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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』

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基本情報

評価

A テクニカル

総評

第1話は、くくると風花の出会いの回。見どころは、風花の心理と世界観の描写である。風花の繊細な心理描写を交えつつ、今後の伏線になりそうな不穏な要素が多々挿入されており、巧妙な構成といえるだろう。

ストーリー

今回のメインストーリーは以下の通り。
①風花がアイドル事務所を辞め、沖縄に行く
②風花が水族館でくくると出会う

サブストーリーは、
(ⅰ)くくるの学校生活
などがある。

ノローグを用いて内面描写が描かれたのは風花のみである。くくるは、(ⅰ)で母子手帳の回想があったのだが、それについては後々見ていくことにしよう。

分析

第1話の狙いは、視聴者を作品世界に没入させることにある。背景や小道具の作画や劇伴が世界観にマッチしているのはさることながら、登場人物の扱いにも一工夫置かれている。具体的には、風花とくくるの視点をスイッチさせつつも、あくまで視聴者の分身(作品世界へと誘導する役割である主人公)を風花一人に定めることで、作品への没入感を高めている。また、行き当たりばったりな風花を描くことによって、風花の悩み、過去のしがらみ等がストーリー進行に極力影響を与えないような構成になっている。言い換えれば、風花が新たに見た世界が、ストーリーを突き動かしているといったところか。

さて、沖縄に飛んできた風花であるが、まずは回想から。ここで、風花がアイドル事務所を辞めたことが明らかになる。その決定的な要因は判断がつかないが、担当者は「やる気がなかった。チャンスを人に譲るなんて甘い」と述べる一方で、後輩からは「先輩のチャンスを奪った私のせい」と風花に謝罪をしている。

風花自身は、「辞めるのは私が決めたこと」と言っており、この時点では、特に未練や後悔といったマイナスの心情は読み取れない。後輩を応援している気持ちも嘘ではない。

ところが、再び回想が挿入される中盤、風花の目は涙を浮かべている。
[17:41]「頑張ったのに」と涙する風花

具体的に回想のシーンを追って見ていこう。風花は努力の末、新曲のセンターに選ばれた。しかし、後輩が担当者に迫る場面とそれを陰で聞いている風花の描写ののち、センターはその後輩に代わる。風花はサブポジションに落ち着くどころか、(おそらく自分の意思で)新曲から完全に降りている。

謎が残る。まず、その担当者は「チャンスを人に譲った」と述べている。この「チャンス」は、後輩の発言から、新曲のセンターを担うことと同義であると見てよいだろう。担当者の「センターを譲る」とは、最終決定権がまるで風花にあったかのような物言いだが、「頑張ったのに」と涙するほど熱を注いでいた風花が、果たしてそのような決断をするだろうか。まあ、深く考えるものでもないかもしれない。

一旦、サブタイトルの『熱帯魚、逃げた』に注目したい。イシガキカエルウオに「同じだね、私と」と語りかけたことから、熱帯魚=風花だ。「逃げた」のストーリー上の意味として候補は二つ。実家に帰ることから逃げたのか、アイドル活動から逃げたのか。これに関しては、その後の展開を見る限り後者の解釈が適切だ。
[16:15]「同じだね、私と」と熱帯魚に語りかける風花

熱帯魚と風花の共通要素は「こんな隅っこに隠れてたら、みんなに気づいてもらえない」点と、「頑張り屋さんな」点だ。風花が頑張り屋さんだったのはアイドル活動をしているとき。隅っこに隠れているという部分をアイドル活動に当てはめるのならば、最大限に見積もっても脇役に落ち着いていた風花、といったところか。(一応、握手会にファンと握手する描写はあった)

どういった経緯で「逃げた」のか、詳細は不明だが、アイドル活動を辞めることが自分の意思でない限り、「逃げた」という表現はまず出てこないだろう。その後、怒涛の水流から逃げる風花という、ファンタジー色を全面に押し出した場面が挿入される。これにて、直後の風花とくくるの出会いに続く。

このように、第1話の時点では、風花のアイドル絡みのストーリーラインを強固に保つためのピースが不足している。所詮、匂わせの段階に過ぎないので、多くを語ることもないだろう。

とまあ、長々と過去を掘り下げていたが、今回は、風花がくくると出会う回だ。そこに至る変化を象徴的に表しているのが、海の生物である。具体的にはイシガキカエルウオとケープペンギンだ。
[23:21]ペンギンに重ね合わせるようにくくるに向かって走る風花

過去の風花はイシガキカエルウオと重なっている。そこから「逃げた」ことにより、夢や憧れを失った「何もない女の子」となる。行き当たりばったりな様子の風花を淡々と描くことによって、風花の虚無がより強調される形となっている。最後の場面、風花はくくるに「働かせてください」とお願いする。第1話において初めて、風花が積極的に自己主張をする場面だ。

まさにケープペンギンが、最後の場面の風花を象徴しており、「内に閉じこもる熱帯魚」から、何もない存在へ、そして「自由に泳ぎ回るペンギン」という変化が読み取れる。具体的なペンギンの生態は語られていないが、何もないからこそ自由な風花、そして解放感を演出するには適役だ。

一方のくくるに関しても少し語っておきたい。とその前に、シーンの切り替わりの指の演出がよかったので注目。
[10:36]スマホを操作する風花の青のマニキュア
[10:38]バイクのスイッチを入れるくくるの無垢な指

明るく朗らか、海の生物ガチ勢、仕事熱心なくくる。そんな彼女が顔を曇らせた場面、回想が入る。
[12:09]二つの母子手帳

交付日は、両方が平成14年10月8日で同じ。片方の母子手帳には、くくるの氏名と生年月日が記されており、もう片方は何も書いていない。くくるは双子で生まれてくる予定だったのだろうか。

そして、くくるは高校生になった現在でも、それを思い出しては、浮かない表情をしている。くくるの誕生の真実は、今後のストーリーのキーとなっていくだろう。

補足

1. 生年月日

[6:53]風花の生年月日:2003年5月17日
[12:09]くくるの生年月日: 2003年7月7日(平成15年7月7日)
[15:51]7月19日までチェックされているカレンダー

街中やアイドル事務所に貼ってあるポスターから、現在は2021年。カレンダーの情報から7月20日あたり。東京や沖縄の高校なら、夏休みに入っていてもおかしくない。ちなみに、2021年7月のカレンダーと曜日が一致している。

風花とくくるは同い年だ。年齢は18歳。留年していなければ高校3年生のはず。数学の授業の内容が数Ⅱなのが若干気になるが、特に突っかかることでもないだろう。

風花に関しては、これから水族館で働こうとしている部分から、高校に通っていないとするのが妥当だろうか。


2. ファンタジー

[1:23][12:31]お供え物を口にするキジムナー
[8:21]前を歩くキジムナーに全く視線を向けない風花

くくるが言っていた「キジムナー」は、この派手な格好をしたやつを指す。人間離れしたキジムナーの行為と、キジムナーがまるで存在していないかのような描写。

[9:10]朝起きたら帽子が消えていた風花と、取り囲むように配置された骨のようなもの
[17:57]風花の幻覚(?)

とりあえず現時点では、「分からないことはキジムナーの仕業」で片付けてしまって良いのではないか。


3. がまがま水族館

[15:51]カレンダーの8月31日に赤い〇
この日、何が起こるのか、何かのタイムリミットなのか、未だ不明。

作品のあらすじには、がまがま水族館は閉館の危機とあるが、第1話を見る限りそれほど小さな水族館にも見えないし、それなりに来場者もいるので、現状の問題は人材不足くらいのようにも見えるが……。


残された伏線や謎は以下の通り。
①風花の過去に何があった?
母子手帳の意味は?
③8月31日に何が起こる?
④ファンタジー現象の謎

その他の主要人物がストーリー上どんな役割を持っているのか。この先の展開が楽しみだ。

これで、白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』のストーリー分析を終える。