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アニメの感想&批評

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

  • 監督:吉田りさこ
  • 脚本:水上清資
  • 絵コンテ:高田耕一
  • 演出:則座誠
  • 総作画監督:音地正行、坂本哲也
  • アニメーション制作:J.C.STAFF

総評

第7話は、異なる陣営同士が衝突する回。一度見ただけでは、登場人物が抱え込んで真相を明かされない部分にモヤモヤが溜まるところがあるかもしれない。しかし実際は、抑えるべき点は抑えているので、ストーリーの強度は高い。さらに、物語全体の問題提起がなされた回でもあり、非常に重要な回と言えよう。

ストーリー

まず、ストーリーを時系列順に並べてみる。

①詩が放心状態の仁菜に話しかける
②陽桜莉たちが百の言動の違和感を探る
③陽桜莉が瑠夏に姉との過去を話す
④陽桜莉たちが詩を探しに七夕祭りに行く
⑤瑠夏と百がコンビニで話す
⑥佳奈の友達(PN.あゆあゆ)のフラグメントが抜かれ、戦闘へ

自殺を見過ごした後悔から克服すべき弱点を見つけた瑠夏、親との関係を断ち同じ境遇に悩む者を見つけた都、過去を断絶され真実を求め続ける百、個別で過去を語られた詩も仁菜も。それぞれ自身が掲げる信念のもと活動しているのに対し、陽桜莉は「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という道徳的規範を大義名分とし、それのみを行動原理としていた(ように見えた)。主役たる存在として明らかに何かが不足していた陽桜莉、そんな彼女についての情報は意図的に伏せられていたようにも見える。

だが、今回のエピソードを通して彼女の人格は徐々に色を帯びてきた。詳しくは次項で見ていくことにしよう。

分析

1. 陽桜莉

本作における陽桜莉の立ち位置はどのようなものなのか。今回で初めてハッキリしたといっても良い。

今まで陽桜莉は、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という、比較的世間一般に共有されている道徳的な感覚に基づき、フラグメントが抜かれることを阻止してきたように描かれた。先に述べておくと、これは何も悪いことではない。主人公は視聴者を作品世界へと誘導する役割がある以上、陽桜莉と我々視聴者との感覚に溝を作ってはならないため、共感を生みやすいキャラデザにすることはむしろ創作のセオリー通りである。

だが、今回に至るまでの陽桜莉には明らかに主人公として不足していた要素がある。それは、人物の背景だ。人物の背景というものは、いわばその人の人格を形成する基盤であり、個性を生み出すためのツールにもなる。それが描かれなかったために、陽桜莉の行動理念はありきたりの救済願望にしか基づいていないように見えた(実際は違った)。つまるところ、主人公は陽桜莉である必要がなかったのだ。とある道徳的規範に基づいて行動する人物ならば誰でも良いのだから。

そこで挿入された第7話であるが、陽桜莉とその姉美弦との過去が語られたのである。前回までにしっかり他のキャラクターを掘り下げていたし、ここで明かされたのはグッドタイミングだった。具体的にシーンを追って見ていこう。

[8:51]「母に会いたい気持ち」を短冊に書く陽桜莉と美弦
陽桜莉と美弦は、幼いころに父親を亡くし、しばらくして母も行方不明になったという設定がある。美弦は陽桜莉を何よりも気にかけて生活し、陽桜莉にとって美弦は母のような存在でもある。

当然、父母を失ったことによる心の傷というのは陽桜莉の中にはあって、それは今も昔も変わらない。(今は、姉とも引き離されたことの苦しみも抱えている。)

[7:40]雨の日の屋上に陽桜莉を連れていく美弦
[8:45]「二人はきっと会える」と陽桜莉に諭す美弦

天の川の対岸にいる織姫と彦星の例え話ではあるが、陽桜莉たちとその母の関係性を示しているとみて間違いない。美弦は、自分たちが母に会える可能性を陽桜莉に説いたのだ。

[22:33]「お姉ちゃんに会えますように」と書かれた短冊
このシーンから、陽桜莉の姉に対する信頼が見て取れる。「きっと会える」という姉からの教訓をもとに、「自分の希望」が叶うことを信じて追い続けている。

ここで構造的に重要なのが、陽桜莉の「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という思考の拠り所となる理由は、姉である美弦によってもたらされたものであるということだ。

前述した通り、陽桜莉は母を亡くしたことに心の傷を負っている。姉である美弦は具体的な心情描写がなされていないものの、短冊の願いを考えれば陽桜莉と同様に苦しみを抱えていただろう。

そんな中、美弦が陽桜莉にした例え話は、辛い現実に直面しながらも、いつか願いが叶うという「希望」を象徴するものであった。しばらく経って、両親だけでなく姉とも引き離されても、「姉に会いたい」という願いを短冊に書いている場面から、陽桜莉の「希望」を追い求める姿勢は依然として残っていることが分かる。

その人にとってのトラウマがあっても、受け入れて頑張って生きていく。そして、その先の輝かしい未来を信じる。陽桜莉は姉である美弦の存在を受けて、信念を形成するに至ったのだ。これで、彼女にとって姉という存在が、彼女の人格を支える柱となっていることが理解いただけるだろう。

一方で、フラグメントを抜くという行為は、辛い現実に耐えられなかった者の、一種の現実逃避の手段としての精神的医療行為だ。その内容は、辛い過去を無理やり忘れさせ、なかったことにするというものだ。

そして陽桜莉の信念は、母の不在という現実を受け入れず、ただそれを忘れたいといった現実逃避的な思考とは対極にあるものである。

そのため、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」というのは、単なるありきたりな救済願望とか、一般的な道徳や倫理の観念とかに基づいているわけではなく、姉の存在がくれた信念とその姉に対する信頼関係によるものが大きいということだ。

この背景が、主人公である陽桜莉が真に主人公であるための重要な仕掛けとなっているのである。陽桜莉が「お姉ちゃんガチ勢」であることが分かったからこそ、その後の展開による陽桜莉の心情の変化にも説得力が増す。

そのストーリーは極めてシンプルだ。陽桜莉にとって精神的支柱であった美弦が陽桜莉の信念を否定し(フラグメントを抜き)、自分を一瞥だにせず去っていく。そんな景色を目の当たりにした陽桜莉は立っていられないほどに絶望してしまう。

このあたりの説得力は、陽桜莉の大義名分が姉の影響を受けたものであるかとそうでないかで大きな差がある。

このように第7話は、陽桜莉を主役に添えた物語の陽桜莉回として、高い完成度を有しているのだ。

ちなみに、雨の日の屋上は、第2話で陽桜莉が瑠夏を誘った場所である。「ここね、雨の日は特別なんだ」と陽桜莉が瑠夏に言った意味が明かされた。


2. 仁菜

副次的な要素であるが、仁菜についても整理しておこう。

[3:23]仁菜を「生ける屍」と称する詩
仁菜はしばらく放心状態である。「お姉さんは仁菜ちゃんに何を見せたのか」という詩の問いに答えないどころか、詩の質問にぴくりとも動かない。これでは、上記の答えの手がかりが掴めない。

[6:41][7:03][9:02]陽桜莉の回想シーンに付け加えられる仁菜のカット
演出的に考えれば、おそらく仁菜が美弦の心の中に見たものは、この陽桜莉の回想と同じものなのだろう。逆にそうでなかったら明らかに不自然な演出なので、確定したとみて良いかもしれない。

[17:41]詩を攻撃し、陽桜莉にタイマンを申し込む仁菜
明らかに陽桜莉に敵意むき出しの仁菜。一体陽桜莉の何が許せなかったのか。

想像の域を出ないが、仁菜は陽桜莉が美弦の思いを踏みにじっていると感じたのではなかろうか。

前提として、仁菜が美弦の心の中で見たものは、陽桜莉の回想シーンと同様のものだったと仮定しよう。その中で描かれたものは、陽桜莉と美弦の互いに対する思いやりや信頼である。

おそらく美弦は、リフレクターとなった今でも陽桜莉のことを大切に思っていて、フラグメントを抜くという行為も陽桜莉のためを想ってやっていることなのではないだろうか。それがどういうカラクリなのか、我々はまだ知る由もないが。

仁菜が美弦の陽桜莉に対する思いやりを知ってしまったからこそ、今の陽桜莉の行動は美弦の想いを理解していないものであり、それが許せないという感情にシフトした、と考えるのが自然だろう。

仁菜の描写の曖昧性は、上記のように考えれば美弦の陽桜莉に対する思いやりを示唆しているとも捉えられるのだが、その真相はまだ分からない。


3. 問題提起

第2話あたりで既に浮かび上がっていた方向性なのだが、今回でより具体的な形を帯びてきた。

端的に言えば、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」派と「嫌なトラウマは記憶ごと消して楽になるべき」派の対立である。

[21:40]「思いを抜かれて楽になった」人々に詰め寄られるシーン
「私たちの邪魔をして何が楽しいのか」「これから先も苦しい思いをしながら生き続けろと言うのか」と主張する女性たちであるが、これに対して主人公サイドはどのような答えを導き出すのか。

功利主義的には敵サイドの主張もまっとうだが、目先の利益に飛びついているだけの苦し紛れの選択のようにも見える。かといって、苦しみを耐え抜いた先に何かあるのかと言われれば、それは分からない。がんばれ、お花ちゃんたち。


今後の展開が、非常に楽しみである。



以上で、BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』のストーリー分析を終える。