーリーは、L―Lドライバーを持つ。

異なる場合を考えてみる。例えば、「男はマラソン大会で優勝した」といった要素に情動を与えず、ただの設定や情報の提示として重要視するパターンがある。この場合、このストーリーにはL―Pドライバーを持つだろう。「とある男が優勝したいと思って出場したマラソン大会で、結果的に優勝した」を丸ごと要素とし、Pドライバーを持たせることも可能だ。

さらに、「とある男が優勝したいと思って出場したマラソン大会で、結果的に優勝した。男の母親は彼が優勝する姿を見て、嬉しくて泣いてしまった」と、ストーリーに含まれる要素を付け足してみよう。

この場合の母の視点に注目してみたい。「嬉しくて泣いてしまった」にはLドライバーを持たせることが出来る。問題は、このストーリー全体のドライバーをどうするかだ。L―L―L、L―P―L、P-Lの3通りある。だが、決してどれかが正しいというわけではなく、ドライバーの選択は分析者の独断による。

この作業(解釈)が、まさに「ドライバー理論」でいう”推進力の抽象化”だ。この抽象化が、極めて重要なプロセスなのである。




ここまで長く書き連ねてきたが、ドライバー理論を取り入れるかどうかは未だ検討中である。

次回では、ストーリー分析の実践をしてみたい。使用する資料は、アニメ『ココロ図書館』第2話の予定。