白い砂のアクアトープ 第3話『いのちは、海から』
←前回 次回→
基本情報
評価
B ミスマッチング
総評
第3話は、くくるを中心にがまがま水族館を取り巻くスタッフたちの交流を描いていく。くくるに限らず、様々なキャラクターの性格が描写から読み取れるようになっている。しかし、所々の展開に強引で恣意的な印象を受ける。さらに、その展開がストーリーの強度を高めることに繋がっていない。もう少し、要素の組み合わせを見直したほうが良かったのではないか。
ストーリー
メインストーリーは、
①くくるがチョコ(ペンギンの名前)の診療のために竹下さん(獣医)を呼ぶ
②竹下さんが水族館で破水して、くくるたちが対応に追われる
③竹下さんが出産する
④くくると風花がお揃いのキーホルダーを付ける
である。
サブストーリーは、
(ⅰ)仲村櫂と風花の会話
(ⅱ)くくるがおじいに叱られる
などがある
分析
第1話、第2話と、風花中心のストーリーが展開されていたが、今回はくくる回であると同時に、群像の趣も感じられる。そのため、キャラクターを力点に置いてストーリーを見ていこう。
1. くくる
まず、冒頭の回想シーン(夢という形で挿入されている)。ペンギンに興味深々のくくるは、そのペンギンの名付け親となる。→チョコ
[0:14]ガラス越しにペンギンを眺めるくくる
高校のリュックには、ファーストペンギンのキーホルダーがついている。
[1:25]キーホルダーのアップ
ファーストペンギンの定義については、風花がくくるの作ったキーホルダーを見る→風花がネットで意味を調べるという流れで提示される。これは、単なる視聴者への提示ではなく、風花もファーストペンギンを知るというストーリーも生まれている。これは後に、メインストーリー④に効いてくる。
「リスクを恐れずに勇気をもって新しいことにチャレンジする人」とあるが、くくるは館長代理として、水族館の経営を任されている。館長のおじいは閉館を決めており、街に閉館の噂が立つほどの危機的状況を、高校生ながらにして乗り越えようとしている。この時点で既に、くくるはファーストペンギンと言えるだろう。
そんな姿を応援してくれる学校の友達との会話で、友達の一人は夏休みに水族館に遊びに来る約束をする。
[2:53]ネット越しに会話するくくると友達
ペンギンの体重測定の日、チョコの異変が発覚する。それも、自然に治る症状ではない。空也(女子苦手の人)とくくるのやりとりは、「館長が帰ってきてから相談すれば」→「悠長だ。竹下さんに相談する」→「先に館長に報告すべき」→「ちょっと電話するだけ」という流れである。
症状を患っているのがチョコであること、竹下さんに無理言ってお願いするつもりではなかったことを踏まえても、館長に報告しない理由にはならないはずなので、ここはストーリーに不満を覚える。もっと言えば、他のスタッフが館長に報告しても良かったはずだ。サブストーリー(ⅱ)を描きたかったがために館長に報告という展開を避けたのだろうが、ストーリーの整合性を犠牲にして描くほどでもない。
[7:41]窓を隔ててくくるを映している図
くくるが電話する際の描写で、窓の外から俯瞰する構図。先ほどのガラス越し、ネット越しの演出と同様に、カメラとくくるとの間に壁を隔てている。それぞれ、家族との思い出、陽気な学校生活、館長としての判断力という、くくるにとって「遠いもの」を的確に演出している。BGMの使い方も相まって、アニメーション的には見どころがある。
竹下さんがペンギンの様子を見に来たが、しばらくして破水してしまう。くくるたちはその対応に追われることになる。展示ポスターの前で竹下さんを休ませて、フェンスで隠すようにする。裏でやってくれ。
[13:33]「この場所を使わせていただきます」と来客に説明するくくる
タクシーよりも夏凛が送っていくのが早いということなので、竹下さんを連れて病院へ。しかし、不発弾が埋まっていたとのことで道路が渋滞→夏凛が持ち前の土地勘を活かして迂回する。
しかし、「不発弾」「道路が渋滞」といった要素がその後のストーリー展開に関与することはなく、ストーリーラインから完全に浮いている。なぜ、このような異例の事態をわざわざ描く必要があったのかは分からない。
その後、くくるが館長に叱られる場面→竹下さんが無事に出産する、と繋がる。
メインストーリー④。くくるはファーストペンギンのキーホルダーについて、
「勇気を持って新しいことにチャレンジできるようになりたい。そんな願いを込めて作ったんだ」
と言っている。そして、最後に「勇気って、ただ無謀なこととは違うよね」と言ってこのエピソードを締めくくる。
だが、この教訓めいたセリフは、今回の内容に即したものだったのか。つまり、くくるは今回の体験を経て、無謀なことをしないよう心掛けることを学ぶ、そういったストーリーだったのだろうか。
残念ながら、そうとは言い切れない。確かに、くくるの強がりと未熟さが今回の事件を引き起こしたのは事実であり、「一人で抱え込む性格」の危うさは、おじいにも櫂にも指摘されている。
だが実際のところは、くくるが起こした過ちは「館長に電話をしなかった」ことだけであり、それが起点となって連鎖的に不幸な出来事が重なったせいで、今回のようになってしまったのである。それに、竹下さんは実質的に自分の判断で、しかも一人で水族館に来たわけで、今回の騒動では彼女にも責任があるはず。危険を冒したくなければ、来なければいい話だ。そのため、くくるの強がりが起こした問題の責任はくくるだけのものではなく、無謀だったというには無理がある。
少し横道に逸れるが、館長に叱られる際にも、「先におじいに相談すればよかった」「全部ひとりでやろうとしてはダメだ」と、館長代理としての正しい行動を心掛けるようにと言われている。それは全うな指摘なのだが、別にくくるとて他人に迷惑をかけたくて過ちを犯したわけではない。それを全てくくるのせいにするのは、あまりにも酷ではないか。
くくるの課題や欠点というものは、確かに描かれた。だが、館長代理としての適切な判断が示されて、それによって果たしてくくるが成長したかどうかは、疑問である。
2. 風花
くくるの夢を応援する立場にいる風花は、櫂と風花の事情(親がいないことなど)や性格について話し、役に立ちたいという思いを一層強める。風花のサポート熱心な姿は、今回も描かれている。
[16:46]竹下さんの付き添いに行く風花
今回の騒動を経て、母なるものの温かみに触れた風花は、母親に真実を打ち明ける。これは明確な成長物語である。
[20:44]母にメールする風花
最後のシーンでは、風花がファーストペンギンのキーホルダーを付けている。ここはシンプルに、風花とファーストペンギンとを重ね合わせる→風花の夢を応援したい気持ちの表れとみて良いだろう。
3. 空也
[6:58][12:53]座っている空也
[7:21]野菜ジュースを飲む空也
空也の仕事熱心な部分が効果的に描かれている。疲れ果てているのは、むしろ空也なのかもしれない。
そんな空也であるが、館長に拾ってもらったことを感謝する際には、正面を向いて立っている。自動車免許を持っていないという情報も、空也の「おじいへの恩の強さ」を引き立てている。ここしか居場所がないんだよと。
[3:30]館長と話す空也