波路を築く

アニメの感想&批評

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第10話『墓を掘る美しい娘たち』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第10話『墓を掘る美しい娘たち』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

総評

第10話は、登場人物の様々な思いが交錯する回。多くのメインキャラクターの内面や思惑が語られ、クライマックスに向けて着々と準備を進めているストーリーは、まさに群像といった趣を醸し出している。内容的にはかなり詰め込まれており、それぞれのストーリーの関連度もそれほど高いわけではない。だが、次回に繋がる引きも用意されており、接続回としてはスタンダードと言えるだろう。

ストーリー

実質的にメインストーリーは全てであり、またそれらの多くが独立しているため、項目別で分けることが難しい。ここは無難に、陽桜莉サイドと美弦サイドで分けよう。

陽桜莉サイドのストーリーを時系列順に並べてみる。
①百が皆に真相を話す
②陽桜莉と瑠夏が話す
③三人が都の説明を聞き、都がどこかへ行ってしまう
④百と瑠夏が都を探し、瑠夏が見つける
⑤陽桜莉が姉の美弦と戦うことを決意する
⑥瑠夏と紫乃が出会う

美弦サイドのストーリーを時系列順に並べてみる。
(ⅰ)紫乃が美弦を心配する
(ⅱ)仁菜が紫乃に話を持ち掛ける
(ⅲ)美弦と紫乃の計画が明かされる

新たに判明した情報については、ストーリー③で語られたものがほとんどだろう。

分析

ここでは、時系列順にストーリーを語るのではなく、キャラクター別に見ていこう。


1. 陽桜莉

[4:28]屋上で話す陽桜莉と瑠夏
陽桜莉「昨日の話ショックじゃなかった?」
瑠夏「また、悪い癖。自分のことより人のこと」
今まではっきりと描かれてきた陽桜莉の性格である。ここで、陽桜莉は姉を気にかけていることを打ち明ける。

[13:29]陽桜莉の回想(幻覚?)
陽桜莉が宝石箱を開けて姉との思い出を噛みしめるシーン、とその直後には都は登場しリープレンジ色の昆虫が横切るカット。ここからしばらく、陽桜莉は幻覚(姉の内面)を見ていたということだろう。

[14:10]自分の鎖で自分を縛る美弦
「自分の思いを信じて」と語りかける昆虫。その後、美弦が宝石箱を眺めるシーンが挿入され、陽桜莉は目を覚ます。

[14:50]はっとして「お姉ちゃん」と声を上げる陽桜莉
このとき、陽桜莉はあることに気づいた。それは、姉自身は陽桜莉を想って苦しんでおり、陽桜莉に指輪を託したということだ。これは、姉が陽桜莉にリフレクターになって欲しかったということを意味する。

[16:10]陽桜莉の決意を聞く三人
「私たちのやっていることは正しかった。だから、私はお姉ちゃんと戦う。それがお姉ちゃんの思いを確かめる方法だから。お姉ちゃんの心に寄り添っていたいから」
陽桜莉が自分の気持ちを表明した場面である。

構造上今回の陽桜莉は、陽桜莉サイド四人の中心に立ち、物語を突き動かす役割を持っている。その流れは、
陽桜莉が瑠夏(他者)によって姉の気持ちを理解しようとする
→姉の気持ちに気づく
→姉の心に寄り添うために三人に気持ちを表明する
というものだ。


2. 瑠夏

[4:28]屋上で話す陽桜莉と瑠夏
「また、悪い癖。自分のことより人のこと」
「言えたじゃない、自分の思いを隠さずに。私も手伝う」
陽桜莉の気持ちに寄り添う瑠夏の構図。陽桜莉の行動原理を補助する役割を持っている。

[11:57]都を見つけた瑠夏
「昨日のことごめん。あんたを否定するようなこと」
「あなたがいてくれるだけで心強い、私たちみんな」
今度は都に寄り添う形。今回の瑠夏は、他のキャラクターの補助に徹している。

[16:27]陽桜莉を後押しする瑠夏
「その人の気持ちは、その人だけのもの。でも、一緒に考えることはできる。寄り添うことはできる」
他のキャラクターの補助に徹している様子を描いてきたからこそ、瑠夏のこの発言には説得力が生まれている。

[21:36]母親とメッセージのやり取りをする瑠夏
「できたよ。親友が三人」「良かった」
陽桜莉、百、都が瑠夏の親友に相応する存在となるためのストーリーは、今までしっかりと築かれてきた。また、母親も瑠夏の内気な性格を気にかけていたのだろう、安心感を覚えている様子が伺える。

[22:22]紫乃に声をかける瑠夏
第1話では悩んでいる女子に声をかけられなかった瑠夏。これは、瑠夏の「変化」を思わせる描写でありながら、次回への引きとしても機能している。


3. 都

[7:49]都の思い
「彼女はもう、陽桜莉の知るお姉さんじゃないと思う」
非リフレクターの視点から考えれば、当然の結論だ。そもそも美弦を信じるに値する根拠を持っているのは現時点で百のみであり、その百の証言を受けたとて都にそれを信じる義理はない。「パラレルワールド」を根拠に、美弦の人格が陽桜莉の知る姉とは異なることを主張する。

[5:49]調査に熱心な都
[11:23]踏切の前に行く都

「嬉しかった。役に立ちたかった。新しい居場所が出来たと思ってたんだけどな」というセリフからも、都が調査熱心であることの裏付けになる。ここで、「嬉しかった」というのは、第3話で陽桜莉と瑠夏が都のフラグメントを守り、本当の自分を「見つけて」くれたことに対してである。

[12:50]瑠夏に感謝の言葉を述べる都
「ありがとう。二度も私を見つけてくれて」
一度目は、上述した第3話の出来事である。

[20:50]陽桜莉と瑠夏にプレゼントをする都
お守りと称して、手作りのブレスレットを渡す都。百にも渡すつもりでいたが、ビーズが足りず渡せなかった。

ここで都が陽桜莉や瑠夏に何かを「プレゼント」するのは、ストーリー展開的に必然である。順を追って述べると、まず、自分を「見つけて」くれた陽桜莉と瑠夏に対して何かをしてあげたいと熱心に調査を行い、「美弦は陽桜莉の知る姉ではない」と結論を出した。だが、その結論は百を中心に三人に棄却される。その後、瑠夏との絡みもあり陽桜莉の思いを尊重するに至るが、その時点で都は実質「何も役に立てていない」のである(結果的には、都の主張と同じように陽桜莉は戦うことを決意するが)。そのため、都が「二人の役に立つ」ストーリーは、第10話の都軸のストーリーを綺麗に完結させるために必要なピースなのだ。ブレスレットのプレゼントは、陽桜莉や瑠夏、百の士気を高めるのに一役買っているため、構造上極めて重要なストーリーと言えよう。


4. 美弦と紫乃

まず、美弦と紫乃の仁菜を利用した計画の概要を述べる。

  • 仁菜の近くに詩を配置し、仁菜の憤懣を募らせる
  • それを美弦が包み込むことによって、仁菜の美弦への想いを強める
  • 仁菜は弱体化し、強くなりたいと願って指輪を手に入れる
  • 指輪を使えないという葛藤が想いを暴走させ、最強のフラグメントと化す

計画自体は上手くいったが、仁菜以上に強い絶望を知るリフレクターが現れた。それが陽桜莉だ。そのため、仁菜のフラグメントでは「コモンの扉」は開かないらしい。

「そんなことしたら私たちが望む世界に……」
「『あなたが望む世界』でしょ?」
仁菜の代わりに陽桜莉を利用するとなると、彼女の想いが消えてしまう。その真実から美弦は狼狽する。

紫乃の「あなたが望む世界」という指摘は至極全うであり、そんなものは美弦の私利私欲でしかない。

そして、「また、殺すの?まだ殺し足りないの?」と問われる美弦。そこから紫乃は陽桜莉を演じ、美弦に幻覚を見せる。美弦は陽桜莉に化けた紫乃を抱きしめ「あなたのため」と連呼する。

一度目に陽桜莉を「殺した」のは、第7話の陽桜莉と美弦の再開と読み取って良いだろう。さて、この場面で大事なのは紫乃の狡猾な実験である。紫乃は陽桜莉を特別扱いすることを許さず、「美弦の望む世界」を否定した。それゆえ、ここで仮に美弦が陽桜莉を切ることが出来なければ、美弦を計画に使うことはできない。紫乃は陽桜莉に化けることで、それを確かめたのだ。結果は上記の通り。次回以降、美弦は紫乃に簡単に身内切りされる展開が想像できる。


5. 仁菜

アバンでは、「思いを強くすることでかえって心が不安定になっている」と詩に指摘されいる。また、その状況を詩は「皮肉」ととらえており、現状仁菜を心配しているのは美弦だけのようだ。だが、後に語る計画によって仁菜が利用されていることが明らかになる。心が不安定になるのも、美弦と紫乃の計画通りだったということだ。

[9:00]「強くしろ」と紫乃に話を持ち掛ける仁菜
もう二度と美弦の前で醜態を晒すまいと、強くなるよう紫乃に懇願する。

そこで仁菜に渡されるのが、新しい黒色の指輪だ。これを付ければ、自分の力の源となる想いが増し力も強くなるが、その代償として強まった想いが消滅するとのことだ。

ただただ利用されるだけの山田仁菜……。彼女の行く末を見守りたい。

補足

1. 聖イネス学園

聖イネス学園の生徒に在籍しているはずの詩、仁菜、美弦は偽名で通っているらしい。百のマップと集団暴走のデータを重ね合わせることで、聖イネス学園の生徒のフラグメントが抜き取られていることが示された。


2. 斎木有理

[5:58]斎木有理「斎木です」
初めて苗字(スタッフロールではフルネーム)が明かされたキャラクター。一応、第3話でリープレンジ明けの場面に一瞬登場している。彼女の目的や人物相関は謎である。


3. コモン

コモンの発生条件に関して。紫乃の発言によれば、リフレクターの強大なフラグメントが鍵となるらしい。ただ、果たして「コモン」が何なのかは未だ明かされていない。



残された伏線や謎は以下の通り。

①「原種」とは何か?
②「原種」の発生条件は?
③「AASA」の正体と目的は?
④第1話で電車の音に搔き消された百のセリフ、何と言っていた?
⑤美弦の目的は?
紫乃の正体と目的は?
⑦フラグメントを抜かれて失った記憶は戻るのか?
⑧仁菜のスーツケースの中身は何?
紫乃の能力は何?
⑩美弦とAASAの繋がりはあるのか?
⑪「コモン」の定義は?
⑫美弦はどうやって前世の記憶を知りえたのか?
⑬指輪の色の意味は?
⑭原種を倒したのは誰?
⑮世界が巻き戻ったタイミングはいつ?
⑯美弦の過ちとは?
⑰何故美弦は陽桜莉に何も言わなかった?
⑱美弦の「誰かが原種を倒し何かが起こった」の何かとは?(世界のリセット?)
⑲世界はどのようにしてリセットされた?
⑳ユズとライムの正体と目的は?
㉑斎木有理の正体と目的は?



これで、BLUE REFLECTION RAY/澪 第10話『墓を掘る美しい娘たち』のストーリー分析を終える。

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第9話『彼女の言ったこと』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第9話『彼女の言ったこと』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

  • 監督:吉田りさこ
  • 脚本:菅原雪絵
  • 絵コンテ:川島宏
  • 演出:田中瑛
  • 総作画監督:出野喜則、村上雄、坂本哲也
  • アニメーション制作:J.C.STAFF

総評

今回は、美弦と百が出会う回。ストーリー自体はそれほど進んでおらず、どちらかと言えば説明回の側面が強い。相変わらず話運びは非常に丁寧で安心感がある。また、要所要所での演出は冴えており、見応えのある一話と言えるだろう。

ストーリー

今回のメインストーリーは以下の通り。
①美弦と百が出会う
②美弦と仁菜が戦う

今回のサブストーリーは以下の通り。
(ⅰ)詩が仁菜にちょっかいをかける
(ⅱ)陽桜莉と瑠夏が佳奈のお見舞いに行く
(ⅲ)陽桜莉たちが百の動向を気にする

特筆すべき部分はない。軽くストーリーを触れた後、演出部分を掘り下げたり、明かされた設定とそうでない設定とを整理したりする項を設けよう。

分析

1. ストーリーの概要

今回のストーリーとその過去の背景がどのようになっているかを整理しよう。提示されたのはループ構造であり、世界は時間が巻き戻り繰り返されていることが明かされた。上から時系列順に示す。

(Ⅰ)元の世界

  • 美弦と百は、リフレクターのバディの関係であった
  • 謎の異形「原種」から世界を守るために戦っていたが敗北した
  • 誰かが原種を倒し、何かが起こった

(Ⅱ)今の世界

  • 時間が巻き戻り、百の記憶は失われたが、美弦は覚えているようだ
  • 原種は出現しておらず、「コモン」は閉ざされて入れない
  • 大量のリフレクターが生まれている
  • 元の世界の基準では、(今の世界の第9話の日付から)三日後に原種に敗北した
  • 美弦と百が共鳴することで、百は記憶を取り戻した
  • その三日後に備えて、美弦はフラグメントを回収している

これを見ても分かる通り、かなり多くの説明がなされたものの依然として分からない要素がいくつかある。それについては後々見ていくことにしよう。


2. 美弦

ストーリー的にも人物像的にも謎の多かった美弦であったが、今回では少しずつその内情が明かされてきた。

[6:28]「誰もが百のようには強くない」と主張する美弦
直後にサブストーリー(ⅱ)が挿入される形。その後に美弦と百のシーンに戻る。

「思いを捨てたいと祈る子たちを見たでしょ」という百の発言であるが、その代表例として挙げられるのが佳奈である。また、そのような子たちを百のようには強くない存在として見ている。

さらに美弦は、「強いからといって傷つかないわけじゃない。強くても傷つくし苦しさが軽くなることは無い」とも言っている。強い者でさえそうなのだから、況や強くない存在はなおさらだ、という意味が含まれている。

「フラグメントを抜くのはそいつら(強くない存在)のためなのか」という百の問いに対する美弦の答えは、一応は是である。もちろん、フラグメントを抜く真の目的は別にあるわけで、その行為がせめてもの救いになればということで佳奈たちをターゲットにしたのだろう。

その一方で、美弦は百の強かさを認めているともとれる。かつてバディであった百への信頼感や百の頼もしさは、美弦の中に残っていることが読み取れる。

だが、未解明な要素もある。

  • 美弦の過ちとは?

[10:32]「間違っていた、私。どうすればいいのか分からない」と嘆く美弦
原種との対決中、ここで美弦は戦意喪失する。

  • 何故美弦は陽桜莉に何も言わなかった?

百は美弦に同様の問いをするが、美弦は何も答えていない。


3. 演出

[1:24]揺れる蠟燭の炎
詩に「山田の思いは不安定だ」問い詰められ、「適当なこといってんじゃねえ」と吠える仁菜。そんな仁菜の内面を表現している。

[5:11]赤いバラに手を差し伸べる美弦
[8:05]「強くても傷つかないわけじゃない」と言いながら散っていく赤いバラ
[8:16]傷ついている美弦の手のひら

「人の想いの結晶」というセリフと呼応するように映し出された赤いバラ。それを摘み取る様子はまさにフラグメントを抜く行為そのものである。花びらが散っていく場面は、フラグメントを抜いて想いが消えることを暗示している。

[8:41]歩み寄る百と消える剣
百がかつて美弦のバディであったことを確信。美弦の思いを受け止め、理解していることが分かる。

[12:07]水面に映し出された三日月
夜空に見える三日月が度々描かれる中で挿入されたカット。美弦が真相の告白をする際の、「別世界」を表す描写。

補足

1. 「リフレクター」の定義

[5:05]の美弦のセリフをそのまま引用する。
リフレクター:人の思いの結晶そして世界の力の源のなるフラグメントに触れ、その力を集めて扱えるものたちのこと

ユズとライムに選ばれ、美弦たちはリフレクターになったという。フラグメントを抜くことで力をもらい、世界を原種から守るために「コモン」の中で戦ったという。


2. 指輪

[9:37]黄色の指輪
指輪の色は陽桜莉サイドが青、美弦サイドが赤として描写されてきたが、元の世界の描写では黄色をしている。

本来のリフレクターは、赤でも青でもなく黄色、ということなのだろうか。

だが、第1話の[1:06]の元の世界の美弦の指輪は青に見えるし、今回の[10:18]の美弦の指輪は赤に見える。ならば、黄色は百だけなのか。真相はよく分からない。


[9:29]宝石箱に青い指輪を入れる美弦
元の世界の描写。この宝石箱は陽桜莉のものである。

しかし、単に省略されているだけかもしれないが、今の世界で美弦が宝石箱に指輪を入れた描写はない。だとすれば、宝石箱の中身だけ保存されて世界が巻き戻されたのではないかとも考えたが、根拠はかなり薄い。

あと、「指輪に反応しなければリフレクターにはなれない」という条件は第2話で明かされている。指輪を託すということは、その人にリフレクターを託すということになるわけで、美弦は原種に負けた後、陽桜莉にリフレクターになって欲しいという思いがあったのかもしれない。


2. 原種に敗北

美弦「私たちは負けてしまったけど、おそらく、誰かが原種を倒し、何かが起きた。ここでは原種が出現せず、コモンは閉ざされて入れない。でも、大量のリフレクターが生まれている。前とは理が変わってしまった。」

原種を倒した人は誰か、その後何が起きたのかは詳細には語られていない。


3. 記憶

なぜ百の記憶だけが失われて美弦は記憶を持っているのか。これに関しては、今回で少し解明された。

美弦は「ある人が言うには、世界がリセットされたようなもの」と言っている。この「ある人」が誰なのかは不明だが、美弦は誰かに真実を教えてもらって今に至るということだ。

であれば、原種に敗北したことによって美弦と百は記憶を失い、美弦だけは誰かに教えてもらうことによって真実を知った、というように解釈出来る。

さらに、今回で百は美弦と共鳴することによって前世の記憶を回復することに成功している。同様の手段かどうかは分からないが、誰かが超常的な現象を起こして美弦も記憶を取り戻したと考えれば、美弦の記憶だけ失われていない状況にも説明がつく。

それが「ある人」につながっていくと考えられるのだが、位置的に怪しいのは、やはり「AASA」だろう。美弦が「AASA」と関わりを持っていると考えれば、もともとバディであった百と「AASA」が関わっていることにも不自然な感じはしない。

そもそも、世界が巻き戻ったとして誰がどうやって前世の記憶を持ち得るかが、まず分からない。と、疑問に思って考えた仮説が、上述した「宝石箱の中身の保存」である。世界が巻き戻ることの影響を受けず保存されるものがあるとすれば、記憶を持ち続けている人がいるのも不思議ではないと考える。(例えば、フラグメントのような思いの結晶を抜き取って保存して、世界が巻き戻った時にそれを持ち主に返すとか)

ちなみに百によれば、「AASA」とは指輪について研究している機関らしい(第2話)。しかし、その正体は不明。


4. 美弦の目的

美弦サイドがフラグメントを集める目的は何か。三日後に備えてということなのだが、詳しくは語られていない。

原種の発生や陽桜莉関連で何かあると考えるのが妥当だろう。


残された伏線や謎は以下の通り。
①「原種」とは何か?
②「原種」の発生条件は?
③「AASA」の正体と目的は?
④第1話で電車の音に搔き消された百のセリフ、何と言っていた?
⑤美弦の目的は?
紫乃の正体と目的は?
⑦フラグメントを抜かれて失った記憶は戻るのか?
⑧仁菜のスーツケースの中身は何?
紫乃の能力は何?
⑩美弦とAASAの繋がりはあるのか?
⑪「コモン」の定義と発生条件は?
⑫美弦はどうやって前世の記憶を知りえたのか?
⑬指輪の色の意味は?
⑭原種を倒したのは誰?
⑮世界が巻き戻ったタイミングはいつ?
⑯美弦の過ちとは?
⑰何故美弦は陽桜莉に何も言わなかった?
⑱美弦の「誰かが原種を倒し何かが起こった」の何かとは?(世界のリセット?)
⑲世界はどのようにしてリセットされた?
⑳ユズとライムの正体と目的は?




以上で、BLUE REFLECTION RAY/澪 第9話『彼女の言ったこと』のストーリー分析を終える。

【ストーリー分析】美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』(感想・考察)

美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』

はじめに

原作小説未読。とても面白い回だったので記事にします。

基本情報

  • 総監督:新房昭之
  • 脚本:木澤行人
  • 絵コンテ: 川畑喬
  • 演出:徳野雄士
  • アニメーション制作:シャフト

総評

第7話は、眉美が真の意味で美少年探偵団の一員となる回である。屋根裏の絵画と講堂の巨大絵画という二つの謎に注目ではあるが、これらはあくまで副次的なストーリーに過ぎない。だが、いずれのストーリーにおいても「大切なものは目に見えない」というテーマは一貫しており、サブストーリーがメインストーリーを補強する役割もしっかりと担っているため、ストーリーの強度は高い。

前回の復習

前回の第6話『「屋根裏の美少年」その1』と連続する回でありながら、肝心な前回の記事がないので、少し復習するとしよう。


1. 屋根裏の絵画

眉美が屋根裏で見つけた絵画には、以下のような特徴があった。
①(学の発言によると)33枚が発見された
②世界中の名画から人の姿だけ抜き取ったような絵
③誰もが知る名画『モナリザ』がない


2. 推理合戦

美少年探偵団のメンバーは、上記の絵画について以下のような推理をした。

  • 双頭院学

この度発見された33枚の絵画こそが先に描かれた物であり、世界中の名画がこれらをベースに描かれた作品である。モナリザがないことは、かつてこの学園にレオナルドダヴィンチが在籍していたことで説明がつく。

荒唐無稽なことこの上ない。当然、それはないだろとツッコまれる。

  • 袋井満

模写でも練習でもなく、ベースとした絵を派生した全くの別物として仕上げた絵画である。

しかし、モナリザが含まれていることの説明がつかない。

  • 足利飆太

作者は人間を描くのが苦手だったから、人間を描かなかった。

モナリザがないことにも説明がつく。ただ、推理として美しくない。

  • 瞳島眉美

作者は名画を模写したつもりだったが、絵画に映る人間の姿が見えなかったために、結果として人間が描かれなかった。

しかし、そのような見え方をするような人間がいるとは思えない。そもそも、人間が見えないのではなく「人間の絵」が見えないのであれば、透視すれば真っ白になるはず。(満の指摘)

モナリザがいないことは、モナリザを描くときだけ全て透視してしまったからではないか。

犯罪者の詭弁のようだとツッコまれる。

  • 指輪創作

絵は最低でもあと33枚ある。

推理というよりは直感。

  • 咲口長広

作者は永久井こわ子と予想。講堂のデカい絵の作者が永久井こわ子であることから着想を得た。


3. 永久井こわ子

芸術家として評価される先生。芸術を表現するために問題行動を度々起こす。

赴任して最初にした仕事が講堂の巨大絵の制作である。

永久井こわ子の「犯行予告」について。永久井は学校のカリキュラムから美術の授業を無くすという決定事項を聞く。その後子供たちには美術が必要だと抵抗運動を続けた。

「美術を教えないような学校に子供たちはいるべきじゃない。だからその決定事項を実行するのであれば、生徒全員を誘拐する。」

結果、宣言を実行し、全校生徒を誘拐した。とまあ、これは言葉の綾なのだが、全校生徒が並んでいる姿が描かれた講堂の巨大絵から、全校生徒が全く描かれていない講堂の巨大絵へとすり替えたという意味だ。(実際はすり替えていないのだが、詳しくは次項で見ていこう。)


4. 瞳島眉美
このエピソードにおいて忘れてはならないのが、瞳島眉美という存在である。

[3:47]「仲間」という言葉を聞き、ハッとする眉美
「仲間としての自覚が足りていない」という眉美に発せられた満の言葉は、逆説的には「眉美は美少年探偵団の仲間である」とも解釈出来る。

眉美が、「仲間。それは私が通信機器以上に長年飢えていたものだった」といった通り、さりげなく発せられた満の言葉は眉美にとって大きな意味を持つ。

[16:08]自分の推理を「犯罪者の詭弁」と言われ、口ごもる眉美
直後に学のフォローが入る形。直前にも「らしくないことを言った」と内心で思う描写もあり、どこか「美少年探偵団」のメンバーとしてやりづらさを覚えている様子が伺える

あまり的確ではない推理をする→詭弁と言われる、という流れはチェックしておきたい。


ストーリー

さて、第7話に入ろう。

メインストーリーは以下の通り。
①眉美と札槻嘘が密会する
②美術室を改造する

サブストーリーは以下の通り。
(ⅰ)講堂の巨大絵のすり替えの解決
(ⅱ)屋根裏の絵画の真相の解決

絵画の真相の解決に注目が行きがちであるが、本質的には眉美回である。とはいえ、絵画の真相もミステリーとして面白いものがあるので、見どころの多い回であるといえよう。

解析

1. 密会

眉美とライの密会。「ペテン師」回の謎が一つ明かされたと同時に、美少年探偵団メンバーに対する眉美の素朴な感想が述べられ、それがラストシーンに繋がっていく形となっている。

眉美にしか見えないはずの人間をライがどうやって見たのかというカラクリは、見えないものが見えるようになる仕組みのコンタクトレンズによるものであった。ライが美観の持ち主であったわけではない。

[7:28]「大切なものは目には見えない」と答えるライ
「いろんなものが無駄に見えてしまう私には、大切なものが人よりも少なくなってしまうのだろうか」という眉美の語り。これが問題提起となって、今回の「大切なもの」を見つけるストーリーに繋がっていく。

[9:51]美少年探偵団のメンバーについて語る眉美
眉美は彼らを、気を遣わなくていい仲間、気を遣ってくれない仲間と述べており、それに「憧れている」とも述べている。

だが、実際のところどうなのだろうか。前回では、眉美は仲間意識が足りないと指摘されているし、自分の推理を述べる場面では生き生きとしていない様子が伺える。さらに言えば、今回の巨大絵の推理大会の直前では、「私ごとき」と自信を評し、期待を向けられないものだとも思っている。無意識下で美少年探偵団のメンバーと距離を置いているのが、現状の眉美ということなのだろう。

そんな眉美が、巨大絵の推理大会では自分が期待されていることを知り、見事的中の名推理を披露する。


2. 美術室の改造

[20:23]眉美の推理を名推理と言う長広
第6話の、出来の良くない推理→詭弁の流れと対比される形。

まず前提として、美少年探偵団のメンバーは既に眉美を仲間として認めており、眉美が名推理をしたからこそ眉美を仲間と認めたわけではないことは注意しておきたい。重要なのは、あくまで眉美の心理である。

[20:29]件のセリフに対する眉美の返答
「え?」の一言のみであるが、そう言われることが心外であったからこそ出る言葉だ。詭弁と言われて肩を落としたときとは異なり、眉美自身が自分の推理を認められていることを再確認する。

[21:47]天井絵と全員が映るカット
天井絵は星空である。星空とは、眉美が暗黒星を探し求めて見続けた景色だ。言わば星空(と暗黒星)は眉美の夢や憧れの象徴でもある。今では潰えた将来の夢が宇宙飛行士だったのも、星空への憧れを補強している。

今回、眉美が憧れているものとして「互いに気を遣わない関係」というものが提示されている。そして、星空という景色を美少年探偵団のメンバーと共有することによって、「互いに気を遣わない関係」が明確に形成された。

「目に見えない大切なもの」が何かという問いに対する回答は、ここは簡単に「仲間意識」で良いだろう。「目に見えない」という要素をどこから拾ってくるかが少々難しいところだが、本人が仲間だと自覚しつつも無意識下でメンバーと距離を置いていたという部分から、理屈ではわかっているが実際には備わっていなかった「仲間意識」として解釈することも出来るのではないだろうか。

[21:52]『エピローグ』→『(始)』
というわけで、眉美が本質的に美少年探偵団のチームの一員となり、眉美が無意識に感じていた障壁が完全に取り除かれる回であった。ここからが、美少年探偵団の真のスタートである。

ここで入る新エンディング。新たな物語の予感を感じ取れて良い。


3. 講堂の巨大絵の真相

巨大絵はすり替えられてなどいなかった。永久井こわ子は自分の生徒と共同作業をして、もともと全校生徒が描かれていた巨大絵に、その全校生徒を塗りつぶすように上書きをした。その後、講堂の巨大絵を描き替えた罪が生徒に問われないように、その罪を自分一人で被るために永久井は失踪した。

「大切なものは目に見えない」という今回のテーマがここにも生かされている。さしずめ、永久井は彼女が大切に思っていた生徒を守るために失踪したということだ。


4. 屋根裏の絵画の真相

[18:26]画家への「信仰」が込められている
どういうことか
要点を箇条書きでまとめると、以下のようになる。

  • 永久井こわ子は名だたる画家を信仰している
  • モナリザを含め自画像の絵画を描かなかったのは、その画家への信仰のため
  • 画家以外の人間を描かないことで、その信仰を表現した

もうこれで十分説明出来ているのだが、軽く補足をしよう。特に3つ目の画家以外の人間を描かないことがなぜ画家への信仰を表すのか、という部分は、やや理解が難しい。

ここで、模写した絵画にも人間を描いていた場合を考えよう。状況的には、普通に模写した絵画が数十枚あり、モナリザなどの自画像がない状態である。

もう一度述べるが、永久井が表現したかったのは信仰である。すなわち、「選択的に自画像を描かなかった」という状況が汲み取られないようでは意味がない。上記のような仮定のもと、すなわち普通に模写した絵画が並んでいる状態では、「何かが欠けている」という状況に気づきにくいだろう。

そこで永久井がとった手法が、人間を描かないということ、すなわち「何かが欠けている絵」を描くということだ。この「何かが欠けている」という情報は、この数十枚の絵画のように他に描かれるべき絵画があるという事実を仄めかしている。つまるところ、「何かが欠けている絵」を描くことは、「何か描かれていない絵がある」というメッセージを強調する役目を担っている。

あとは「何かが欠けている絵」において「人間」を欠けているものとしたことに、どのような意図があったかだ。別に人間以外が欠けていても良かっただろう、と思う人もいるかもしれない。

これに関しては、「信仰」の対象が画家という「人間」だからという理由で説明可能だ。作中では、描かれなかった具体的な絵画の例を「モナリザ」しか挙げていないので分かりづらいが、世界中の名画の例なんて幾らでもある。

永久井が描かなかった無数の絵画の無数のジャンルの中で、あえて自画像だけは描かなかったことをどう表現するか。自画像以外の全てのジャンルの絵画を満遍なく描けば可能……いや、現実的に無理だ。だから、たかが数十枚程度の絵画の中から人間を排除することで、描かなかった数ある絵画の中でも自画像だけは意図的に描かなかった、ということを表現したのだ。

結局、「自画像を描かなかった」に帰着させれば良いのである。如何にして「自画像を描かなかった」というメッセージに気づかせるかということに、永久井は注力したのだ。永久井自身が「自画像を描かなかった」ことを、一切の言葉も使わずに表現する際に取った手法が、特徴的な数十枚の絵画を描くということだったに過ぎない。

そして、「大切なものは目に見えない」というテーマがここにも生かされていることは、もう言うまでもあるまい。



以上で、美少年探偵団 第7話『「屋根裏の美少年」その2』のストーリー分析を終える。

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。遅くなり申し訳ございません。

基本情報

総評

第8話は、第7話と同様に陽桜莉回である。前回は陽桜莉とその姉の美弦がストーリーを牽引していたのに対し、今回は瑠夏がストーリー上重要な役割を担っている。内容的には前回と深く呼応しており、ぜひ7話8話と連続して見てほしい回である。

ストーリー

メインストーリーは以下の通り。
①陽桜莉が無理をして普段通りに振る舞う
②瑠夏が陽桜莉の姿に耐え切れず陽桜莉に説得する
③フラグメントが抜かれるのを二人が止めに行く
④陽桜莉が立ち直る

サブストーリーは以下の通り。
(ⅰ)百が美弦をバディであったことを確信し、皆に打ち明ける
(ⅱ)佳奈が自分を見失い、自殺を試みる
(ⅲ)陽桜莉が美弦との生活を思い出す
(ⅳ)仁菜と美弦がフラグメントの回収に向かう

大まかに言えば、前回第7話で陽桜莉が絶望した後の、そこから立ち直るストーリーである。陽桜莉が主役たる存在として、徐々に人格に色を帯びてきたと前回の感想でも述べたが、依然として欠けている要素があった。今回はその補完の役割を担う回でもある。

しばらく影の薄かった瑠夏が、今回では陽桜莉を立ち直らせるための反応剤となっている。決して自己完結的なストーリーにとどまらず、他者との関係性が主人公の成長物語に直結する構造が、今までの丁寧な積み重ねを一層実感させる。

分析

1. 陽桜莉の回想

まずはサブストーリー(ⅲ)に関して、陽桜莉の回想を見ていこう。

[18:00]「陽桜莉ちゃんち、かわいそうなんだって?」と聞かれる陽桜莉
ドストレートな語り口はまさに子供の無邪気さを物語っている。これを起点として回想が挿入され、陽桜莉の人格を際立たせる形となっている。

「お母さんがいなくなって、本当は悲しかった。だけどお姉ちゃんと一緒にいられることは嬉しくて、その生活をかわいそうと言われることが嫌で、人前ではいつも笑顔でいるように振る舞った。」

いわゆる「空元気癖」は小学生の時に既に具有しており、姉と最悪な形で再開した後も、他人を心配させまいと絶望を押し殺していた。結果的に、それが余計に瑠夏や都を心配させることとなってしまう。

[18:27]電球を付けようとする陽桜莉
この場面において、別に電気を止められていたわけではないことは、その後に生活の一部を切り取った場面が挿入されることから分かる。では、なぜ電球は付かなかったのか。

電球に関しては、第2話で一度言及されている。
[第2話 14:32]「母親は電球を買いに行ってそのまま帰ってこない」と瑠夏に話す陽桜莉
今では陽桜莉は新しい電球を買ったと話しているが、冗談交じりのこのセリフは、陽桜莉にとって電球がどういう意味を持つものなのかを浮き彫りにしている。

すなわち、電球は母の存在を意味するということだ。陽桜莉は第7話で百の冗談を信じていたことからも分かるように、素直すぎる性格なのだろう。小学生の陽桜莉は、家に帰るたびに母親が帰っているかどうかを確かめるべく、電球がつくか否かを確認していたのである。それは、当時の陽桜莉は母が戻ってくることを期待していたことを意味しており、電球がつかないことがそのまま悲しさに直結するわけだ。


2. 本題

さて、今回で具体的に陽桜莉がどう変わっていったのかを、これまでの展開を参照しつつ見ていこう。

陽桜莉について、前回までで分かったことを簡単にまとめると、「人の想いを抜き取るのは悪い」という陽桜莉の理念は、姉の存在によってもたらされているということだ。陽桜莉の行動が、ありきたりな救済願望や道徳的規範に基づいているわけではなく、姉がくれた信念によるものであるということが、陽桜莉の個性を色づけている。

しかし、陽桜莉が主役に足りる存在になるためには、必要なピースが不足していた。一つは、「嫌な思いを抜き取りたい人にとって陽桜莉の行動は救済とはならない」という主張に(作品が)反論できていないこと。二つ目は、陽桜莉自身が何をしたいかが分からないことである。第8話はまさにこれらを補完する役割を持っており、作品全体の根幹を成していると言えるだろう。


一つ目について。前回は「思いを抜き取りたい人のフラグメントを抜いて何が悪いのか」と問いかけた。それに呼応するように、第8話ではしっかり回答を用意してきた。

それは、思いを抜かれた者は自分を見失う危険性を帯びているというデメリットがあるということだ。

[2:58]フラグメントが抜かれそうになった時の思いを話す都
自分が自分じゃなくなるような気がして怖かったと述べている。

[11:45]「何、したかったんだろう」と涙を流す佳奈
フラグメントを抜かれると、自分が何に苦しんでいたかさえ分からなくなるようだ。その苦しみは、佳奈が自殺を試みるほどだ。

このように、美弦たちの救済にも危うさがつきまとうことを示すことによって、単なる私欲のために動いていた陽桜莉の救済の正当性が生まれている。

この点に関しては、主役の陽桜莉の成長物語というわけではなく、作品として陽桜莉を主役に置いたことの妥当性を裏付けるストーリーとして機能している。


二つ目について。陽桜莉自身が何をしたいのかということと、リフレクターとして活動したいということは、根本的に性質が異なる。なぜなら、リフレクター活動の動機はあくまで姉の存在がもとになっているからだ。

では今回で、陽桜莉はどう変わったのか。変わるきっかけとなったのが、瑠夏の存在である。

ここで効いてくるのが、(ⅲ)のストーリーである。陽桜莉は、周りから押しかけてくる憐憫や同情から距離を取るために、自分は幸福であると演じ続けた。自分の中には押し殺してきた思いがあり、受け止めてくれる存在が姉以外にいなかった。

そこで、陽桜莉を一番近くで見てきた瑠夏や都は、陽桜莉の空元気にすぐ気づく。瑠夏は陽桜莉の抱えた闇を理解し、自分の思いを大切にして欲しいと説く。

[11:00]姉のことを分かった気になってたと話す陽桜莉
しかし、陽桜莉がこれで立ち直るのにはまだもう一つ壁があった。それは、信じてきた姉が前に立ちはだかってしまい、どうすれば良いのか分からなくなってしまったということだ。

[20:27]フラグメントを守る陽桜莉の手の上にそっと手を重ねる瑠夏
そこでもう一度手を差し伸べたのが瑠夏だった。一連の瑠夏の行動によって、美弦や友達が自分の思いを守ってくれたこと、自分が自分でいられたことに気づき、自分の思いを守ることを決心する。

涙まみれになるほどに自分の願いを語った陽桜莉を、受け止めてくれる存在が瑠夏である。今回の瑠夏の役割は、今まで自分の思いを殻に閉じ込め周りに対して演じ続けてきた陽桜莉の、内に眠っていた思いを受け止める存在であるといってよい。言い方を変えれば、ひたすら他人のためと固執し上辺を装っていた陽桜莉の皮相を破り、本当の陽桜莉を出現させる役割である。


3. 要素

以下はまとめとして、第8話ストーリーに散りばめられた要素を列挙し、それが物語を形成する上でどんな役割を持っているかを見ていきたい。

まず、主軸をなる要素は以下の通り。
(A)姉と再会したことによる陽桜莉の絶望
(B)陽桜莉の悩み
(C)陽桜莉の復活
これらは、ストーリーを突き動かす役割を持っている。(A)→(B)→(C)で陰→陽のストーリーとそこに至る過程という構図ができており、どれが欠けてもストーリーは成立しない。

次に、補足的な要素は以下の通り。
(D)瑠夏の説得
(E)陽桜莉の回想
(F)美弦の救済の問題点の提示
これらは、メインの要素あるいは補足的な要素を修飾する要素であり、ストーリーの奥行を持たせる役割を持っている。一応、これら無しでもストーリーは成立するが、ストーリーの強度は下がる。

(D)は、陽桜莉の抱えた問題を他者が説得することによって、自己完結的なストーリーに留まらせず、陽桜莉の成長物語の論理性を補強している。(E)も同様に、陽桜莉にはもともと特定の性質(空元気癖と呼んでおく)があったと補足することで、陽桜莉の悩みが発生する必然性を高める役割がある。

ただ、(F)については特殊であり、陽桜莉のストーリーではなく作品全体を補強する役割を持っている。先程述べたように、陽桜莉が主役であることの妥当性を生み出しているのだ。今回この要素を生んだキャラクターは、主に都と佳奈であり、配役のバランスも良い。

最後にその他の要素をまとめる。
(G)百の単独行動
これは、今回のストーリーには直接関係せず、次回以降の展開につながるものである。


補足

残された伏線や謎は以下の通り

①「原種」とは何か?
②「原種」の発生条件は?
③謎の少女二人の正体と目的は?
④「AASA」の正体と目的は?
⑤第1話で電車の音に搔き消された百のセリフ、何と言っていた?
⑥美弦の目的は?
紫乃の正体と目的は?
⑧フラグメントを抜かれて失った記憶は戻るのか?
⑨仁菜のスーツケースの中身は何?
紫乃の能力は何?
⑪美弦とAASAの繋がりはあるのか?


これで、BLUE REFLECTION RAY/澪 第8話『パニック』のストーリー分析を終える。

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 感想(初日)

一回では物足りない。複数回見ればきっとそれだけ新たな発見がある。二回目以降やるか分からないけど一回目見た時点での雑な感想を置いておく。


ネタバレなしの感想

圧倒的な熱量と狂気を浴びせられる二時間。色彩や演出もバチバチに決まってて、最大瞬間風速で一気に全身叩きつけられる感覚が心地よい。堂々たる作家性を存分に発揮し、古川知宏ここに顕在と言わんばかりのオリジナリティを魅せてくれた。

作画やサウンドはさることながら、キャスト陣の歌唱力演技力も割増で大満足のクオリティだった。その進化は、物語の時間軸も進み成長した舞台少女の姿とリンクするものがあって感慨深い。これは劇中劇とは異なる『オーディション』の特殊性、メタ視点を活かしきった本作特有の感覚だろう。

TV版と同様、キャラクターの特濃の奥行きを引き出す配置関係も完璧で、群像物語として圧倒的な説得力がある。その中でひと際目立つのが愛城華恋で、彼女の決意の物語がド真ん中を突っ切っていった本作。それでも主役だけを立て他を埋没させることはなく、推しが誰であっても充実したものだったと思う。


ネタバレありの感想
(6/11追記)公開から約一週間経ってしまった......。初日にメモしてあることをまとめるだけだから実質初日の感想。

大前提として、うろ覚えだったり覚えていなかったり勘違いしていたりするシーンが結構あるため、何言ってんだこいつ状態になってしまうのはご容赦いただきたい。


1. 9人の舞台少女

TV版スタァライトは、華恋が主人公の物語というよりは、9人の舞台少女の物語という群像の側面が強かった。今回の劇場版は、主たるは華恋とひかりの物語であるものの、尺の半分(多分それ以上)をレヴューシーンに費やし、9人各々が抱えた葛藤をしっかり掘り下げてくれた。それは決して、TV版で成長した彼女たちを一旦未熟な状態にリセットし同じ展開を繰り返す焼き直しの手法をとったなどではなく、その変化を認めた上で描き切っていない部分を探しどう見せるかということに注力していた。それゆえ、レヴューシーンの決闘の組み合わせはいずれもTV版と異なるものであり、勝敗すらも全く予想がつかないような新鮮なものであった。そんなワイドスクリーンバロックであったことが、大変嬉しかったのだ。


2. 星見純那

最推しの星見純那がどう活躍するかを楽しみにしていた私にとって、純那とななのレヴューは目が離せないわけだが、事前に高まったハードルをゆうに超えてきた。

星見純那。TV版では1話2話とオーディションで敗北するという、言わば「負け役」だった彼女。それを現実に写し取っても決して誤りという訳ではなく、彼女なりに舞台の頂上を目指すも他のメンバーの煌めきに届くことは無かった。

そんな純那ちゃんが、スクリーンバロックでは唯一武器を持ち替える。舞台少女の武器にはそれぞれ個性があって、短剣だったり二刀流だったり斧だったり薙刀だったり弓だったりする。これは単なる記号的なキャラ付けという訳ではなく、演者としてそれぞれが持つ強みが違うということも示しているのだろう。だが、彼女はその武器を捨てて新たな武器を持った。それは、演者となる上で培ってきた自分の強みを手放して、別の道を歩むことを決意した彼女の姿ではないだろうか。他のメンバーが演者の道を進む中で、彼女は自分が最大限輝ける場所を見つけ目指すと決意した。それは何度負けても諦めずに煌めきを探し続けた結果だ。

一方のななは過去の煌めきに囚われ続け、時が戻らない限り届かない方へと憧れを寄せる。そこでななに向けられた純那の決意は、純那自身を主役たる存在へと昇華させるものであり、過去に閉ざされたななに新たな煌めきが差す。だからこそ、純那がななを打ち負かす結果には納得がいく。そんな感じの純那ななのレヴュー。いやーとても良かった。


3. 愛城華恋

レヴューシーン以外の多くの尺は華恋とひかりの過去に充てられる、という劇場版の構成。二人の過去が濃密に語られたことによって、ワイドスクリーンバロック最終章は最高潮の盛り上がりを見せてくれた。

二人で目指せトップスタァライト、それを終えた先に何があるのか。端的に言えばこんな感じのストーリーで、「卒業」がテーマとなっている本作において、華恋は一体何から卒業したのか。

第100聖翔祭を終えるまで、彼女はひかりとトップスタァになるという約束を信じ続け、結果として二人は見事に演じ切った。その後彼女は、ひかりのいない舞台に何一つ充足満たせず、何も目指すもののない空虚な存在になってしまう。提出された白紙の進路表が、「約束」に囚われ続けた彼女の内心を表しているのだろう。

こんな感じのキャラクター造形、どっかで見たぞ……と思い浮かべたのが『Persona4 the Animation』の鳴上悠と、『やがて君になる』の七海燈子だった。これらの人物に共通するのは、とある大きな目標があってそれが達成されたらを自分は自分でいられるのか、「空っぽな存在」となってしまうのではないか、という問題提起がなされたことだ。

華恋の話に戻すが、それが具体的にどういった経緯で解決し、「アタシ再生産」に至ったのかは実際のところよく分からない。とはいえそれはそれで結構。そもそも根拠なしに気が晴れることもあるし、意図的にそこら辺あえてぼかしている感じもする。まあ、もう一回見ればいい話だ。


4. 卒業

華恋の曖昧性とは裏腹に本作が持つテーマ性というものは、幾分かハッキリしていたと思う。これは公式から明言されている通り「卒業」であり、舞台少女たちは、愛城華恋は一体何から卒業するのかという問いを投げかけてきている。そこにはおそらく色々な解釈の余地があって、受け手には受け取り方の自由が保障されているとは思う。それで、私が考えるに「他の力を借りることや他人に従属することからの卒業」、言い換えれば「自立」というテーマは、今回劇場版の本筋となっているのは間違いないだろうとみている。

レール上を走る「列車」のシーンが度々あった。華恋の乗る列車だけは止まることなくずーっと走っていたような。ひかりとの約束があるうちはきっと降りる駅が決まっていて、その駅を目指すうちは自分を見失わずに済んでいた。「約束タワー」の鉄骨をレールに見立てて列車を走らせるっていう最高の場面があったんだけど、頂上(約束の場所)に達したときに華恋は目的を見失うことになる。

そこでひかりとのレヴューになるわけだが、結果的には「約束タワー」を真っ二つにする。一種の呪いとして華恋に付きまとっていたひかりとの「約束」に囚われた自分を否定する。そして、自らの意思で舞台少女の道を進む、まさに「アタシ再生産」となるわけだ。

自らの意思でっていうのがポイントで、今回のメインエピソードを飾る華恋の決意だったり、偉人たちの言葉を引用してきた純那ちゃんが「他人の言葉じゃダメ」といってななを突き動かしたり、それぞれが進路表について先生と面談したりと、「自立」を思わせる描写が至る所にあった。多分、そういう話だったんじゃないかな。


5. 運命の否定

ここから先は妄想の域を出ない。私は、裏のテーマとして、「誰も予想がつかない煌めき」を崇高なものとする、いわば「運命の否定」というものがあったと考える。誤解を生まないように述べておくと、「運命論」を否定することではなく、示された未来に向かっていくのは面白くない、というスタンスを一貫して取っているということだ。

二つのキーアイテムを参照したい。「ひかりが華恋に渡した手紙」と「約束タワー」である。ひかりから託された手紙は、華恋にとって、二人でトップスタァを目指す夢を与えてくれるもの、逆説的には華恋とひかりの運命を縛り付ける呪いとして、何年もの間華恋の手元に置いてあった。「タワー」は頂上がある建物として、二人の目指す場所(運命の場所)を視覚的に分かりやすく表現するものであった。華恋が「ひかりはもう戻ってこないんじゃないか」と不安を感じた時の塔の頂上は、うっすらとぼやけていたりもした。「手紙」も「タワー(の頂上)」も、華恋とひかりの運命を示唆する一種の小道具であることは間違いない。

ラストのレヴューシーン。「手紙」は燃やされ、「約束タワー」は破壊される。先に述べた通り、これは華恋の決意を表す描写であるのは確かだ。だが、作品全体を俯瞰する形を取った場合には、「運命の象徴」を破壊するシーンであり、誰にも予想がつかない未来を示唆する描写と読み取ることも出来る。特に「約束タワー」に関しては、ただ破壊されるだけでなく、頂上が地面に突き刺さるような描写がなされており、「運命の否定」がより強調される形になっている。

メタ構造の話をすれば、キリンこそが我々視聴者の分身であり、キリンの主張がそのまま作品の主張になりうる可能性を帯びている。キリンが「誰にも予想がつかない舞台の煌めき」を探し求めているのは、TV版から一貫しているということはご存じの通りだろう。そこで、キリン→我々と置き換えると、「舞台」とは、まさに『少女歌劇 レヴュースタァライト』というコンテンツそのものであり、「予測がつかない『レヴュースタァライト』」が描かれる(示唆される)という結末は、非常に合点がいく。だとすれば、華恋の進路表が白紙であったのも、彼女の虚無を描いたものではなく、華恋が進む運命を一切描かないことによって、我々視聴者が自由に解釈出来る余地を与えていたということではないだろうか。そう、決められた未来は面白くないのだ。


6. 余談

予定より大分長くなってしまった……。とりあえず言えることは、もう一回見たいと心の底から感じさせる劇場アニメであったこと。素晴らしい作品を作ってくださったスタッフの方々に感謝。


やっぱり星見純那が好きだ。生徒会長だったというまさかの新事実。『恋×シンアイ彼女』の感想でメインに語ってるキャラもそうだけど、俺はきっと生徒会長キャラとか委員長キャラに滅法弱いんだと思う。

【ストーリー分析】BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』(感想・考察)

BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』

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はじめに

原作ゲームは未プレイ。

基本情報

  • 監督:吉田りさこ
  • 脚本:水上清資
  • 絵コンテ:高田耕一
  • 演出:則座誠
  • 総作画監督:音地正行、坂本哲也
  • アニメーション制作:J.C.STAFF

総評

第7話は、異なる陣営同士が衝突する回。一度見ただけでは、登場人物が抱え込んで真相を明かされない部分にモヤモヤが溜まるところがあるかもしれない。しかし実際は、抑えるべき点は抑えているので、ストーリーの強度は高い。さらに、物語全体の問題提起がなされた回でもあり、非常に重要な回と言えよう。

ストーリー

まず、ストーリーを時系列順に並べてみる。

①詩が放心状態の仁菜に話しかける
②陽桜莉たちが百の言動の違和感を探る
③陽桜莉が瑠夏に姉との過去を話す
④陽桜莉たちが詩を探しに七夕祭りに行く
⑤瑠夏と百がコンビニで話す
⑥佳奈の友達(PN.あゆあゆ)のフラグメントが抜かれ、戦闘へ

自殺を見過ごした後悔から克服すべき弱点を見つけた瑠夏、親との関係を断ち同じ境遇に悩む者を見つけた都、過去を断絶され真実を求め続ける百、個別で過去を語られた詩も仁菜も。それぞれ自身が掲げる信念のもと活動しているのに対し、陽桜莉は「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という道徳的規範を大義名分とし、それのみを行動原理としていた(ように見えた)。主役たる存在として明らかに何かが不足していた陽桜莉、そんな彼女についての情報は意図的に伏せられていたようにも見える。

だが、今回のエピソードを通して彼女の人格は徐々に色を帯びてきた。詳しくは次項で見ていくことにしよう。

分析

1. 陽桜莉

本作における陽桜莉の立ち位置はどのようなものなのか。今回で初めてハッキリしたといっても良い。

今まで陽桜莉は、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という、比較的世間一般に共有されている道徳的な感覚に基づき、フラグメントが抜かれることを阻止してきたように描かれた。先に述べておくと、これは何も悪いことではない。主人公は視聴者を作品世界へと誘導する役割がある以上、陽桜莉と我々視聴者との感覚に溝を作ってはならないため、共感を生みやすいキャラデザにすることはむしろ創作のセオリー通りである。

だが、今回に至るまでの陽桜莉には明らかに主人公として不足していた要素がある。それは、人物の背景だ。人物の背景というものは、いわばその人の人格を形成する基盤であり、個性を生み出すためのツールにもなる。それが描かれなかったために、陽桜莉の行動理念はありきたりの救済願望にしか基づいていないように見えた(実際は違った)。つまるところ、主人公は陽桜莉である必要がなかったのだ。とある道徳的規範に基づいて行動する人物ならば誰でも良いのだから。

そこで挿入された第7話であるが、陽桜莉とその姉美弦との過去が語られたのである。前回までにしっかり他のキャラクターを掘り下げていたし、ここで明かされたのはグッドタイミングだった。具体的にシーンを追って見ていこう。

[8:51]「母に会いたい気持ち」を短冊に書く陽桜莉と美弦
陽桜莉と美弦は、幼いころに父親を亡くし、しばらくして母も行方不明になったという設定がある。美弦は陽桜莉を何よりも気にかけて生活し、陽桜莉にとって美弦は母のような存在でもある。

当然、父母を失ったことによる心の傷というのは陽桜莉の中にはあって、それは今も昔も変わらない。(今は、姉とも引き離されたことの苦しみも抱えている。)

[7:40]雨の日の屋上に陽桜莉を連れていく美弦
[8:45]「二人はきっと会える」と陽桜莉に諭す美弦

天の川の対岸にいる織姫と彦星の例え話ではあるが、陽桜莉たちとその母の関係性を示しているとみて間違いない。美弦は、自分たちが母に会える可能性を陽桜莉に説いたのだ。

[22:33]「お姉ちゃんに会えますように」と書かれた短冊
このシーンから、陽桜莉の姉に対する信頼が見て取れる。「きっと会える」という姉からの教訓をもとに、「自分の希望」が叶うことを信じて追い続けている。

ここで構造的に重要なのが、陽桜莉の「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」という思考の拠り所となる理由は、姉である美弦によってもたらされたものであるということだ。

前述した通り、陽桜莉は母を亡くしたことに心の傷を負っている。姉である美弦は具体的な心情描写がなされていないものの、短冊の願いを考えれば陽桜莉と同様に苦しみを抱えていただろう。

そんな中、美弦が陽桜莉にした例え話は、辛い現実に直面しながらも、いつか願いが叶うという「希望」を象徴するものであった。しばらく経って、両親だけでなく姉とも引き離されても、「姉に会いたい」という願いを短冊に書いている場面から、陽桜莉の「希望」を追い求める姿勢は依然として残っていることが分かる。

その人にとってのトラウマがあっても、受け入れて頑張って生きていく。そして、その先の輝かしい未来を信じる。陽桜莉は姉である美弦の存在を受けて、信念を形成するに至ったのだ。これで、彼女にとって姉という存在が、彼女の人格を支える柱となっていることが理解いただけるだろう。

一方で、フラグメントを抜くという行為は、辛い現実に耐えられなかった者の、一種の現実逃避の手段としての精神的医療行為だ。その内容は、辛い過去を無理やり忘れさせ、なかったことにするというものだ。

そして陽桜莉の信念は、母の不在という現実を受け入れず、ただそれを忘れたいといった現実逃避的な思考とは対極にあるものである。

そのため、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」というのは、単なるありきたりな救済願望とか、一般的な道徳や倫理の観念とかに基づいているわけではなく、姉の存在がくれた信念とその姉に対する信頼関係によるものが大きいということだ。

この背景が、主人公である陽桜莉が真に主人公であるための重要な仕掛けとなっているのである。陽桜莉が「お姉ちゃんガチ勢」であることが分かったからこそ、その後の展開による陽桜莉の心情の変化にも説得力が増す。

そのストーリーは極めてシンプルだ。陽桜莉にとって精神的支柱であった美弦が陽桜莉の信念を否定し(フラグメントを抜き)、自分を一瞥だにせず去っていく。そんな景色を目の当たりにした陽桜莉は立っていられないほどに絶望してしまう。

このあたりの説得力は、陽桜莉の大義名分が姉の影響を受けたものであるかとそうでないかで大きな差がある。

このように第7話は、陽桜莉を主役に添えた物語の陽桜莉回として、高い完成度を有しているのだ。

ちなみに、雨の日の屋上は、第2話で陽桜莉が瑠夏を誘った場所である。「ここね、雨の日は特別なんだ」と陽桜莉が瑠夏に言った意味が明かされた。


2. 仁菜

副次的な要素であるが、仁菜についても整理しておこう。

[3:23]仁菜を「生ける屍」と称する詩
仁菜はしばらく放心状態である。「お姉さんは仁菜ちゃんに何を見せたのか」という詩の問いに答えないどころか、詩の質問にぴくりとも動かない。これでは、上記の答えの手がかりが掴めない。

[6:41][7:03][9:02]陽桜莉の回想シーンに付け加えられる仁菜のカット
演出的に考えれば、おそらく仁菜が美弦の心の中に見たものは、この陽桜莉の回想と同じものなのだろう。逆にそうでなかったら明らかに不自然な演出なので、確定したとみて良いかもしれない。

[17:41]詩を攻撃し、陽桜莉にタイマンを申し込む仁菜
明らかに陽桜莉に敵意むき出しの仁菜。一体陽桜莉の何が許せなかったのか。

想像の域を出ないが、仁菜は陽桜莉が美弦の思いを踏みにじっていると感じたのではなかろうか。

前提として、仁菜が美弦の心の中で見たものは、陽桜莉の回想シーンと同様のものだったと仮定しよう。その中で描かれたものは、陽桜莉と美弦の互いに対する思いやりや信頼である。

おそらく美弦は、リフレクターとなった今でも陽桜莉のことを大切に思っていて、フラグメントを抜くという行為も陽桜莉のためを想ってやっていることなのではないだろうか。それがどういうカラクリなのか、我々はまだ知る由もないが。

仁菜が美弦の陽桜莉に対する思いやりを知ってしまったからこそ、今の陽桜莉の行動は美弦の想いを理解していないものであり、それが許せないという感情にシフトした、と考えるのが自然だろう。

仁菜の描写の曖昧性は、上記のように考えれば美弦の陽桜莉に対する思いやりを示唆しているとも捉えられるのだが、その真相はまだ分からない。


3. 問題提起

第2話あたりで既に浮かび上がっていた方向性なのだが、今回でより具体的な形を帯びてきた。

端的に言えば、「勝手に人の思いを抜き取るのは悪い」派と「嫌なトラウマは記憶ごと消して楽になるべき」派の対立である。

[21:40]「思いを抜かれて楽になった」人々に詰め寄られるシーン
「私たちの邪魔をして何が楽しいのか」「これから先も苦しい思いをしながら生き続けろと言うのか」と主張する女性たちであるが、これに対して主人公サイドはどのような答えを導き出すのか。

功利主義的には敵サイドの主張もまっとうだが、目先の利益に飛びついているだけの苦し紛れの選択のようにも見える。かといって、苦しみを耐え抜いた先に何かあるのかと言われれば、それは分からない。がんばれ、お花ちゃんたち。


今後の展開が、非常に楽しみである。



以上で、BLUE REFLECTION RAY/澪 第7話『お願いだから欲しいものを手に入れさせて』のストーリー分析を終える。