波路を築く

アニメの感想&批評

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第2話『濡れるのも仕事のうち』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第2話『濡れるのも仕事のうち』

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はじめに

頑張って追いつきます。

基本情報

評価

A スタンダード

総評

第2話は、第1話に引き続き風花視点が中心となる。ポイントは、夢を追いかけるくるると想いを支える風花という構図だ。前回のファンタジー路線とは打って変わって、現実を硬く描いていく。「風花ががまがま水族館で働く理由を見つける」エピソードとして、ストーリーが丁寧に作られており、好感が持てる。

ストーリー

今回のメインストーリーは以下の通り。
①風花が住み込みでくくると働くことになる
②風花がペンギンの餌やりで失敗し、くくるに叱られる
③風花が夏凛(観光協会の公務員)からくくるの話を聞く
④風花とくくるが話す

サブストーリーは、
(ⅰ)くくるが夏休みの目標を立てる
(ⅱ)風花とくくるが営業の男を追い払う

ファンタジックな前回とは一変、仕事のシビアさなどの現実の重さを強調しつつ、二人の間合いの変化を描く第2話である。

分析

まず、第2話のストーリーの大枠を作るのは、風花の水族館での仕事である。当然、背後には心理的なストーリーが展開されており、仕事のいきさつが風化の決意に繋がっていく。

その決意とは「夢を追いかけるくくるを応援すること」だ。そこに至るための要素(風花の過去、風花の失敗など)が、テーマを補強する形になっており、ストーリーの強度は高い。

冒頭、風花が水族館のスタッフとして働きたいとくくるに懇願する。そもそも、なぜ水族館で働きたいと思ったのか。

前回の内容に戻るが、くくるが「人手不足」を口にした後、風花が「ここにおいてください」と言っている。確かに、困っている他者の助けになりたいというのは自然な心理であるし、風花は夢を失いさまよっていたところに新たに目的を見出したため、前回の展開に無理はない。しかし、それが「がまがま水族館での仕事」でなければならない理由は描かれていないのが現状である。その理由を見つけるのが第2話のメインストーリーである。

具体的に風花の過去を追っていこう。風花がセンターと決まった際、とある理由から後輩がセンターをやりたいと言い出し、風花がチャンスを譲った。しかし、それによってマネージャーやスタッフにはやる気がないと判断され、徐々に出番を失ってしまった。高校卒業の時期も相まって、アイドル活動を辞めるに至ったのだ。

風花のアイドル絡みの過去についてこれ以上掘り下げる必要もないだろうから、風花の過去に関する情報は出尽くしたといっても良いだろう。

さて、現在。流れに流されて行き着いた住み込み先で、「どこでも良かった」と風花が思っていることをくくるに指摘される。
[6:40]浮かない様子のくくる

風花の初仕事はペンギンの餌やりである。くくるに指示されて行った餌やりショーは、完全に失敗に終わる。
[10:18]子供たちに笑われる風花
[11:15]手に絆創膏が三つ

この時風花が、水族館員としてだけでなく、餌やりショーを演じる役者としても失敗しているというのは、一つポイントだろう。アイドル活動の過去に、しかと向き合えていない風花の一面が如実に表れている描写である。

水族館に「真心を込める」とのくくる。風花とは対照的にくくるの仕事想いな点が随所に表れている。風花はくくるの傍で、その熱心な姿を間近で見ることになる。
[7:59]風花のマニキュアを注意するくくる
[10:25]風花を叱るくくる
[12:00]看板を立てるくくると風花

そこで挿入されるストーリーが風花と夏凛(観光協会の公務員)の会話である。夏凛は、設備の老朽化が主要因となって水族館が今月末に閉館になること、くくるは水族館を続けることを諦めていないこと、くくるは切羽詰まっているということなど、状況を話した。風花は、夢を守るために真剣なくくると自分の姿を照合し、辛い思いはしてほしくない、力になりたいと言う。
[14:07]胸に手を当てる風花

くくるにとってがまがま水族館は大切な場所であり、それを守ることが夢である。風花はアイドルの夢をあきらめたことをくくるに打ち明ける。夢を追いかける少女とその夢を応援する少女。風花の過去のエピソードでは、他人を必要以上に気にかけてしまう性格が結果的に彼女の失敗に繋がったが、そんな風花の立場が明瞭になったのが今回のラストシーンである。

夢に対するくくるの真摯さを間近で眺めていた風花がその助けになるというストーリーには、十分な強度がある。

補足

1. 8月31日

8月31日は閉館のタイムリミットであった。主な要因は、施設の老朽化とその維持費不足。それを回避すべく、くくると風花は奮闘する。


2. 高校生

風花は高校生であることが明かされた。高校を辞めないとして、常識的に考えれば、9月には学校が始まるだろうから沖縄を離れないといけない。ストーリー的に考えれば、8月31日の閉館フラグを折ることが一つの目的地であるから、風花の問題はストーリーに直接関わってくることがあるかもしれないし無いかもしれない。


3. 風花の母

風花が母と電話をするシーンがあったが、沖縄に行っていることすらも伝えていない。水族館に関してだけでなく、家族絡みのストーリーにも注目したい。


4. 紅芋の変色

[3:48]サーターアンダギーが緑色に
中の紅芋が緑色に。なぜか。紫芋や紅芋に含まれるアントシアニンという酸性の物質が、生地のベーキングパウダーの塩基(アルカリ)性と反応するためである。

アントシアニンは青紫色の天然色素であり、塩基性に傾くと青紫→緑に、酸性に傾くと青紫→ピンクになるという特徴がある。つまり、紅芋にレモン汁を垂らすとピンクになる。


残された伏線や謎は以下の通り
母子手帳の意味は?
②ファンタジー現象の謎

これで、白い砂のアクアトープ 第2話『濡れるのも仕事のうち』のストーリー分析を終える。

【ストーリー分析】Sonny Boy 第1話『夏の果ての島』(感想・考察)

Sonny Boy 第1話『夏の果ての島』

次回→

基本情報

評価

B エキセントリック

総評

第1話は、漂流された学校の世界で過ごす中学生たちの群像劇である。冒頭から既に漂流後の生活が始まっており、謎を多く残したまま物語が進行していく。また、視点は一様に定まらず、ストーリーラインは点々としており、ストーリーの強度はそれほど高くない。群像劇と言えば聞こえはいいが、登場人物の誰とも視点を共有できないのが現状である。これら諸々の性質は意図されたものであろうが、それが吉と出るか凶と出るか。

ストーリー

メインストーリーは以下の通り。
①キャップがリーダーとなる
②希がグループの参加を拒否する
③朝風たちがキャップに反抗する
④希が長良と落下し、世界が晴れる

①から④は、おおよそ時系列順になっている。

これらをメインストーリーと断定するには根拠が薄く、起承転結の構成とするにもかなり無理がある。ただ、ストーリーを突き動かしているのは、生徒会側のキャップと、それに反抗する朝風、そして景色を変えることに成功した希なので、この3人(グループ)を中心に据えて物語を見ていけば良いだろう。

サブストーリーは、
(ⅰ)ラジダニが世界の真実を探求しようとする
(ⅱ)長良と希の過去
などがある。

漂流が起こったきっかけは、サブストーリー(ⅱ)に大きなヒントがある。定石に従うならば、(ⅱ)を展開した後に漂流生活を描き、視聴者と視点を共有する主人公となりうる存在(長良)を軸に、ストーリーを組み立てていくだろう。だが実際は、①→②→(ⅰ)→(ⅱ)とストーリーが展開されている。それも、冒頭の①の時間軸は漂流直後というわけではなく、この時点で既に漂流から時間が経過している。そのため、日常→非日常に移行した際に普通描かれるべき、登場人物の反応(驚き、恐怖など)とその後の行動といった描写は必然的にすっ飛ばされている。(そもそも、日常→非日常のストーリーが存在していないこと自体が特殊である)

とりあえず、主要となる登場人物の名前、劇中の呼称、顔は一致させておきたい。

分析

上で述べた通り、冒頭のシーンは漂流からしばらく時間が経過した後である。視聴者はやむなく作品世界に叩きこまれ、どこに力点を置いて見ていけば良いのか判断しにくい。

それにしても、登場人物が多すぎる。1クールアニメの尺的都合上、キャラクターをどんなに上手く描き分けることが出来ても、主要人物は10人程度が限界だろう。中途半端に36人に個性をつけ、無駄に描き分けることによって、記号的な人格を持つキャラクターのオンパレードにならないことを祈る。

一応、第1話の段階では、長良と希、明星(ほし)とキャップとポニー(本名は椎葉まち?)、朝風の三つの勢力というシンプルな構図が終盤まで形成されているため、キャラクターの描き分けについてはけじめがついている印象。ストーリー自体も追いやすい。

ひとまず、明星の計画からストーリーが始まるので順を追って見ていく。その計画というのは、「新しいルールを作る」ということだ。生徒会長のポニーとキャップと共に、「漂流教室」というグループを作り、秩序を与える。リーダーがキャップに決まったのち、この世界のルールを定めていく。

グループに興味持たない長良とスマホを持っていない希は、グループから離れている状態だ。
[7:27]この世界のルールを二人に説明するはやと

朝風は、キャップがリーダーとなって仕切っている状態に嫌悪感を抱いていた。一旦は能力で反抗しようとするも、ルールに反したとして罰を受けてしまう。この時点では、キャップは自身の力で朝風を止めたと思い込んでいる。

次の場面、スマホを渡されてグループに誘われた希は、スマホを壊すことで意向を示す。ルールに反したとして、朝風と同じように罰を受ける。

さて、時が経って、朝風が再びクーデターを試みようと、新たに二人を連れてくる。電気をビリビリしてそうな女の子が上海、もう一人の長身の男の名前は不明(声もない)。
[17:36]上海と長身の男

おそらく学校の備品や構造物自体を動かしているのは、長身の男の能力によるものと考えられる。このとき、朝風は何のルール違反も起こしていない。そのため、上海と長身の男には罰が下り、朝風には罰が与えられない。
[18:54]動揺するキャップ

その後、キャップがバットで朝風を殴る。これはルール違反に相当し、明星の指示でキャップは罰を受ける。
[20:16]明星が罰を下す場面

「ルール」に関して、明星たちが決めたものがそのまま世界のルールになっているのか、はたまた世界のルールを最初から知っている明星が、自分たちが定めたルールという方便で黒板にそれを書いたのか、不明である。後々、補足の項で見ていく。

結果的には、キャップの独裁は終わっているため、表面的にはクーデターは成功したとみなせる。だが、世界の謎について、明らかに明星だけが多くを知っているような匂わせ方をしている。以後、彼が36人のリーダー的存在となっていくだろう。

その後、希が大ジャンプして落下することによって、世界が晴れる。このストーリーは、キャップと朝風のいざこざとは何の関係性もなく、独立したものとなっている。

長良と希に関して、全体を通してみたときに、どこか冷めた態度をとっている長良、周りに流されずに自分の意思を持ち続ける強かな希、というキャラクター像は表現されている。

補足

1. 能力

漂流した世界では、全員が何か特殊能力を持っている(はず)という設定。

長良
不明。


[4:19][12:05][21:30]希にだけはっきりと見えている「何か」
その「何か」は白羽なのか鳥なのかはたまた別のものなのかは分からない。だが、「ひまわり派、たんぽぽ派」のくだりから、何か眩しいものであることは間違いない。一応「長良にだけ見えていない」という解釈も考えられるが、周りの反応を見るに希にだけ見えているとするのが妥当だろう。能力に関係していると考えるのが自然か。

「ねえ、君はひまわり派? それともたんぽぽ派? 今いる場所より眩しく見える場所があったら、行って見たくなるか、置かれた場所で眺め続けるか」
「たんぽぽ派……かな」

キャップ
不明。

ポニー
[17:58]ポニーが能力を使って明星を逃がしたような描写
空き缶と明星の位置関係が入れ替わっている。能力は、物と物の位置を入れ替えるようなものだろう。おそらく、自分の体もそれによって動かしている。

明星
[20:56]朝風に見せた幻覚(?)
他人の脳内に直接語りかけるタイプの能力だろう。

朝風
空間を歪めてガラスを割っているような描写。

瑞穂
[4:51]「よーしよーし偉いねー」と猫と戯れる瑞穂
周りには大量の段ボール。能力は何か欲しいものを手に入れるとか? 「偉いねー」と言っているあたり、猫に指示しているのだろうか。

その他、気になる人物はいるが保留。


2. 漂流中の人間

[5:11]「2中3年2組、生徒会の谷川です」
計36人。全員クラスメイトである。その割には、人間関係がかなり殺伐としている印象。希は帰国子女という設定があり、キャップはそれを認知している。

身体的特徴としては、お腹は空くし、眠くもなる。おそらくケガも治る。普通の人間と何ら変わりはないようだ。


3. 漂流中の生活

スマホやアプリが使えるという時点で、電波は通っている。電気も水道も使えるしトイレも流れる。大量の段ボールもあり、食事も支給されている。スマホの電池もあれば新しいスマホもある。

これ、瑞穂の能力で食事やその他諸々賄っているとしたら、生活を営むうえで瑞穂の能力にウェイトが偏りすぎている気もする。あまりにも都合の良い能力なので、漂流する人間が生きられるよう、恣意的に与えられたものなのだろうか。


4. 過去

長良の二者面談と長良と希の会話のシーン。外はセミがうるさい。夏休み、もっと言えば8月16日の出来事なのだろう。

まず、長良と先生の二者面談……なのだが、グラスが三つ置いてあるあたり、本来は三者面談の予定だったのだろう。長良は進路を決めていないし、相談相手は先生しかいないようだし、長良の家庭の事情が気になるところだ。

次に、長良と希の会話とも呼べない会話を見ていきたい。まず、希は一方的に長良の名前や学年を知っている。帰国子女の転校生、おおかた、クラスの名簿をチェックしたのだろうと想像できる。そして、その後の会話。
「君、本当はどこかに行きたいと思ってる?」
この問いに対して、長良は無言を貫いており、彼の行動からしてもその答えは読み取れない。一応、「ひまわり派、たんぽぽ派」の問いではたんぽぽ派と答えている。だが、これでは上記の問いの答えになっていない。

[16:36]校舎に落ちる雷
これがきっかけとなって、漂流生活が始まったと考えられる。このとき、長良と希は屋上に、ラジダニは図書室にいた。クラスメイト全員は学校にいたのだろうか。他の学年クラスの生徒や、先生に影響はあったのだろうか。

あと、学校で変な事件が夏休み前に起こっていたらしい。具体的には、
①1学期に校庭でオーロラやスカイフィッシュが観測された
②ロッカーから三億円が見つかった
の二つ。(不可解な事件がこれだけかは分からない)


5. 時間

ラジダニの考察によれば、「僕らだけが取り残されて静止している」とのことだ。そのため、漂流中どれだけ時間が進もうと、現実世界では時間が進んでいないと考えている。

[0:09][0:44]秒針が動き時計が正午を指す
わざわざこのシーンを二回描いているということは、ループないし時間軸の孤立を示唆しているのだろう。日付は黒板の文字から8月16日。季節も天気も変わらないまま、この日を繰り返しているということだろうか。

ちなみに、『涼宮ハルヒの憂鬱 エンドレスエイト』のループ期間は8月17日からである。エンドレスエイトを意識しているようにも思える。


6. 明星

謎が多い男。世界が強制力を持つことを最初から知っていたこと、キャップをリーダーに仕向けたこと、自分たちを「犠牲者」と見なしていること、世界が晴れても表情が変わらなかったこと、などなど、どこか裏のある人間だ。それこそ、漂流した世界を一度経験している人間と言われても、何の違和感もない。

黒板に書いたルールが世界のルールと同一のものだとすれば、なぜそのルールを知っていたのか。(例えば、学校の備品を壊すことがルールに反する行為であることは、希の一件から証明されているが、なぜそれがルール違反になることを知っているのか)

そもそも、ルールは既に決められているものなのか新しく塗り替わるものなのか、それ自体が不明でもある。


7. ラスト

なぜ世界は晴れたのか、そのメカニズムを追及するのも野暮な気がするので放置。晴れたことによって得た情報は色々ある。学校が水に沈んでいること、目の前に大きな山があること、晴れても罰の効力は持続していること(キャップ)、などなど。

罰が続いているということは漂流中であるということ、このまま8月16日を延々と過ごすことになるだろう。昼と夜を行き来していたら8月16日の24時間をループしていると考えてみたり……。


残された伏線や謎は多すぎるため、抜粋する。
①長良の能力は?
②希の能力は?
③瑞穂の能力は?
④漂流世界と現実世界の時間の関係は?
⑤世界のルールについて
⑥学校の他の人間はどうなった?
⑦夏休み前の不可解な事件のストーリー上の役割は?
⑧希の問いに対する長良の答えは?
⑨長良の家庭の事情は?
⑩明星の「犠牲者」の意味は?
⑪明星の正体は?
⑫希の正体は?
⑬漂流から解放される条件

他にも、気になる部分は多々ある。


以上より、Sonny Boy 第1話『夏の果ての島』のストーリー分析を終える。

日記 7/20

お知らせ

テストあるので今月中は記事書かない。

劇場版アニメ

2021年放映の劇場版アニメ、上から見た順

スタァライトが一番面白かったなあ。円盤買う予定。

あと閃光のハサウェイとか見に行きたいけど8月中もやってくれるだろうか。

【ストーリー分析】白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』(感想・考察)

白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』

次回→

基本情報

評価

A テクニカル

総評

第1話は、くくると風花の出会いの回。見どころは、風花の心理と世界観の描写である。風花の繊細な心理描写を交えつつ、今後の伏線になりそうな不穏な要素が多々挿入されており、巧妙な構成といえるだろう。

ストーリー

今回のメインストーリーは以下の通り。
①風花がアイドル事務所を辞め、沖縄に行く
②風花が水族館でくくると出会う

サブストーリーは、
(ⅰ)くくるの学校生活
などがある。

ノローグを用いて内面描写が描かれたのは風花のみである。くくるは、(ⅰ)で母子手帳の回想があったのだが、それについては後々見ていくことにしよう。

分析

第1話の狙いは、視聴者を作品世界に没入させることにある。背景や小道具の作画や劇伴が世界観にマッチしているのはさることながら、登場人物の扱いにも一工夫置かれている。具体的には、風花とくくるの視点をスイッチさせつつも、あくまで視聴者の分身(作品世界へと誘導する役割である主人公)を風花一人に定めることで、作品への没入感を高めている。また、行き当たりばったりな風花を描くことによって、風花の悩み、過去のしがらみ等がストーリー進行に極力影響を与えないような構成になっている。言い換えれば、風花が新たに見た世界が、ストーリーを突き動かしているといったところか。

さて、沖縄に飛んできた風花であるが、まずは回想から。ここで、風花がアイドル事務所を辞めたことが明らかになる。その決定的な要因は判断がつかないが、担当者は「やる気がなかった。チャンスを人に譲るなんて甘い」と述べる一方で、後輩からは「先輩のチャンスを奪った私のせい」と風花に謝罪をしている。

風花自身は、「辞めるのは私が決めたこと」と言っており、この時点では、特に未練や後悔といったマイナスの心情は読み取れない。後輩を応援している気持ちも嘘ではない。

ところが、再び回想が挿入される中盤、風花の目は涙を浮かべている。
[17:41]「頑張ったのに」と涙する風花

具体的に回想のシーンを追って見ていこう。風花は努力の末、新曲のセンターに選ばれた。しかし、後輩が担当者に迫る場面とそれを陰で聞いている風花の描写ののち、センターはその後輩に代わる。風花はサブポジションに落ち着くどころか、(おそらく自分の意思で)新曲から完全に降りている。

謎が残る。まず、その担当者は「チャンスを人に譲った」と述べている。この「チャンス」は、後輩の発言から、新曲のセンターを担うことと同義であると見てよいだろう。担当者の「センターを譲る」とは、最終決定権がまるで風花にあったかのような物言いだが、「頑張ったのに」と涙するほど熱を注いでいた風花が、果たしてそのような決断をするだろうか。まあ、深く考えるものでもないかもしれない。

一旦、サブタイトルの『熱帯魚、逃げた』に注目したい。イシガキカエルウオに「同じだね、私と」と語りかけたことから、熱帯魚=風花だ。「逃げた」のストーリー上の意味として候補は二つ。実家に帰ることから逃げたのか、アイドル活動から逃げたのか。これに関しては、その後の展開を見る限り後者の解釈が適切だ。
[16:15]「同じだね、私と」と熱帯魚に語りかける風花

熱帯魚と風花の共通要素は「こんな隅っこに隠れてたら、みんなに気づいてもらえない」点と、「頑張り屋さんな」点だ。風花が頑張り屋さんだったのはアイドル活動をしているとき。隅っこに隠れているという部分をアイドル活動に当てはめるのならば、最大限に見積もっても脇役に落ち着いていた風花、といったところか。(一応、握手会にファンと握手する描写はあった)

どういった経緯で「逃げた」のか、詳細は不明だが、アイドル活動を辞めることが自分の意思でない限り、「逃げた」という表現はまず出てこないだろう。その後、怒涛の水流から逃げる風花という、ファンタジー色を全面に押し出した場面が挿入される。これにて、直後の風花とくくるの出会いに続く。

このように、第1話の時点では、風花のアイドル絡みのストーリーラインを強固に保つためのピースが不足している。所詮、匂わせの段階に過ぎないので、多くを語ることもないだろう。

とまあ、長々と過去を掘り下げていたが、今回は、風花がくくると出会う回だ。そこに至る変化を象徴的に表しているのが、海の生物である。具体的にはイシガキカエルウオとケープペンギンだ。
[23:21]ペンギンに重ね合わせるようにくくるに向かって走る風花

過去の風花はイシガキカエルウオと重なっている。そこから「逃げた」ことにより、夢や憧れを失った「何もない女の子」となる。行き当たりばったりな様子の風花を淡々と描くことによって、風花の虚無がより強調される形となっている。最後の場面、風花はくくるに「働かせてください」とお願いする。第1話において初めて、風花が積極的に自己主張をする場面だ。

まさにケープペンギンが、最後の場面の風花を象徴しており、「内に閉じこもる熱帯魚」から、何もない存在へ、そして「自由に泳ぎ回るペンギン」という変化が読み取れる。具体的なペンギンの生態は語られていないが、何もないからこそ自由な風花、そして解放感を演出するには適役だ。

一方のくくるに関しても少し語っておきたい。とその前に、シーンの切り替わりの指の演出がよかったので注目。
[10:36]スマホを操作する風花の青のマニキュア
[10:38]バイクのスイッチを入れるくくるの無垢な指

明るく朗らか、海の生物ガチ勢、仕事熱心なくくる。そんな彼女が顔を曇らせた場面、回想が入る。
[12:09]二つの母子手帳

交付日は、両方が平成14年10月8日で同じ。片方の母子手帳には、くくるの氏名と生年月日が記されており、もう片方は何も書いていない。くくるは双子で生まれてくる予定だったのだろうか。

そして、くくるは高校生になった現在でも、それを思い出しては、浮かない表情をしている。くくるの誕生の真実は、今後のストーリーのキーとなっていくだろう。

補足

1. 生年月日

[6:53]風花の生年月日:2003年5月17日
[12:09]くくるの生年月日: 2003年7月7日(平成15年7月7日)
[15:51]7月19日までチェックされているカレンダー

街中やアイドル事務所に貼ってあるポスターから、現在は2021年。カレンダーの情報から7月20日あたり。東京や沖縄の高校なら、夏休みに入っていてもおかしくない。ちなみに、2021年7月のカレンダーと曜日が一致している。

風花とくくるは同い年だ。年齢は18歳。留年していなければ高校3年生のはず。数学の授業の内容が数Ⅱなのが若干気になるが、特に突っかかることでもないだろう。

風花に関しては、これから水族館で働こうとしている部分から、高校に通っていないとするのが妥当だろうか。


2. ファンタジー

[1:23][12:31]お供え物を口にするキジムナー
[8:21]前を歩くキジムナーに全く視線を向けない風花

くくるが言っていた「キジムナー」は、この派手な格好をしたやつを指す。人間離れしたキジムナーの行為と、キジムナーがまるで存在していないかのような描写。

[9:10]朝起きたら帽子が消えていた風花と、取り囲むように配置された骨のようなもの
[17:57]風花の幻覚(?)

とりあえず現時点では、「分からないことはキジムナーの仕業」で片付けてしまって良いのではないか。


3. がまがま水族館

[15:51]カレンダーの8月31日に赤い〇
この日、何が起こるのか、何かのタイムリミットなのか、未だ不明。

作品のあらすじには、がまがま水族館は閉館の危機とあるが、第1話を見る限りそれほど小さな水族館にも見えないし、それなりに来場者もいるので、現状の問題は人材不足くらいのようにも見えるが……。


残された伏線や謎は以下の通り。
①風花の過去に何があった?
母子手帳の意味は?
③8月31日に何が起こる?
④ファンタジー現象の謎

その他の主要人物がストーリー上どんな役割を持っているのか。この先の展開が楽しみだ。

これで、白い砂のアクアトープ 第1話『熱帯魚、逃げた』のストーリー分析を終える。

日記 7/6

最近、文学小説を買いました。上から先に買った順。

ちなみに積んでます。『ナナ』を70ページ読んだくらいです。上二つなんて4月くらいに買ったのに。

俺は全然本を読まない人間です。小学校の頃に、読んだ小説を記録して月一で提出するイベントあった人いると思うんですけど、毎年誰かが表彰されるじゃないですか。そんな毎日のように本読んでる生徒が前の席にいて、記録用紙を提出する際、必然的にその人に自分の記録が晒されるわけです。小学生の頃の自分はそれを申し訳なく思っていたのですが、結局本を読むことはほとんどありませんでした。

そのまま読書に特に興味を持つことなくアニメオタクになった現在、一に美しい日本語に触れて語彙力を鍛えるため、二に教養をつけるため、文学に手を出しました。そんで何買うかなんですけど、これはアニメが関わったり関わっていなかったりします。

『世界の終り』はアニメ史に残る名作『灰羽連盟』のもとになっていると言われている作品であり、『獣の奏者』も名作アニメ『獣の奏者エリン』の原作です。『一九八四年』はアニメ関係なく友達に勧められて、『華氏451度』はその隣に置いてあって帯に『100分de名著』と書いてあったからです。母がよく見てた番組でした。残り二つの謎のフランス文学ですが、当然アニメとは直接的なつながりはないです。間接的なつながりすらありません。ですが、アニメオタクであるがゆえ、深夜アニメを批評する人間であるがゆえに買った作品です。この理由当てたらエスパー人間。

以上、近況報告でした。

バック・アロウ 

ザ・微妙

概要

  • 2021年 冬アニメ、春アニメ
  • オリジナルアニメ作品
  • 全24話
  • 監督:谷口悟朗
  • シリーズ構成:中島かずき
  • アニメーション制作:スタジオヴォルン

はじめに

 谷口悟朗監督、シリーズ構成は中島かずき、音楽は田中公平。いずれもロボットアニメ中心にお馴染みの制作陣だ。壁に囲まれた世界「リンガリンド」を舞台に、ある一人の男を中心とする活劇が描かれる。

信念

 壁に囲まれた世界という今となってはオーソドックスな世界観に、ゼロ年代アニメのような古臭さを感じるロボットアニメであるが、本作のオリジナリティはまさに「信念」を具現化するロボット「ブライハイト」にあると言ってよい。というのも、本作は「信念がそのままロボットになれば面白いのではないか」というふとした着想から生まれた作品であると、公式が明言しているからだ。

 しかし、全体を通してその「信念」の設定を十分に活かしているとは言い難い。特に、バトル面においては改善の余地が多大にある。大きな問題点としては、各ロボットの外見的な個性がありながら、肝心な能力や戦い方に個性を見出しづらいということだ。これに関しては、中盤に襲い掛かってくるゲストキャラに限らず、メインキャラクターのブライハイトの多くも同様の事情を抱えている。そのため、『ジョジョの奇妙な冒険』のような、相手の能力の裏を突いたり駆け引きをしたりといった異能力バトル特有の緊張感がブライハイト同士のバトルに現れず、盛り上がりが欠ける要因となっている。結果、バトルを盛り上げようにも戦闘中の会話劇に大きくウェイトが偏ることとなり、画的な面白さが失われやすくなってしまっている。「信念」を具現化させた意義を初めて感じ取ることが出来るのは、ブライハイトの合体や変形などが頻発する後半に入ってからだ。「信念子」という自由度が極めて高い便利アイテムが存在する中で、結果的に多くの場面で持ち腐れとなってしまったのは非常に残念である。

 ロボットのデザイン面についても少々厳しいものがある。特に、ゲストキャラのブライハイトや、その人固有の信念を持たない名も無きモブキャラのブライハイトは、その能力の単調さも相まって魅力に欠ける。俗に言えば「ダサい」ということだ。確かに、彼らはメインキャラクターよりも大層な信念を持っているわけではないため、デザインのダサさは物語的には正しいかもしれないが、バトルアニメとして正しいかと言われると否である。これといった能力もない敵に魅力を感じることが出来ず、さらに代わり映えの少ない戦闘が続くとなると、バトルシーンから華やかさが失われてしまい、盛り上がるものも盛り上がらない。

主人公

 主人公に求められる最低限の条件は、「視聴者の分身となる存在」であることだ。その可能性が考えられるのは二人。壁の中に突然現れた謎の男「バック・アロウ」か、帝国大長官の「シュウ・ビ」だ。ただ、後者は頭の切れる天才という設定。しかも序盤の時点で、「面白そう」という理由で帝国や親友をあっさり裏切ってしまうなど、腹の中がなかなか見えない人間である。流石に、視聴者の分身が彼であるとは到底考えられない。ならば、残された選択肢はあと一つしかない。

 バック・アロウ。彼は記憶喪失の状態であり、残ったものはある一つの目的意識のみで、ひたすら「壁の外へ行く」の一点張りだ。そんなただ一つの行動原理が彼の人格を形成しているが、それゆえ彼に信念というものは存在せず、人間的深みは現時点で0である。問題は、彼の性格自体が特殊で何とも掴みづらい歪なキャラクター像であることだ。第一印象は、周りの人々を巻き込んでおきながら、相手の話を理解しない割に持論を押し通そうとする強情な性格。では、彼は壁の外へ行くことをプログラムされた機械のような人間なのかと問われると、そう断定することも出来ない。正義感も強く、助けてもらった人間に恩義の心を持つなど、人間的な道理も持っている。しかし、元々空っぽなはずの人間が如何にしてそのような心に目覚めたのかが不明である。これでは、我々が共感を覚えることは難しく、視聴者の分身となることは出来ない。一応、作品の目的を提示し視聴者に作品世界の中へとスムーズに誘導する役割があることにはある。しかし、肝心な主人公への共感が得られなければ物語の没入感も減衰してしまう。また、彼の存在を巡って物語が進行すると言えば聞こえはいいが、設定上彼は「壁の外へ行く」としか主張出来ないため、周りが彼にどう影響を与えようが物語の進む方向は変わらない。まさに、主人公の設定・配置のみが物語を突き動かしている状態、言い換えればキャラクターの舞台装置化だ。それを主人公と呼ぶことは出来ない。

 そんな主人公まがいの人物であるが、信念がないことを逆手にとって、性格的な欠損がないパーフェクトな人格、いわゆる「善意の人」を演出しようとしていることはインタビュー記事で明かされている。しかし、その試みによってストーリーの面白さが増しているとは言えない。その理由は、彼のバトルシーンに集約されている。彼の操る信念無しのブライハイトは、「何もない」からこそ何にでもなれるという特徴があり、実際に分身や飛行などの珍しい能力を顕現する。だが、彼は最後まで「誰かのサポート役」という呪縛から抜け出せておらず、ストーリー的に傍に追い込まれてしまっている。ブライハイトの最終形態が「剣」、つまり誰かに操られることが前提のものである点も、それを裏付けている。結果、全体を通してストーリーを牽引し場面を盛り上げる役割は他キャラのものとなってしまい、設定上の重要な役割を担う以外は彼の存在意義が薄れてしまっている。そもそも本作は彼の成長物語でもあるのに、ブライハイトのデザインの進化で、成長を視覚的に表現しなかったのか。そうすれば、より主人公の成長物語に焦点を当てるドラマが作りやすいだろうし、視聴者の没入感も高まる。少なくとも、外見的特徴が一切変わらない分身や飛行を駆使して戦うよりも、画的にはずっと面白くなっていたはずだ。

キャラクター

 主人公のキャラクター造形に大きな欠点を抱える一方で、本作を彩る良キャラというのも確かに存在する。その最たる例は、アロウの仲間の「ビット・ナミタル」と、レッカ凱帝国の「ゼツ凱帝」だ。前者はビビりでお調子者の小物キャラであり、一方で後者は圧倒的な威圧感を放つ大物キャラであり、

 ビット。彼はまっすぐで裏表のない性格であり、喜怒哀楽に富む感情は表情や言葉にもすぐ現れる。そして、コメディータッチで明るい作風である本作を象徴するキャラとして、物語を大いに盛り上げてくれる。小物キャラというからには明確な弱点があり、とにかく素直すぎるがゆえに他人の言うことをすぐに信用し、結果他人に利用されるポジションに自然と落ち着いてしまう。そんな中、長い時間をかけて、最終的に彼が自分の信念を見つけた瞬間のバトルシーンの盛り上がりは、作品全体のピークとも言えるほどの熱量を帯びている。一方のゼツは、普段は物静かで冷徹な印象を受けるが、要所では他を寄せ付けない威圧感とリーダー性を発揮する。特に強い敵を前にした際には喜びや期待を露わにして戦い、事実その実力は作中でも圧倒的であり、カリスマ性の高いキャラとして説得力を生んでいる。ストーリーの構成上、彼と敵対したり共闘したりすることになるが、強大な敵としても頼れる仲間としても魅力的な面がある。

 結局、対照的な二人の何が共通しているのかというと、感情豊かであることがそのままキャラクターの個性に繋がっている点であろう。感情がもろに出やすく、素直で分かりやすすぎる性格が、小物感を醸し出すのに打ってつけであるビット。一方のゼツは、圧倒的な自信と才覚がある大物キャラである以上、それを余すことなく演出することが可能である。作品全体の盛り上がりの場面を考えても、大体の場面でこの二キャラが関わっており、その存在感は確かなものだ。こういった良キャラが描けているのは本作の強みではるのだが、主人公であるはずのアロウが霞んでしまっているのが現状である。もっとも、それは制作側が意図したことなのだろうが。

ストーリー

  • 準備中

総評

 主人公不在ゆえの没入感の無さ、それでも終盤はある程度盛り上がるものの、全体的に地に足がついた脚本とは言い難い。オリジナリティの「信念」を活かしているはずのバトルは地味。他の名作ロボットアニメを差し置いてまで、本作を見る理由は特に見当たらない。



評価:★★★★★☆☆☆☆☆

本ブログについて

本項は、主に深夜アニメの感想や批評を書き記すブログです。

「ストーリー分析」と「アニメレビュー」を中心に、個人の好きなようにアニメを語っていきます。

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