波路を築く

アニメの感想&批評

ストーリー分析について②(『ココロ図書館』第2話までのネタバレを含みます)

ストーリー分析について②
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「ストーリー分析」を補足もかねて実践してみる。

使用する資料は、アニメ『ココロ図書館』第2話である。該当作の第2話までのネタバレを含むので、ご留意いただきたい。

実践の前に、ココロ図書館の概要と選考理由について簡単に述べておこう。

本作は、漫画原作(髙木信孝)のテレビアニメ化作品。2001年秋アニメ。監督は『かみちゅ!』『マギ』の監督などで知られる舛成孝二。音楽は保刈久明。アニメーション制作はスタジオディーン。あらすじは、原文ママで「人里離れた山の奥にある小さな図書館。そこには、穏やかで優しい女の子がいて、しっかりものの女の子がいて、図書館と同じ名前の女の子がいるのです」とある。そんな三人の司書の服装はなんとメイド服である。しかも主人公はロリ。一体、誰の趣味なのだろうか。

そんな感じの『ココロ図書館』であるが、良い意味で面白い作品だということは管理人が保障する。第2話は、ストーリー分析の理論を実践するにあたって打ってつけの内容であり、また序盤なので極力ネタバレを抑えられる。

三人の司書が本作の最重要人物である。
   こころ(図書館と同じ名前の女の子)- 斎藤千和
   あると(しっかりものの女の子)- 市原由美
   いいな(穏やかで優しい女の子)- 沢城みゆき

その他主要人物をまとめる
   上沢純(配送業の男性)- 三木眞一郎
   岡嶋朱葉(こころと同年代くらいの女の子)- 金田朋子

では、実際にストーリー分析のフォーマットにしたがって実践してみる。その際、本文に加え補足を交える。
補足→青字、拡大率110%
本文→黒字、拡大率90%

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ココロ図書館 第2話『今のわたしにできること』

基本情報

ここでは、各回の脚本や絵コンテ、演出などの情報をまとめる。


第2話のあらすじ(dアニメストアから引用)

ただでさえ来館者の少ない「ココロ図書館」。その来館者がさらに減ってきていることに気づいたこころたちは、みんなで利用者を増やす方法を考えることにする。手作りのチラシを作って町で配ることにした三姉妹だったが、あるとの何気ない言葉を聞いたこころはショックを受けてしまい…

本記事が概説の役割を担っているために、分かりやすさを重視して用意した項なので、通常は書かない。


評価

A スタンダード

ここでは、各回の評価とその属性(ここでは、形式的にこう呼ぶことにする)を記す。評価の基準は様々であるが、ストーリーの強度を中心とする。評価は主観的なものであり、分析者の独断による。作品全体の評価とはあまり関係ない。

属性は、スタンダード、テクニカル、ストロング、コミカルなど、ストーリーの特徴によって分類わけされる。ウィーク、ミスマッチングといったマイナス評価の属性もある。

評価はA、B、Cの三段階である。評価A、Bのうち、ストーリーの構造に特に優れた点があった場合、テクニカルやストロングといった属性で表す。そのため、一般にスタンダードよりもテクニカルやストロングといった属性が付随している方が、ストーリーが構造的により優れていると言える。

ストーリーの解釈において特に大きな不満点があった場合や、ストーリーの強度不足だった場合には、評価B、Cを下すことがある。裏を返せば、その場合に該当しない限りA評価となるので、全てのエピソードでA評価を取って欲しいものだ。


総評

第2話は、一見こころ回であるが、どちらかと言えば説明回ないし準備回の側面が強い。利用者が減っているココロ図書館で、こころの出した案によって多くの人が押し寄せるという王道的な展開である。しかし、奇妙なのは、それを「奇蹟」として処理している点である。こころの願いが叶ったというストーリーの裏には、何か重大な伏線めいたものが張られており、期待と不安が煽られる回となっている。

ここでは、エピソードの総評を行う。150~200字程度。


ストーリー

メインストーリーは、
①三人がココロ図書館の利用者を増やす方法について相談する
②チラシを街中で配ってココロ図書館の宣伝をする
③大勢の人がココロ図書館に訪れる
である。

サブストーリーは、
(ⅰ)上沢さんがチラシ配りを引き受ける
(ⅱ)あるとが不意にこころを傷つけ、こころが逃げ出す
(ⅲ)こころが立ち直る
などがある。

不満点を挙げるとすれば、サブストーリー(ⅱ)→(ⅲ)の強度がやや不足しているところか。

それ以外は、極めてオーソドックスなサクセスストーリーと、ココロ図書館の「奇蹟」に関する情報の提示などがある。今後の展開に期待できる点も多い。

ここでは、メインストーリー、サブストーリーを述べ、最後に一言コメントを述べる。メインストーリー、サブストーリーの選考基準は、分析者による。


分析

まずは、第2話で初登場した上沢純というキャラクターを見ていく。ココロ図書館の配送業者であり、あると、いいなとは既に見知った関係である。

上沢さんは、いいなに恋心を抱いている。このことは、あるとに「あからさますぎる」と指摘されている。
[5:18]照れながらいいなと会話する上沢さん

さて、利用者が減っているココロ図書館であるが、その対策についてこころたち三人が話し合う。ココロ図書館の宣伝をすることが決定し、その具体的な方法を各自考えることになる。

翌日、三人での話し合い。金銭的に不可能ないいなの案と、「美人三姉妹によるスーパーケア」というあるとの案は棄却され、こころの意見が採用される。

あるとの意見は比較的現実的なものであるが、いいなが「スーパーケア」のサービスの内容を必要以上に勘ぐってしまい、こころの身を案じて断固拒否するという流れだ。このあたりは、ギャグとして処理されている部分もある。

こころの具体的な案を聞く直前にシーンが切り替わり、こころたちが作業している場面へと移る。この流れで、こころの案が採用されたことが分かる。

その内容は、街に宣伝用のチラシを配ることだった。三人はチラシを完成させ、上沢さんにチラシ配りを頼む。だが、配達のついでだと主張するあるとに対して、上沢さんは仕事があるとなかなか引き受けてくれない様子。

そこでキーとなる要素が、上沢さんのいいなへの恋心である。上沢さんは窓の向こうにいるいいなを見て、ココロ図書館のためにチラシ配りを引き受けることを決める。そこでいいなが見えなくなり、動揺する上沢さんであるが、こころとあるとの前で宣言した以上引くに引けないので、結局チラシ配りを引き受けることになる。
[15:31]溜息をつく上沢さん

ここで、起承転結の転に入る。あるとといいなの会話。
「これでいいのかな。チラシ程度で利用者が増えるとは思えないし」
「あるとちゃんは知らないんだ。ココロ図書館はね、”奇蹟”が起こせるのよ。信じない?」
「普通そうでしょ。チラシ一枚で利用者が押し寄せてきたら誰も苦労しないって」

その会話をたまたま聞いていたこころは、あるとの発言をきっかけにココロ図書館を飛び出してしまう。確かに、こころの思いを踏みにじってしまう言葉であるかもしれないが、無論あるとにはそのつもりはなかった。

そこで、あるとはこころに謝ろうと、いいなと一緒にこころを探す。

ここで注意したいのは、あるとといいなに発生する要素および情動である。あるとには、「こころに謝ろうとする」という要素が発生する。これは、ある目的を果たしたいというLドライバーを持つ。同時に、あるとといいなには、「こころを探す」という要素を取れる。ここには、「こころを見つけたい」という情動が与えられるので、Lドライバーを持つ。

あるとといいなに関する今後のストーリー進行で考えられるのは、「あるとがこころに謝る(L)」と「あるとといいながこころを見つける(L)」である。これにより、あるとといいなには「願いが叶う(L―L)」というストーリーの基本形式が与えられる。このようなストーリーに与えられる情動は基本的にポジティブであり、またストーリーはハッピーエンドとなる。果たして、このエピソードではどうなるだろうか。続きを見ていこう。

さて、こころの視点に切り替わり、「来ないのかな。来てくれないのかな。ダメなのかな」とつぶやく。これは、ココロ図書館に本当に人が来るのかという不安と、来てほしいという願いが入り混じっている。

しばらくした後、こころは「私、司書になったんだから図書館に戻らないと」と呟いて図書館に戻る。この展開は、自己完結のセオリーに基づいており、論理性に欠ける。(他者や物事が主体に影響を与えずに、その主体が以前とは違う行動や情動を示した場合、それを自己完結のセオリーと呼ぶことがある)

図書館に戻ったこころは、朱羽とその母親である翠さんに出会う。こころのチラシを見て、ココロ図書館にやってきたそうだ。

こころは、チラシを見てお客さんが来てくれることを願っていた。二人に感謝の気持ちを伝え、涙を流す。
[20:31]泣いているこころ

その後、たくさんの利用者がココロ図書館に来てくれたところを目にする。いいなは、「ココロ図書館は奇蹟を起こせる」「こころが自分の気持ちを正直に書き記したからみんな来てくれた」と言っている。つまり、ココロ図書館にたくさんの利用者が訪れたのは、こころの思いが街に届いたがゆえの奇蹟であると言っている。

話が前後するが、このエピソードには、あるとがこころに謝るストーリーや、あるとといいながこころを見つけ出すストーリーは存在せず、未解決のストーリーとなってしまっている。先述したこころの自己完結とも相まって、サブストーリー(ⅱ)→(ⅲ)は強度に欠ける。

では、メインストーリー③「大勢の人がココロ図書館に訪れる」について考えてみる。これは、「ココロ図書館の奇蹟」によってもたらされたものでる。通常は必然性と論理性共に欠けるストーリーであり、いわゆる「ご都合主義」的な展開だ。しかし、実際にこのエピソードを見て、ご都合主義や強度不足だと感じる者はほぼいないだろう

その理由は大きく分けて三つあると考える。
①こころが利用者に来てほしいと願い、チラシを作って街に配るという、「願い」「問題の解決のための行動」が描かれていること
②いいなは、ココロ図書館に利用者が押し寄せてきたことを「奇蹟」ととらえていること
③本作品には、その他不穏な要素が多々含まれていること

①に関しては、単純な構造だ。「願い」→「問題の解決」というストーリーの間に、「問題の解決のための行動」という要素が挿入されることによって、「何も努力していないのに願いがかなう」という状態を回避している。ラストの展開への説得力は、これがあるのとないのとでは段違いである。

②は、超常現象への説明的な役割を持っている。あるとが指摘した通り、一般的な感覚では、
チラシを街に配ったところで「大勢の人がココロ図書館に訪れる」はずがないのである。その点で言えば、「大勢の人がココロ図書館に訪れる」というストーリーは、「普通起こり得ないこと」であり、説明がつかない。だがこのエピソードでは、「普通起こり得ないことが起こる」という意味合いを含む「奇蹟」という言葉を用いて、論理的な説得力を高めている。

しかし、そもそも「奇蹟」が起こること自体、論理性に欠ける出来事だ。そこで効いてくるのが、③である。本作の第1話だけでも、人里離れた山奥の図書館、司書はロリを含む美人三姉妹、制服はメイド服、こころとココロ図書館の名前は同じ、いいなの愛車は軍事用水陸両用車、など、不可解な点が多く見られる。これら不穏な要素は、舞台の現実感を犠牲にして、代わりにファンタジー的な世界観を構築している。

そのため、本作には、「仮にココロ図書館に超常的な力が宿っていても特に違和感が無い」と視聴者に感じさせるほどのパワーがあると考える。これは極めて感覚的な論考に過ぎない。だが、例えば、舞台を京都の街中にあるありふれた古書店と設定した場合に、メインストーリー③を展開するよりは、ストーリーの強度は高くなるのではないだろうか。

前回の記事では、「ストーリーの強度は、そのストーリーに与えられた情動の流れの自然さや、その情動の数などによって決まる」と定義している。だが、メインストーリー③の強度を判定する際に、メインストーリー③に含まれていない「人里離れた山奥の図書館(ドライバー:P)」「制服はメイド服(P)」といった要素が関与していることが分かる。このように、強度の判定は極めて主観的であり、どの要素が作用するかは分析者の判断によるものが大きい。これで、前回の記事の強度に関する命題「強度の判定は極めて主観的である」の意図するところをご理解いただけただろう。


補足

1. 上沢さん

上沢さんは、いいなに恋心を抱いている。


2. 奇蹟

ココロ図書館には奇蹟を起こす力がある。その力には、どうやら三姉妹の父親が関係しているらしい。父親についてや、ココロ図書館の過去については、今後明かされることになるだろう。


ここでは、そのエピソード内で張られた、あるいは解決した伏線や謎について、重要そうなものをまとめる。通常は、最後に「伏線や謎は以下の通り」といった枠を設けるが、ここでは割愛。代わりに、ココロ図書館らしい伏線を一つだけ紹介する。

それは、第2話冒頭で明かされた、「こころはジョウロで虹を出すのが得意(P)」という説明的な要素だ。実は、この先いつか、こころがジョウロで虹が出せなくなる(F)展開が起こる。もともとジョウロで虹を出せない人が虹を出さなかったところで、Fドライバー(失敗)は持たない。だが、こころが主体となれば、その背後に心理的なストーリーが存在することになる。そのため、この要素には情動を与えることが出来、Fドライバーを持つ。


これで、ココロ図書館第2話『今の私にできること』のストーリー分析を終える。



おまけとして、ドライバー理論で簡単にストーリーを抽象化してみたい。
①三人がココロ図書館の利用者を増やす方法について相談する(E→G)
問題の発生(E)→解決への試み(G)

②チラシを街中で配ってココロ図書館の宣伝をする(G)
解決への試み(G)

③大勢の人がココロ図書館に訪れる(G)
問題の解決(G)[願いが叶う(L)]

メインストーリー全体を最も単純なドライバーに当てはめるのならば、問題の解決(E→G[L])となる。


(ⅰ)上沢さんがチラシ配りを引き受ける
上沢さんは仕事があると拒絶(E)→上沢さんがいいなを見る(L)→上沢さんが引き受ける(G)

このシーンは、実はもっと複雑な構造をしており、ギャグ要素も含まれている。そのため、ストーリーの強度は高い。

(ⅱ)あるとが不意にこころを傷つけ、こころが逃げ出す
(ⅲ)こころが立ち直る
あるとの言葉にこころが傷つき、逃げ出す(問題の発生E)→こころが「司書になったんだから」と言ってココロ図書館に戻る(L[G])→こころが立ち直る(L)(これは、メインストーリー③によってであるため、願いが叶うLドライバーを持たせる)

まとめるとE→L[G]→Lとなる。

E→L[G]の間に、あるとといいながこころを見つける(L)、あるとといいなの言葉によってこころが立ち直る(G)という要素が挿入されれば、よりストーリーの強度は高くなるだろう。さらに、あるとの「こころに謝ろうとする(L)」と、あるとといいなの「こころを探す(L)」という要素も、L―Lドライバーの一部となり、おのずとストーリーが完結する。こうすれば、文句なしのエピソードだった。

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まとめ

ストーリー分析の概要は以上である。一般向けの記事とは言い難いが、それ以前に誰にも伝わらないのではないだろうかという不安もある。自己満足の備忘録と思い込んで不安から逃げることも出来るが、やはり何とか伝わって欲しいという一心で記事を書いているので、誰か一人の役にでも立てればと心の底から思う。

一つだけ言いたいこと。アニメ(に限らず芸術作品全般)の楽しみ方は人それぞれなので、自分に合う楽しみ方を模索して欲しい。本ブログでは、引き続きストーリー分析とレビューを中心に頑張っていきます。