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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第14話『ペンギンチェイサー』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第14話『ペンギンチェイサー』

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基本情報

  • 監督:篠原俊哉
  • 脚本: 山田由香
  • 画コンテ:市村徹夫
  • 演出:市村徹夫
  • 作画監督:水野紗世、他9名
  • アニメーション制作:P.A.WORKS

 

評価

A スタンダード
 

総評

第14話は、くくるのバックヤードツアーのストーリーと、風花のペンギン飼育のストーリーが並行する回である。互いのストーリーが相補的に作用しあい、ストーリーの強度は高い。また、前回とは打って変わってポジティブな情動を与えるストーリーが多く、物語が順調に進行していることに爽やかな印象を受ける。アニメ―ション的にも見応えがあり、特にバックヤードツアー関連の画コンテは素晴らしい。
 

ストーリー

メインストーリーは、
①くくるがバックヤードツアーの準備をする
②風花がペンギンの名前のテストに合格する
③くくるのバックヤードツアーが成功する

である。

サブストーリーは、
(ⅰ)くくるが朱里とバックヤードツアーの練習をする
などがある。

全ドラマパートがくくるや風花の成功に働きかけるような構成となっており、一話完結のエピソードとしても完成度の高いものと言えよう。
 

分析

飼育部海獣担当に所属することになった風花は、ケープペンギンチームの一員として、知夢や米倉マリナと共に働くことになる。潜水士の免許も取ったようだ。

くくるや風花の成功をメインストーリーに置いているが、特にくくるに直面する問題は様々だ。バックヤードツアーの一番の目的は水族館の宣伝である。しかし、ペンギンチームの知夢や魚類担当の薫と話を合わせようとしても、都合上無理だと跳ね返されるのが現状だ。

飼育部長の助力もあって、薫のほうからは後々許可(バックヤードツアーでの餌やり)が下りるのだが、ペンギンチームに関しては問題が山積みである。それでも妥協したくないくくるは、ペンギンチームにもう一度声をかけることになる。
[15:07]くくる「でも、ペンギンはみんな喜ぶと思うんです」
[15:10]副館長「どっちなんだ!」

そこで鍵となる存在が風花となる。ペンギンチームは、くくるにバックヤードツアーのガイドを申し込まれ、風花とマリナは前向きな様子。風花のペンギンの名前テストの結果が、知夢の許可に直結するというのが今回のメインストーリーの一つである。テストは無事合格し、くくるや風花、マリナが知夢にバックヤードツアーの件を折り入って頼む展開だ。

結果として、バックヤードツアーにペンギン観察や餌やりを組み込むことが出来、当日は成功となる。少し注意したいのは、バックヤードツアーの組が一組だけだったことから、水族館の宣伝という目的の成功とはなっていないということだ。これに関しては、くくるが副館長に指摘されている通りだ。だが、あくまでメインに据えているのはくくるの成功体験であり、この経験によってくくるは今後の自信につながっていく。
[22:58]風花「でもお客さん楽しんでくれたんでしょ」

以上がエピソードの概略となるが、個々のシーンに注目していくと色々なところが見えてくる。

まずは、くくるの目標である。それは、いつか飼育の仕事に戻るというものだ。ここで言う目標とは、言わば本作を包括するストーリーの到達点である。この目標が(1)達成される (2)達成されない (3)目標が変わり新たなストーリーの到達点が生まれる:これらいずれかによって、初めてストーリーが完結する。この「いつか飼育の仕事に戻る」というくくるの目標は、今後の展開のあらゆる要素に直結しうる要素なので、常に注目していきたい。
[10:45]風花に目標を告げるくくる
(おそらくこのシーンの演出的には、車の光が顔に射して明るくなっている状態=目標が見えている、ということを意味するのだろう。くくるの顔が照らされ、その後風花の顔が照らされる描写となっている)

ある意味では、今回のストーリーもこの目標に沿ったものと言えるだろう。飼育の仕事が出来るようになるには、今やっている営業部の仕事をしっかりとこなさなくてはならない。その努力の支えになっているのが風花の存在であり、仕事仲間の存在であり、海の生き物の存在でもある。それゆえに、くくるが営業部の仕事を(例え嫌なことや辛いことがあっても)頑張っているという状況は、常に整合性が取れていることになる。

ただ、風花に関しては、新しい目標が見えない。言い換えれば、その目標はすでに達成されている。Cパートで明言されていたように、くくるがティンガーラで働いているから、風花もティンガーラに就職したのだ。風花(とくくる)を主役に添えていた前半部とは異なる部分は、作品全体を通して完結されるべき風花中心のストーリーが存在しないところだ。今後の風花のストーリー上の役割に注目である。

続いて、バックヤードツアーの画的な構図について。今回、バックヤードツアーの場面は二つある。一つ目は、朱里との練習。二つ目は本番。

一つ目に注目すると、我々視聴者は朱里と同じ視点(朱里の背後から俯瞰する視点)にあり、水族館の様々な場所の概観が分かるようになっている。大げさな表現をすれば、バックヤードツアーを追体験しているといったところか。
[12:58]「ティンガーラの心臓部」を切り取る描写
[13:14]大水槽を俯瞰する描写

ところが、バックヤードツアーの本番では、くくるの視点に切り替わっている。つまり、バックヤードツアーに際して、お客さんの反応を存分に描き、表情やしぐさなどからその雰囲気がしっかりと伝わるようになっている。作画的にも、このお客さんの描写のこだわりが見られるので、ぜひ注目してみて欲しい。
[19:57]「ティンガーラの心臓部」でのお客さんの反応
[20:04]大水槽を見て喜ぶ子供たちとその家族

 

補足

1. くくると風花

先ほど指摘した通り、くくるには「いつか飼育の仕事に戻る」という目標がある。対して風花には、今後の指針となるような目標は明示されていない。風花は、サブキャラクターと同じ立ち位置になるのだろうか。


残された伏線や謎は以下の通り。
①くくるの双子兄弟のストーリーにおける役割
②ファンタジー現象の謎
③くくるの目標はどうなる?


これで、白い砂のアクアトープ 第14話『ペンギンチェイサー』のストーリー分析を終える。